影が庇護する島に生きる(14)

 結論から言ってしまうと、第一部隊も第二部隊も得られた情報に大きな差異はなかった。村人の知っていることが情報の全てである以上、そこに大きな違いが見られないことも仕方ない。


 ただその情報から進めた考察には違いがあり、特に人型に関する考察はアシモフが作り出しただけあって、第一部隊が至っていない考えのようだった。


「日本で発生している誘拐事件との類似性…?」


 アシモフの感性が嗅ぎ取った可能性の話に、傘井を始めとする第一部隊の面々が揃って、小首を傾げていた。先ほどまでのまとまりのなさから一転、事前に打ち合わせを済ませていたように動きが揃っており、冲方は第一部隊の構成が意外と最良なのかもしれないと思った。


「それは流石に考え過ぎじゃない?いくらこの島が意味不明だからって、意味不明な理論が通る理由にはならないから」


 可能性を構築したアシモフが近くにいることも構わずに、想像以上に辛辣な言葉を吐いた夜光に冲方達は肝を冷やした。


 唯一の救いだったのが、アシモフが日本語を理解できないという点だったが、アシモフに伝わっていないだけで、日本語を理解できる相手には当たり前のように伝わっている。

 冲方がちらりと視線を向けてみると、集まっている冲方達に向かって、御柱と羽衣が厳しい目を向けていることに気づき、冲方は閉口した。


「いや、でも!島の管理者に何か目的がありそうっていうのは確かよね!」


 冲方の気づいた厳しい目に傘井も気づいたらしく、唐突に声色を変えながら大きな声で言い出した。そのあまりに急変した態度に夜光は驚いたのか、「大丈夫?」と傘井に心配した様子で聞いていたが、大丈夫なのかどうか聞きたいのはどちらかと言うと夜光の発言の方だと冲方は思った。


 もちろん、大丈夫ではないから、傘井が空気を変えようとしたことも冲方は理解しているが、それを夜光が理解していないところを余計に大丈夫なのかと思わずにいられない。


「でも、確かに…島の管理者が無条件で移住を受け入れるとは考えづらい…」


 格段、御柱や羽衣の視線に気づいた様子はないが、漆野が傘井の発言に賛同するように呟いた。尾嶋も小さく頷いているが、夜光だけは納得がいっていないのか、首を傾げながら「そう?」と聞いている。


「単純に良い人なんじゃない?」


 純粋なる善行。もちろん、可能性としては否定できないものだが、その可能性を考慮するには、この島や管理者の情報が特殊過ぎた。


「島の侵入者を追い出すほどに力を持っているなら、紛争地帯で行き場の失った者をここに導く前に、紛争そのものを止められるはずだ。だが、それを行った話は出てきていない」


 その可能性を突くように渦良がそう口に出した。その発言を受けたことで、ようやく夜光はその考えに至ったらしく、真面目な顔で小さく「なるほど」と呟いている。


「人型の関与については流石のNo.5も本気で疑っているわけではないと思う。あくまで警戒するのに越したことはないという話で、その部分は問題じゃない」

「一番の問題は島の管理者に目的があるのなら、島を観測できなかった理由が分かったとして、そのまま解決しましたと行かないところです」


 場合によっては、島に住む全ての人々の避難も考えなければいけないが、それを取る手段は冲方達にはなく、それを取らなくても問題ないという根拠もなくなってしまった。

 恐らく、御柱と羽衣も今はそのことを話し合っているのだろうと思いながら、冲方は真剣な顔で話し合う二人を見た。


「そういう可能性にNo.5が気づいたなら、こっちもそれに気づいたからいなくなったとか?」

「いや、村についた直後だったし、流石にそれはないんじゃ…?」

「逃げたのよ。きっとそうに違いないわ。今頃、南の島で楽しくスイカ割りでもしているんじゃない?」


 傘井達が合流したはずの応援の話をしていることは分かったが、それにしても夜光の発言が辛辣すぎると冲方は思った。先ほどのアシモフに対する発言を考えると、特別におかしいことでもないのかもしれないが、それほどまでに言われる相手とは一体誰なのだろうかと思って、冲方はその人物の名前を聞いていなかったことを思い出す。


「そういえば、第一部隊の応援って誰だったの?」

「ああ、それは…」


 冲方の質問を受けて、傘井が答えようとした瞬間のことだった。話し合いを終えたらしく、御柱と羽衣が近づいてきて、冲方達に声をかけてきた。


「何を遊んでいるんだ?そろそろ、行くぞ」

「いや、別に遊んでいるわけじゃ…」

「第一部隊は羽衣さんについていけ。第二部隊は次の行動を説明する」


 御柱の半ば無理矢理とも言える命令が下され、冲方達は仕方なく、木陰のサークルを解散することになった。

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