影が庇護する島に生きる(23)
動物との会話。あり得ないとは思ったが、あり得ないと断言できるだけの証拠があるわけではない。島の観測ができないという前例からも、この島で何が起きるか分からないことは分かっていることで、森の子供に浮上した疑惑は森の子供の正体を暴く必要性を更に高めていた。
とはいえ、行動にも制限がある。特に夜間は森の子供も森の中にいる可能性が低くなるので、捜索には向いていない。
発見した第三の村から最初に発見した村まで帰還した第一部隊は、翌朝に森の子供の捜索を再開することに決めて、上陸初日の活動を終えることにした。
第一部隊の面々はそれぞれが宿泊する予定の家に分かれて、そこで一晩を過ごすことになった。その目的は夜を明かすことと、休息することだったので、闇雲に食って寝るだけでも良かったのだが、それだけでは問題の解決に繋がらないと、第一部隊の全員が判断したらしく、翌朝の合流の際には、それぞれが新たに入手した情報を持ち寄る結果になった。
そこで第一部隊は既に第二部隊も把握していた立入禁止区域の存在を知ることになった。それもどうやら、森の子供がいた付近がそうであるらしいと分かり、その付近に痕跡が多く残っていた理由を知る。
あの辺りに村人が近づかないのであれば、そもそも痕跡を消す必要がないと納得し、その辺りに島の管理者や森の子供が隠れている可能性が高いと理解し、第一部隊は再度、森の子供との接触を図るために、前日と同じ場所に向かうことにした。
「問題は動物の対処ですね」
昨日と同じように森の中を突っ切り、岩山に向かうように歩いていく途中、傘井が思い出して呟いた。羽衣は頷き、その対処に頭を悩ませていることを吐露する。
「あれが仮に攻撃だったとして、その手段が分からない上に対処法もない。攻撃してきた理由も分からない。ハッキリ言って、人型がいるよりも厄介だ」
もちろん、人型がいたとして、この五人で対応できるかと聞かれると、それは相手に依ることであり、完全に対応できると断言することは難しいが、確実に対応できない動物と比べた時に、まだ対応できる可能性があるだけマシと言えた。
「やはり、気を失わせるのが一番ですね」
傘井は一度、動物を相手にしたことがあるのだが、それもあの面々だから対応できた可能性が高い。特に盾となる役割を負える人物がいない以上、攻撃することが防御であり、その攻撃することが禁じられた今、動物を気絶させる前にこちらがやられる可能性は十分に高かった。
やはり、どこかに行ってしまった応援と合流しない限りは、その対応は難しそうであると傘井は思うのだが、今となっては森の子供を見つけること以上に応援を見つけることの方が難しい。探している間に一週間が経過していてもおかしくはない。
「本当にどこに行ったのだろうか…」
羽衣が困ったように呟いた瞬間のことだった。傘井の頬は不意な冷たさを感じ、自然と視線を空に向けていた。
そこにはさっきまで見られなかった黒い雲が浮かんでおり、ぽつぽつと小粒の水滴をいくつか落とし始めている。
「雨が降ってきましたね」
傘井の呟きに羽衣や夜光も空を見上げて、自分達に落ちてくる水滴を確認した。まだ降り始めという雰囲気だが、確かに雨が降ろうとしているようだ。
そう思っていたら、三人の後ろで僅かに離れていた漆野と尾嶋が同じように空を見上げて、不思議な様子で呟いた。
「え?降ってませんよ?」
「はあ?いや、降ってるわよ?」
何を言っているのだと言いたげに言ってから、振り返った夜光は気づいたようだった。二人の立っている場所まで戻って、そこで同じように空を見上げながら不思議そうな顔をする。
「本当だ。こっちだけ降ってない!」
「どういうこと?」
まさか、そんなに都合良く、雲の切れ間に立っているのかと思った傘井が空を再び見上げ、そこで雲の様子がおかしいことに気づいた。
「あれ…?この雨雲、少し小さいような…?」
自分達の上空だけに漂っているように見えた黒い雲に、傘井が不自然さを覚えた瞬間、背後に移動したはずの夜光が走って戻ってきた。
「二人共飛んで!」
そう言いながら、昨日の鬱憤を晴らすように、傘井と羽衣に全力のタックルを噛ました夜光と一緒に、三人は前方に大きく飛ぶことになった。
背中の痛みに悶えながら、傘井が立ち上がって夜光に激怒する。
「何をするのよ!?」
そう叫んだのだが、その叫び声は夜光の耳に届くことなく、猛烈な水音に掻き消された。
気づいたら、傘井達は雨雲の外に出ていたようだ。自分達に降っていたはずの雨は周囲から消えて、代わりにさっきまで自分達が立っていた場所に、滝のような水が落ちてきていた。
「え?何?」
「この水…仙気だ…」
羽衣の呟き声が聞こえ、傘井も意識を集中させてみると、上空から降ってきた水に多大な仙気が含まれていることが分かった。
これは水が操作されていたのか、水そのものが作り出されたのか分からないが、そういう芸当ができる力を傘井達は知っている。
「仙術…?」
「惜しい。一人も食らわなかったか」
不意に背後から声が聞こえ、傘井達は向かっていた先に目を向けた。
「仙人達には悪いが、ここから先は立入禁止だ」
岩山のある方向から傘井達に近づいてきながら、若い男が英語でそう話しかけてきた。
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