【毒】感電

 コナンかよ、という話だ。

 あやしい薬をかがされ、気付いたら小さくなっていた。

 ただ子どもになるというのならまだましなのだが、いまの姿というのがもう。

 猫。

 どちらかといえば漱石かもしれない。


 猫やカラスとの死闘、路上をさ迷わざるを得なかったことに関してはまた別の機会に記すとして、とにかくわたしは家で飼われるようになった。

 猫街せいろ。

 きっとわたしがわたしのままだったなら、お互いにこうはならなかっただろう、という人間だ。


 いくつかの迷いがあった。

 まず、猫の姿なのに喋れるということを隠すかどうか。

 次に、わたしがわたしであるということを明かすべきか。

 まあ、結局はすべてばれてしまって今に至るのだけど。

 反応も、「え、まじ、喋る猫って魔法少女のマスコットみたいな」から「いやまじねーわ」になり、それはこっちの台詞だという話なのだが。

「ま、でもちょうど良かったわ」

「どういうこと」

 ぽん、と音が立つような気軽さでわたしの目の前に置かれたのはボロボロの洋書。ペーパーバックではなく、きちんとした装丁で、現役当時はたいしたものだったのだろうと思えるような一冊だ。

「最近、黒魔術にハマってて」

「嫌な予感がするのだけど」

「生け贄に喋る猫だなんて、御利益ありそうじゃない」

「御利益でいいの、それ」

 黒魔術だなんて、そんな怪しいものに利用されて死ぬのはごめんだ。というか、利用されて死ぬのは嫌。猫は何よりも自由を求める気高い生き物なのだ。

 いや、そうではなく。わたしは人間に、元の姿もとの生き物へと戻るのだ。少し猫の思考がまわってきているのかもしれない。にゃあ。

「嫌なら出て行きなさいよ」

「それはそれで嫌」

「何なのよ。どうせ生け贄にするんだから、魚じゃなくてあんたを干物にしてもいいのよ」

 猫のミイラ。

 自分がなるということを棚上げしたとしてもあまり想像したくない。というか、どうやって作るんだ。

「ほれ、ちゅーるやるからさ」

「そんな文字通りの餌で喜ぶとでも」

「お前の尻尾めっちゃ喜んでるが」

 これだから猫は。いや、自分のことなんだけど。

「魔法陣の真ん中にツナ缶置いておけばいいかな」

 完全にナメられている。にゃあ。

 猫街は、むにゃむにゃ言ってるようにしか聞こえない呪文を唱えだした。

 しょうもな、やっぱり出て行った方がいいだろうか。でも保健所はいやだなあ。

 そんなことを考えているうちに、本が光り出した。

 いや、ウソでしょ、目の前に広がる特撮もCGもびっくりな禍々しい光にドン引き。

 ぱくり。

 あ、猫街が食われた。

「わたしを召喚したのはそこの貴女かしら」

「いま貴女がぱくっといったやつです」

「あら」

 あらあらあら、と漫画みたいなリアクションのあとに、「猫街さんだから間違えちゃった」と、男ウケしそうなしゃべり方で言った。

 こんなところで意識しても仕方ないだろうから、天然なのだろう。

「じゃあ代わりに貴女、何か願い事はある」

「命とか取られるんですかね」

「いまもらったから」

 あー。

「じゃあ、元の姿に戻りたいんですけど」

「おっけー」


 そうしてわたしは家に無事帰ったのであった。

 めでたしめでたし。にゃあ。

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