帰る彼と話したい(14)
結果を簡潔に報告すると、相亀の直感は不発に終わった。相亀の案内で向かった食堂にアッシュの姿はなく、水月達のアッシュを探す旅はまだまだ続くことが決定してしまった。
「役立たずが」
食堂を後にしながら、相亀は葉様からの罵倒を全身に浴びている。葉様の口調はいつもの調子で、相亀も怒り出して然るべきところだが、相亀は食堂という場所に自信があったのか、言い返す様子がない。
「ここだと思ったんだけどな」
小さく呟きながら、相亀が溜め息をついたことで、まだ何かを言おうとしていた葉様は口を閉じて、水月と満木に目を向けてきた。
「他にカエルの妖怪が向かいそうな場所で心当たりは?」
そう言われ、水月と満木は揃って考える素振りを見せてみるが、カエルに憎さはあっても興味のない水月と、まだ知り合って間もない満木に、情報と言える情報があるはずもない。
しばらく考えるような素振りを見せるだけ見せて、二人は揃ってかぶりを振ることしかできなかった。
「なら、やはり捜索の手を増やすべきだが……」
そう呟きながら、葉様の視線が水月に向いた。葉様の表情はいつもと変わらないので、葉様が何を考えているのか、水月は読み取ることができないが、頭の中では食堂の中で交わした会話が過っていた。
水月の起こしたことを葉様は全て把握している。何を言われるか分かったものではないと思いながら、水月は少し怯えの交じった苦笑を浮かべる。
「ど、どうかした?」
そう聞いてみると、葉様は顔色一つ変えることなく、「何でもない」と返答してきた。水月からしたら、何でもないことはないのだが、この場面で追及するのは大々的な自白に等しい。
言いたい言葉を飲み込んで、水月はアッシュをどうするべきなのかと考えた。
このQ支部から追い出したい、と心の奥底で湧いてくる気持ちがあって、それを実行するつもりでは今もいるのだが、それで本当に正しいのかと言われたら、それに対する返答は沈黙しかない。葉様に言われた一言も重なって、水月の中で本当に正しくないことを実行に移すべきかという当然の疑問は着実に膨らんでいる。
水月は考えれば考えるほどに頭の奥底で小さく疼く頭痛に気づいた。その痛みが膨らむのを押さえつけるように、水月は自分の頭に手を押し当てた。痛みの質次第では大病を疑うところだが、幸いにも痛みの理由は分かっている。
水月は一般的に優等生と呼ばれるタイプの人間だ。特に
だが、本当に水月は優等生かと言われたら、当の本人である水月は否定せざるを得ない側面があった。それを水月自身が意識している瞬間は少なく、基本的に表に出ることはないのだが、水月自身で気づいていない気持ちではない。
それに繋がる部分に触れられた気がして、水月はほんの少しの不快感を覚えていた。葉様の言いたいことは良く分かるのだが、それを水月が許容することはできない。
そう考えてしまう理由が水月にはあって、その理由こそが頭痛を生み出す種だった。
それを取り除ければ、それに越したことはないのだが、簡単に取り除けないからこそ、水月は自分の底の方にその種を沈めたのだ。それを今更、掘り返すことはできない。
「人が増やせない以上は、この四人で他に思いつく場所を……」
葉様が次の方針を定めようとしたのか、水月達に声をかけてきた直後、葉様の話を邪魔するように、別の声が耳の中に届いた。
「やっぱり、水月さんだ」
「あれ?だけど、聞いてた格好じゃないよ?」
「やっぱり、見間違いでしょう?そんな変な格好をしているはずがないから」
それぞれ高さの違う三人の少女の声が重なって、悩みに押し潰されそうだった水月達に明るく降り注いでくる。何とも楽しそうだと、水月はその会話に思ったのだが、一人だけは様子が違うようだ。
水月達に声をかけてきた三人の少女に目を見やって、唯一相亀だけが表情を暗くしている。幽霊を見た子供のような顔だ。
「で、出た……」
本当に幽霊を見たようなリアクションを相亀が見せ、その声を聞いた浅河が苦笑した。
「人を幽霊みたいに言わないでもらえる?」
「お化けだぞ~」
美藤が楽しげに両手を上げて、典型的な幽霊の真似をしながら、相亀にするりと接近した。その姿以上に美藤が眼前に近づいてきたことに動揺し、相亀は顔を真っ赤にしながら、慌てて身体を大きく逸らしている。
「ちょっ!?急に近づくなよ!?」
「え~、何?照れてるの?」
美藤がニヤニヤと笑いながら、相亀の頬に指を伸ばして、つんと突いた。
その瞬間、相亀の頬がスイッチになったように、相亀の頭のてっぺんから蒸気が吹き出して、相亀は一気に廊下の壁まで後退った。
「さ、触るなよ!?」
その反応に美藤がからからと笑い声を上げて、その騒がしさに葉様が眉を顰めた。
「やかましい」
こうして、有間隊の三人が合流した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます