影が庇護する島に生きる(45)
帰り支度は速やかに行われ、冲方達は日中の間に島を経つことが決まった。楓の治療は日本に帰ってから行われるようで、村に戻ってきた時と同じように有間が付き添っている。
村に帰ってきてから、最速で宿泊していた家に戻った渦良は、そこから、のび太君も驚愕の早さで爆睡していたらしく、帰還する報告を伝えに来た御柱に起こされ、村に帰ってきた時よりも疲れた表情で待ち合わせ場所に現れていた。
何があったのかと聞いた冲方に、疲れ切った表情のまま、何もなかったと答える様子を見て、冲方は追及することができなかった。
ここがキッドのいる島であり、キッドと遭遇し、逃げ帰った直後に爆睡していたことを考えると、御柱の言葉は想像できるもので、渦良のその反応も致し方ないように思える。
冲方達は村の一角に集合し、そこから船をつけた浜辺まで戻る予定だったのだが、その前に冲方の帰りを聞きつけたようにウィームが冲方のところにやってきた。
この島に到着してから最初に発見した人物であり、第二部隊から見た今回の出来事のMVPでもあるウィームに、冲方は再びお礼の言葉を伝える。
「ありがとう。君がいてくれたから、私は助かったよ」
「ううん。あの…ごめんなさい。迷惑かけて」
「迷惑?」
「泣いちゃったし、それに最初に逢って、怖くて逃げ出しちゃった」
「そんなこと…気にすることじゃないよ。それ以上に私は君に大きな借りができてしまったから」
冲方は少し屈み、ウィームの前で誓うように笑顔を見せる。
「次にもし、君に何かがあったら、私が助けることを約束するよ」
冲方が小指を伸ばして、ウィームの前で見せると、ウィームは不思議そうに手を見てきた。約束という言葉から、いつもの癖でやってしまったが、ない文化だったと思って、冲方は説明する。
「日本の約束の仕方。同じように指を出して」
冲方に言われ、ゆっくりと小指を出したウィームと指切りし、冲方は再びウィームに笑顔を向けた。今に自分が日本に戻れるのは、ウィームがあの瞬間に飛び出してくれたからだ。
その素直な感謝の気持ちが伝わったのか、ウィームは少し照れたように顔を赤くしていた。
「じゃあ、またね」
冲方は最後に手を振り、ウィームや辿りついたその村と別れ、第二部隊の他の面々と一緒に森の中に入っていった。その時には渦良の元気も戻っており、ウィームを将来的に結婚相手として考えているのかなど、小学生のような揶揄われ方をしながら、冲方達は船のある浜辺を目指す。
一応、船がそこに存在しない最悪の状況も考えていたのだが、幸いにも船は冲方達が最後に見た時と変わらない状態で、その場所に停泊していた。キッド達が気づかなかったのか、それとも、その船の存在を見逃してくれたのか分からないが、無事に島を脱出できることに喜びながら、冲方達は船に乗り込んでいく。
問題は帰還した後の対応だったが、それは御柱が検討しているようだった。その検討している中に、自分達の行動も含まれているのか疑問に思ったらしく、考え込む御柱に対して渦良が質問する。
「日本に戻った後はどうするんですか?」
「取り敢えず、Q支部に戻って、そちらはそちらで報告してくれ。細かい対応は奇隠の本部も関わるはずで、こちらはこちらの対応を考える」
そちらが奇隠を示すなら、こちらは政府を示しているのだろう。場所や状況などから、国家間の関係も配慮し、その対応を考えるはずだ。
「報告次第では好きに寝てもらっても構わない」
「あっ…ああ…はい…」
自分の行動を穿り返す御柱の一言に、流石の渦良も言葉を失っているようだった。背中が大きく丸まって、心なしか、いつもよりも小さく見える。
「島の今後の調査に関しては、11番目の男の存在から、奇隠本部が中心になって進めるはずだ。そこにこのメンバーが絡むのかどうかは分からないことだな」
唯一、島の観測に成功した本部のことだから、直接的に人を送り込むことなく、島の秘密を調べる可能性もある。
自分達が関わる可能性は少ないだろうと思いながら、冲方は一度、島を振り返った。そこにいるウィームやベネオラ達のことを考え、キッドの目的の不透明さを不安に思う。
もしもキッドに何か狙いがあるのなら、早々に彼女達を助け出さないといけない。この時の冲方はそう考えていたのだが、結局、その願いが叶うことはなかった。
冲方達が日本に帰還した後、キッドのいる島の調査を奇隠の本部が進めることになったのだが、その調査を始めてすぐに一つの知らせがQ支部に届けられることになる。
それがその調査対象となっている島が太平洋上から忽然と消えたという知らせだった。
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