今日も朝は晴れている

蛍火(ケイカ)

第1話

今朝姉貴が死んだ。とても晴れた日の事だった。涙が止まらなかった。心臓発作だった。あんなに元気だった奴の最後がこれかよ。命とは儚いものだな。姉貴はとても良い奴だった。優しかった。ちょっと頭が悪い所もあったが、そこもあいつの個性だと今なら思える。

「海君、準備できた?お葬式行くよ。」

母の声だ。母の顔に涙はなかった。我慢しているのだろう。その証拠に手がさっきからずつと震えている。そりゃそうだ。だっていきなりの事だもん。泣くのを我慢するなんて僕には無理だ。

「海!そんなに男の子が泣くんじゃありません!朝子も海が泣いてる姿見たら悲しくなるでしょ!」

沙也加姉さんが僕にそう言った。何言ってんだよ。お前だってさっき自分の部屋で散々泣いてたじゃねえか、聞こえてるんだよ。

「わかった。」

僕は泣きながら答えた。僕の家には父さんはいない。僕が2歳の頃に病気で亡くなったらしい。小さい頃の事はあんまり覚えてないや。

涙を拭いながら外の車に向かう。すると「ワンワンっ!」という鳴き声がきこえた。ペットのちくわだ。そういえばこの名前付けたのも朝子姉さんだっけ。懐かしいな。真っ黒でとてもちくわには見えない。なのになんでちくわなんて...今となっては笑い話だがな。

僕はちくわを撫でて車に乗った。途中で朝子姉さんとの思い出がふと蘇る。

一緒に小学校まで登校したこと、夏祭りに行ったこと、家の屋根に登ってお母さんと沙也加姉さんに怒られたこともあったっけ。そうこうしていると葬式場に着いた。親戚の人がいっぱいいる。葬式場にはいり、お焼香をあげた。お通夜が終わると僕は朝子姉さんの姿を見に行った。とても笑顔だ。今にも起き上がって来そうだ。すると後ろから声がした。

「生きてる時もマヌケなら、死に方もマヌケだな!」

小学生ぐらいの少し声の高い男の子だ。一瞬でわかった。空だ。こんな事言うのあいつしかいない。そう思った。

案の定、僕の予感は当たった。正直頭にきた。だが僕もここは抑えた。相手はたかが小学四年生だ。でもそう思うより先に体があいつの胸ぐらを掴んでいた。

「おいおい、海、何するんだよ。俺は本当の事を言っただけじゃないか!」

運がいいのか悪いのか、周りに大人たちはいない。僕と空2人だけだ。

「おい!空!お前な!言っていい事と悪い事があるだろ!確かに姉貴は勉強ができないど阿呆だ!たまに宿題を忘れる事もあった。でもあいつは僕ら姉弟の約束を守らなかった事はなかった。あいつは良い奴だったんだよ!姉貴の悪口を言ったら俺が許さねえ!わかったか!」

空は半泣きで逃げていった。きっと親に助けを求めに行ったのだろう。

この日は気分が悪かったので帰った。

次の日の朝起きると時計は5時半を指していた。いつもはこんな早く起きない。リビングに行くと、朝に弱いはずの沙也加姉さんが外を見ていた。

「海、おはよう。お姉ちゃん、なんか起きちゃった。」

「そうか、朝子姉さん、天国でも笑ってるといいな。」

「きっと笑ってるよ。だってほら、こんなにも空が晴れてるのだから。」

僕が窓から外を見ると雲も全くない青天がそこにはあった。

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今日も朝は晴れている 蛍火(ケイカ) @sakuyahimesinja

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