影が庇護する島に生きる(43)

 冲方達と別れて別行動を開始した御柱とアシモフは、以前第一部隊と遭遇した地点を中心に、その付近にあるはずの村の捜索を開始していた。それが発見できたら、そこに宿泊しているはずの第一部隊とも合流できるはずだ。

 ただ森の中に存在する人の痕跡は少なく、村の捜索はアシモフがいるとしても、ある程度の時間がかかると御柱は考えていた。


 しかし、その予想とは裏腹に第一部隊との遭遇は、村の捜索を開始した直後に起きた。どうやら、第一部隊も既に行動を開始していたらしく、こちらと合流するために動き始めていたらしい。


 森の中に気配を感じ、咄嗟に身構える御柱とアシモフの前に、自分であることを主張するように声をかけながら、羽衣が姿を現した。その他の第一部隊の面々の姿は見えず、御柱とアシモフは警戒を解きながら、そのことを質問する。


 そうしたら、羽衣から意外な返答があり、御柱はアシモフに伝えるよりも先に驚くことを優先した。


「戦闘が?」

「ああ。しかも、仙術使い。何者か分からなかったが、使ってた仙術は水の仙術だと思う。負傷ではないが、二人が戦闘不能に追い込まれ、今は村で休息中だ」

「状態は?」

「意識を失っただけで、それ以外の影響はないらしい。もう少し時間がかかっていたら違っていたそうだが、何とかセーフだったという感じだ」


 御柱はアシモフに第一部隊が謎の相手と戦闘し、それで現在は村で休息している事実を通訳した。それを聞いたアシモフは驚き、その敵がキッドと関係あるのかと聞いてくる。

 それを聞かれたことで、御柱は羽衣にキッドと接触した事実を報告する必要があると思い出していた。


「こちらの話ですが、岩山の麓で謎の洞窟を発見しました」

「謎の洞窟?何かあったのか?」

「分かりません。その中に入ろうとしたら、そこから11番目の男が現れて、戦闘になってしまいましたから」

「11番目の男?パンク・ド・キッドのことか?」


 頷く御柱に羽衣は驚きを顔に見せていた。御柱達がそうだったように、ここでキッドの名前を聞くことになるとは思っていなかったのだろう。


「何故、11番目の男が?」

「理由は分かりませんが、11番目の男は最後に発見した洞窟を潰していきました。恐らく、そこに何かがあったのだと思います。それから、村人達の言っていた島の管理者も、11番目の男のことかもしれません」


 その場合はキッドが島民を集めたことになり、そこに何かしらの目的があると考えるべきだ。それにキッドに関する謎は他にもあり、その最大の疑問が仙術の存在だった。


「11番目の男が影を用いた仙術を使用することは分かっていましたが、その島にいた何者かが他の仙術も使用してきたとなると、そこに秘密があるのかもしれません」

「11番目の男は何を考えている?奇隠への反乱か?」

「仮にそうだとしたら、少なくとも、アシモフさんは始末していたでしょう。11番目の男に対しても、一定の有効策を見せていましたから。それをしなかったということは、他に目的がある可能性が高いですね」


 キッドの目的は判然としないが、島の秘密にキッドが関与していることが分かった以上、その対処は絶対と言えた。現状の戦力でキッドと戦えるか分からないが、最低でも考慮はするべきだ。


「第一部隊の応援との合流は?」

「残念ながら。まずはそれを第一に考えるべきだろうな。その後に次の行動は考えないと」


 現状、この島にいる全戦力を以てしての戦闘か、潔い退却か。負傷者や戦闘不能者が多い現状を考えると後者の可能性が高いのだが、序列持ちが揃っている現状以上の戦力をすぐに用意できるとは思えない。


 ここで攻めに転じるのも一つの策として有効だ。

 そのように御柱が考えている最中のことだった。近くの茂みが唐突に揺れて、その向こうから声が聞こえてきた。


「こんなところで作戦会議?」


 英語で呟かれたその声に反応し、御柱達は咄嗟に身構えた。キッドか、その仲間か分からないが、敵がここに現れたのかもしれないと思い、御柱達の間を一瞬、緊張が走った。


 しかし、そこから出てきたのは、葉っぱを身体のあちこちにつけたハートだった。その葉っぱを払い落としながら、こちらに近づいてくる姿を見て、流石のアシモフも銃を下ろしている。


「ハートさん。どこで何をしていたのですか?」


 羽衣が怒りを露わにしながら、そう声をかけると、ハートは遠くに見える岩山を指差した。


「あそこでNo.11と戦ってた」

「No.11って11番目の男ですか?」

「うん。結論から言うと、あれは無理。今の僕達に何とかできる相手じゃないね。最低でも三頭仙が一人はいないと」


 序列持ちのNo.1に位置し、三頭仙を除けば奇隠最強とも言われるハートがそう断言したことに、御柱と羽衣は驚いていた。御柱がアシモフに通訳してみせると、アシモフは納得したように頷いている。


「やはり、そうか。あの時間と共に強くなっていく力は異常だった」

「何?先に戦ってたのに勝てなかったの?」


 ハートがロシア語でアシモフを煽るように呟いた。その一言を聞いたアシモフは少し黙り、小さく俯きながら、「恥ずかしながら」と口にしている。


「真面目だね。怒るなりなんなりしたらいいのに」

「事実だ。怒る理由がない」


 そのように会話する二人を見ながら、羽衣はハートの報告を踏まえて、次の行動を決めていた。


「それでは一度、奇隠に報告するため戻りましょう。それぞれの船で、この島を後にします。時間は今日中。それぞれが準備を終えた段階で行動しましょう」

「分かりました」


 その決定の通りに行動するために、御柱とアシモフは羽衣達と別れて、自分達が宿泊した村に戻ることになった。

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