第3話
入試当日。
無駄に格好良い受付の人に、突き当り左に行くと廊下がありますから6と書いてある教室に入って好きな席で座って待ってて下さいと言われたので、大人しく言われた通りに教室に入り、最前列の真ん中に陣取ると、遅れて隣に座ったやつが話し掛けてきた。
「なんでこんな特等席なんだよ。」
「眠くなりにくいよ。」
「薬かよ。まぁ一理あるのでここはタキ先生に従っておこうと思います。」
「先生はやめてくれといつも言っているじゃないか。」
入口からここまでの教室はもう人がいっぱいだったし、そもそも俺達が並んでる最中も続々と集まってたから、やっぱ人気なんだろうな、魔法使い。受かれば条件は良いし、卒業さえすれば職も得られるとなれば、俺でも行く。来てる訳だが。自分の動機は解らないけど。
「自分は見つかったかね?」
「待ち合わせ場所に可愛い彼女と手を繋いで来て、ちょっと行ってくるうん頑張ってねなどと言いながらチッスを交わす俺を見てないなら。」
「見逃したのかもしれない。」
「では入試終わったら校門の前で不安気に待つ美少女が俺を見つけて笑顔で駆け寄ってきてお疲れ様どうだった?などと言いながらチッ「お待たせしました。これより私立ロクラーン魔法学校入学試験を行います。」
「受付イケメン。終わったらちょっとあとで飲もう。」
「イケメン了解。」
ーーはい、では前から順に用紙をお配りしますので、配られたらそのまま、あっ、筆記用具を机の上に置いてからで良いですけど、こちらから合図があるまで用紙には手を触れずに居て下さい、あっ、全員に行き渡りましたか?用紙が無いって人はいませんか?大丈夫ですね?はい、では流れの方を説明させて頂きます。合図がありましたら、まず用紙を裏返して真ん中に自分の名前、自分の名前ですよ?自分の名前をはっきりしっかり書いて下さい。で、書き終わりましたら、こちらに置いてある箱の中に入れて元の席に戻ってください、折らなくても結構です、良いですか?折らなくても結構ですのでこちらの箱に入れてください、では始めますよ?よぉい、はじめっ!はいっ、皆さん書き終わりましたか?こちらの箱ですよ?全員入れましたかね?では、15分間の休憩とさせて頂きますので、少々お待ち下さい……。
「…なぁタキ?」
「当ててやろう。誰の休憩?」
「正解。」
「受付イケメンのじゃない?」
「イケメンは疲れるからな。知らんけど。しかし、まさか名前書いただけで受かったり落ちたりするんだろうか?」
「用紙が魔法紙なんじゃない?ちょっとあったかいような気がしたんだけど。」
「そんなことあったかい?」
「あったかい?じゃないよ。あれ?気付かなかった?熱いまではいかないけど。」
「外寒いから手が冷えてたんじゃない?」
「そんなことあったかも。」
ーーはい15分経ったので、あ、皆さんいらっしゃいます?隣の人が帰って来てないとか、大丈夫そうですね、では、合格者の名前を読み上げますので、呼ばれた方は入口に立っているあちらの職員からカードを受け取って下さい、そうしましたら、正面玄関、あ、あちらの職員から説明を受けてそちらに従って下さい、では……。
「受付イケメンに謝らないとな。」
「まさか超特急で合否を決めてやってくるとは。」
「イケメンで勤勉とかすごい。」
「どっちが先に呼ばれるか勝負だタキ。」
「負けた方が今日一品作るのね。」
「呼ばれなかったら「タキ・トルトさーん」
「わたし今日は鶏肉って気分なの。」
「わかったからはよいけ。」
ーーはい合格おめでとうございます。ではこちらのカードを持って向こう、正面玄関を通り過ぎた右手の部屋で「シン・オズさーん」大丈夫ですか?身体測定を受けてくださいね、制服を作りますので、我々と同じ白の詰襟です、で、終わりましたらまたこちらへ戻ってきて下さい、また入学後の話がありますので……。
伸びたも太ったも無いのは寂しいものだ…。
ーーはいお疲れ様でした、では皆さん揃いましたら入学後のクラスを決める為の試験をしますので詰めて座ってお待ち下さい、あ、揃いましたかね?ではこのまま試験をしますね、ではまた前から順に用紙を配りますから、合図があるまでお待ちください、用紙が無い方はいませんか?はいそれでは、試験を始めますので、用紙を裏返して真ん中に自分の名前をお書きください、書いた人はこちらにある箱に折らずに入れてください、先程と同じですね、あ、もう終わりました?ではこちらへ、そうしましたら15分間の休憩を入れますので、15分後にまたこちらへ来てください……。
「イケメン勤勉、俺小便。」
「行ってら。やっぱ俺も行くべん。」
「シンべん。」
「べべんべん。」
ーーはい、では皆さんお疲れさまでした、これにて全ての入学に関する工程が終了しました、クラスは入学式の日に掲示板に張り出されますから、楽しみにしていて下さい、制服は3日後には出来てますから、こちらの生協で受け取ってください、皆さんとこれから学び続ける仲間になれることを大変嬉しく思っております、以上で入学試験を終わります、本当にお疲れさまでした……。
「休憩必要だったか?」
「イケメンは疲れるからな、知らんけど。」
「さ、ちょっとあとで飲む為に食料品を買おう。トマトに鰯の塩漬けとチーズを乗せて焼いてくれ。」
「鶏肉どこいった。合格祝いだし、ばばんとやろう。」
「そこはべべん、だろう。」
「昼前だけど晩御飯も同じですし。」
「ばばんで勘弁してやろう。」
「勘弁べべん。」
「ばんべべん。」
トマトに鰯の塩漬けとチーズ乗せて焼いたやつと、甘くてキツい酒の組み合わせは、絶対に体に悪いのだけど、脳が震える程美味いよな。
「それではタキさん、お互いおめでとんぱい。」
「とんぱい。今日の試験さ、割と落ちてるやついたよな。」
「俺達の教室は半数どころか4分の1も残らなかったかもしれんね。お陰でそのあとはスムーズだったけど。」
「何でだろうね?まさか名前を書けなかった訳でもなかろうに。」
「20歳で名前書けないのは流石に落ちても仕方ないんだがな。」
「学校入ったら合格基準とか教えて貰えるのかな?」
「どうだろ?合格基準とか聞いたことない以上、対策を取られると困る何かだったりするんじゃないの?」
「説明会から試験まで1週間。その間に何が出来るか。」
「1週間か。何かを成し遂げるには短いが、何でも出来る気もするな。」
「肉まんを食べる。俺は8個食べた。」
「1日1個までって言ったでしょ!」
「結果、俺は受かりました。シンは何個食べた?」
「1個。」
「肉まんを食べたかどうかで合否が決まるとは。」
「多分肉まんじゃないよ。」
「多分、と保険付けて、自信が無いのが透けて見えてますよ。」
「肉まんが獲れなかった年は合格者が少なくなってしまうだろ。」
「年々捕獲数が減ってきているのは環境が悪いせいと聞き及んでいる。」
「まぁ!それはそれは…ささ、先生どうぞお召し上がりください。」
「これはこれはありがとう。君も飲みなさい。さて、肉まんじゃないとすれば…。」
「すれば?」
「おっぱいである。」
「ずこー。」
「先日、ある筋から、肉まんはおっぱいではない、という話を聞いた。これは言い換えれば、おっぱいは肉まんじゃない。そして、合否は肉まんじゃない。なるほど、おっぱいは合否。」
「まさかタキにおっぱいがあったとはね。」
「シンにもね。」
「待て待て、落ちたやつにおっぱいがあるのかもしれん。」
「確かに。俺達には現状無い訳で、おっぱいの無い俺達が受かっている。」
「受かった他のやつにおっぱいはあったか?」
「そこまでは確認せなんだ。」
「かくいう俺も確認せなんだ。」
「観察不行き届きだな。」
「クラスはなんだろう?」
「知れたことよ、サイズである。」
「おかしいだろ、無いやつが合格してるんだぞ。」
「そこを突かれると痛い。」
「痛かろう。」
「サイズ説を通すと、我々におっぱいがある。」
「おっぱいから離れようぜ。」
「勝手に離れろ。俺はおっぱいに寄り添う。」
「おっぱいに寄り添うという言葉のあまりに美しい響きに、そっち側が少し羨ましくなってしまった。」
「もしや、おっぱいを触ったことの有るやつ無いやつではないか?」
「俺は無い。お前も無い。」
「俺は多分ある。お前は姉ちゃんので良いや。」
「姉ちゃんのも無いよ。あと姉ちゃんのが軽いみたいに言うな。そしてお前も無い。無いんだ。」
「では仮に、合格者はおっぱいに触ったことが無いとします。」
「問題ありません。ではクラスはどういった見解で?」
「サイズです。」
「もう無理だ、やっぱおっぱいは無理だ。」
「無理やり触ってはいかん、という教訓だな勉強になったわ。」
「この議題はまたいずれ深く話し合う時が来るだろう。」
「おっぱいに触った時だな。悔しいことにお前の方が先に辿り着けそうだが。リズィちゃんのおっぱいによろしく言っておいてくれ。」
「リズのおっぱい紹介することはないけどな。でも俺は早くて10年後よ。お前の方が早そうだ。現場の様子を生々しく伝えておくれ。」
「いやお前、10年経つ途中、おっぱいくらいは触っても罰当たらないだろ。」
「いやお前、1回触ったらもう1回触りたいだろ?2回触ったら2回も3回も変わらないだろ?100回触ったら繰り上がってやっちゃうだろうが。」
「乳繰り合って乳繰り上がる。」
「言葉のグルーヴ感が凄い。明日から使わせて貰うわ。」
「おう、使え使え。そしてもう寝ようぜ。片付けは別に良いよ。明日は遅いんだ。」
「いつもじゃねぇか。じゃ、またな。お邪魔しました。」
おっぱいか。
おっぱいの前に恋人。
恋人の前に女の子の知り合い。
女の子の知り合いの前にお風呂。
お風呂の前に寝る。
手順は完璧なんだがな。
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