第2話

 ようやくバスが来る。

 皆がバスに吸い込まれ、早智子も来たバスに乗っていった。

 あいをんさまがどうしても気になっていた早智子は、向かい側にいたあいをんさまを見ていたが、そのままベンチに座っている。

 皆を見送る様に。

 乗っていくのを見送った後、あいをんさまはゆっくりとした足取りでどこかへと行ってしまった。


 バスに揺られながら、早智子は昔を思い出す。


 早智子は小学生の時、祖父母の家に預けられて育った。

 両親が海外に行く事になったのだが、早智子は海外に行くのが嫌だとわめいたので祖父母の元に預けられた。

 田舎にやってきた都会の転校生は、すぐに田舎に馴染みクラスに溶け込んでいった。

 

 早智子は都会よりも田舎の方が水に合った。

 余所者だった早智子を田舎の人々は手厚く見守ってくれた。

 都会のごみごみした環境に比べれば、自然が溢れている。

 山と川を駆け巡り、元気一杯に育っていた。


 早智子はある時、祖母と一緒に散歩をしていた。

 田舎の里山に通された坂道の道路を上り下りしながら、ふもとにある祖母の知り合いがやっている商店に行こうとしていた。

 柔和に笑っていた祖母の顔が、突然険しくなった。


「どうしたの、おばあちゃん」

「しっ。見てはなんね」


 祖母は目を伏せて、この先に居るものと目を合わせないようにしていた。

 早智子はその方向をちらと見る。


「縺シ縺上??滂シ滂シ滂シ滂シ滂シ滂シ溘→縺?>縺セ縺吶??繧医m縺励¥縺翫?縺後@縺励∪縺」


 田んぼのあぜ道をゆっくりと歩いている、白い人型の物体が立ちながら何か音を発してる。目はないが、遠くを見ているように顔を上げながらこちらに向かっている。

 

「ねえおばあちゃん、あれなに?」

「見るなっつってるべ!」


 早智子はびくっと体を震わせ、祖母を見上げる。

 いつも優しい祖母が激しい感情を見せたのは初めてで、早智子は目じりに涙を浮かべる。

 やがて白いそれとすれ違った。

 早智子たち二人は目を伏せながら歩くが、白いものは覗き込むように二人を見ている。

 特に子供である早智子を。

 得体の知れない圧を早智子は感じた。

 首を傾げながら、興味深そうに早智子を眺めている白いそれは、無視をし続ける二人に興味を失って首を前に向け、ゆっくりと歩く。


 ほう、と息を吐いた早智子。


 その時、ぐるりと白いものは振り向いて早智子の手を掴んだ。


「いやあっ!」


 早智子が叫ぶ。

 子供では振り払えない力でもって、自分の方へと引っ張ろうとする。

 

「やめんか、このけだものめ!」


 老人にも関わらず、素早い身のこなしで白いものの手を振り払う祖母。

 祖母が白いものを睨みつけるが、その眼には何らかの感情がこもっているように見える。

 

「縺倥c縺セ縺吶k縺ェ」


 瞬間、全身を真っ赤にした人型のものは、祖母の手を叩き落としてそのまま走り去った。

 叩かれた祖母は、うめきうずくまって脂汗を流す。

 

「おばあちゃん、大丈夫!? おばあちゃん!」

「早智子、人を呼んどくれ……」


 弱々しく力のない声。

 祖母の右腕は、白かったものに叩かれた時に無惨にも千切れていたのだ。

 早智子が急いで近所の店の人を呼び、救急車が迅速に来たおかげで祖母の命は助かったものの、片腕になった祖母は農家を諦めざるを得なかった。


 その後仕事が出来ずにめっきりと老け込んでしまった祖母は、あの白いもの、あいをんさまに対する恨み言をいつも口にするようになった。


「奴らめ、生まれ落ちてそのまま死ねば良かったのに。けだものめ」


 それ以来、早智子はあいをんさまを見かける事は無かった。

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