月と太陽は二つも存在しない(24)
発端は早朝に送られてきた相亀からの連絡だった。
それが送られてきた時、ディールは眠っていたため、遅れて確認することになったのだが、その内容の酷さに眉を顰めることになった。
問題は内容そのものではなく、送られてきた文面の方だ。
翻訳アプリを通したわけでもなく、知っている英単語を羅列したとしか思えない文章に、ディールは自分が揶揄われているのかと苛立ちを覚えた。幼稚園児でももう少しマシな文章を書くものだ。
しかし、その内容が放課後の特訓を休むというものであると気づいてから、ディールの苛立ちは思考で掻き消されることになった。
相亀の性格は短い付き合いながらも把握している。
少なくとも、自分が休みたいという理由で休むことや遊びたいという理由で優先して遊びに行くことはないはずだ。
生真面目と表現してもいいほどに、その性格自体は真面目そのものだ。
それが休むとなったら、その理由は相当なものであるはずだ。
仮にそれがプライベートな理由なら、全てとは言わないにしても、ある程度、その理由について書いてあるはずだ。
流石のディールも鬼ではないので、家族に何かがあったと言われたら、休むことくらいには目を瞑る。それくらいの優しさは持っている。
しかし、それが全く書かれていないことを見るに、そういう正当に話せる理由ではないということになる。
それに英単語を羅列した文章も、これしか書けなかったとしたら、その時間のなさを感じさせるものに思えてくる。
もしかしたら、自分に話せない何かしらの理由で、自分との約束を反故にする必要があったのかもしれない。
そう考えたら、ディールはその相亀が隠した理由が気になって仕方がなかった。
どうして気になったのか。その部分はある程度、その文面から理論として組み立てられているが、それをどうでもいいと思えるほどに、ディールの本能が面白そうだと叫んでいる。
それだけでディールが動き出す理由になり得た。
しかし、問題はその時間帯だ。相亀が休むというからには、相亀が特訓と思い込んでいるディールの実戦演習の時間に、その何かがあるはずだ。
その時間まで一眠りするか。そう思ったディールが悪かった。
次にディールが目覚めることになったのは、Q支部内に警告音が鳴り響いた時だった。
それと同時に肌を刺すほどの妖気に気づき、ディールは自分の本能が間違っていなかったことと、それに乗り遅れたことにようやく気づいた。
急いでQ支部を出るために入口に向かったが、その時点で既に秋奈と七実が飛び出していく姿が見えて、ディールの役割はなくなったのも同然だった。
一応、ディールもQ支部の外に出たが、既に秋奈や七実が解決しているはずだ。
その事実が気怠さを生み、二度寝をしていたら良かったと思いながら、ディールが公園内を移動している最中のことだ。
そこで偶然にも、ベンチに座っている少女の姿を発見した。深くベンチに座り込み、背もたれに身体を預けて俯いている姿を見るに、そこで眠っているようだ。
それを最初は特に不思議に思うこともなく、ディールはそのベンチに近づいていたが、そこでディールはそこに存在する不思議なものに気づいた。
それは嗅いだことのない独特の香りで、ディールはその香りに自然と足を止めていた。
問題は香りそのものではなく、その香りに含まれている微細な違和感だ。
その違和感の正体を考えていると、ディールはベンチの傍に一人の男が立っていることにようやく気づいた。
その男は公園の外に目を向けており、その方向からは今も肌を刺すような妖気が感じられる。
そう思った瞬間にようやく気づいた。
この違和感は妖気の感覚だ。
「おい、お前」
ディールがベンチの近くに立った男に声をかけた。その声に男は想像以上に反応し、ディールを見てくる。
「お前、何者だぁ?」
その質問を受けた男が苦々しい顔をして、ディールの顔を真正面に見ながら呟いた。
「No.4」
その一言が既に答えであり、ディールは自分の勘が間違っていなかったことに笑みを浮かべていた。
「やっぱり、人型かぁ」
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