風は轟いて嵐になる(5)

 鬼山の指示で冲方隊は待機戦力に指名された。人型等が動き出した際に対応に当たることがその目的だ。冲方隊の面々は冲方れんの指示でQ支部に集まり、その決定を聞くことになったのだが、その決定に納得できない人物も中にはいた。

 それが水月みなづき悠花ゆうかだ。


「どうして、私達は頼堂君を探しに行けないんですか?何もせずにここで待てって言うんですか?」


 行方不明となった幸善は冲方隊の仲間だ。その仲間を自分達が探しに行けないのはおかしいと水月は訴えた。その気持ちは冲方も理解してくれたのか、水月の言葉に小さく頷く素振りを見せた。


 だが、賛同はしてくれなかった。


「水月さんの考えも分かるけどね。頼堂君を探しているのは、ちゃんと捜索に慣れた仙人達なんだ。その人達で見つけられないのに、私達が見つけられるとは到底思えない。たとえ頼堂君と繋がりがあっても、そういうもので解決する問題じゃないんだよ」

「だから、待てと?」

「そういうこと。私達はここで待つしかない。それが与えられた仕事だ。支部長が意味もなく、そういう仕事を与えるわけがないから、ここで待つことが一番なんだよ」

「そう……言われても……」


 水月の中で両親の姿がフラッシュバックした。猛烈な気持ち悪さと頭痛に襲われ、水月は頭を押さえる。

 その姿に心配するように寄り添いながら、牛梁うしばりあかねが口を開いた。


「水月の言いたいことは分かるが、冲方さんの言う通り、俺達が向かっても助けになる可能性は少ない。それに頼堂は恐らく生きている。そう分かっているから、支部長達はこの判断を下したんだ」

「その根拠は……?」

「頼堂が行方不明になった経緯に人型が関わっていると聞いた。頼堂と人型の関係性は知っているだろう?人型が頼堂を殺せないのなら、死ぬかもしれない状況で見捨てることはないはずだ。人型に捕まっている可能性はあっても、死んでいることはないはずだ」

「そう……ですかね……」


 これまでの人型の行動を思い返し、水月の頭痛は少しずつ治まり始めていた。確かに人型が幸善を殺せないというのなら、死に行く幸善を見捨てることはないはずだ。捕まっていることは問題かもしれないが、最悪の想像をする必要はないのかもしれない。


「私もその意見に同意……というか、支部長もそういう考えなのだろうね。だから、人型に対応する戦力を残した」

「そこが頼堂君に繋がる可能性が最も高いからですか?」

「そうだと思うよ」


 その言葉にようやく安心感を覚える水月の隣で、相亀あいがめ弦次げんじがつまらなさそうにふんと鼻を鳴らした。


「何をそんなに真剣に話してるんですか?可能性がどうとか、人型がどうとか考える必要はないでしょう?」

「どういう意味?相亀君は頼堂君がどうしているか興味がないってこと?」

「そうじゃなくて……これまで俺達はいろいろと巻き込まれてるのに、誰一人として欠けていない。あいつも死ぬかもしれない場所に放り込まれても、何てことはなく生きている。怪我だって、俺や水月の方がしているくらいだ。そういう奴が高々飛行機から落ちたくらいで死ぬわけがないだろう?」


 さも当然と言わんばかりに相亀は言ってのけて、その言葉に水月は目を丸くした。少しだけ牛梁と顔を見合わせて、小さく吹き出すように笑みを零す。


 まさか、相亀がそういうことを言い出すとは思わなかったが、その通りだと水月は思った。幸善を含めて冲方隊の仙人は全員、殺しても簡単には死なない人ばかりだ。幸善も死ぬはずがない。


 それくらいは当然のことだったと思い、水月と牛梁がそれを言い出した相亀を温かい目で見ていると、相亀の顔が少しずつ赤くなり、両手をぶんぶんと振り始めた。


「ああ!もういいから!こっち見るな!それで冲方さん!今後はどうしたらいいんですか?」


 空気を変えようと思ったのか、相亀は顔を真っ赤にしたまま、冲方に話を振っている。その様子に冲方も小さく笑みを浮かべながら、待機戦力としての冲方隊の今後の行動を口にした。


「待機の言葉通り、私達にはしばらく仕事が回ってこなくなる。それ以外は自由だけど、ただあくまで待機だからね。急な呼び出しに対応できるだけの余裕は作っておくこと」

「つまり、遊んでいてもいいわけか」

「いいけど、一つだけ。もしも呼び出されたら、その時は確実に人型かそれに準ずる何かとの戦いになる。その意味が分かるよね?」


 冲方の一言は脅しのように口に出されたが、水月は格段恐れることがなかった。相亀をちらりと見てから、水月は首肯する。


「大丈夫です。私達が人型と戦ったくらいで死ぬわけがありませんから」


 水月の視線と言い方に気づいた相亀が軽く睨みつけてきたが、それを気にすることなく、水月は自信満々にそう言った。


 これによって冲方隊の今後の方針が定まり、水月達は解散する流れになったのだが、そこで水月は一つ残っている問題に襲われることになった。その問題の解決法をいろいろと考えた時に、水月は最も適切だと思われる手段を取ることにする。


「あのさ、相亀君」


 帰ろうとしていた相亀に水月が声をかけると、声をかけられると思っていなかったのか、相亀は想定よりも驚いた反応を見せた。


「な、何だ?どうした?」

「一つだけお願いがあるんだけど、いい?」


 水月が小首を傾げると、相亀は怪訝げに小首を傾げる。その表情に苦笑を浮かべながら、水月は自分の抱える問題とその解決法を口に出した。

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