兎は明るく喋らない(6)

 ちょうどリストの半分というところだった。幸善達にとっての制限時間がそこで訪れた。幸善達が家に帰らないといけないこともあるが、それ以上に時間が遅くなると調査自体ができない。残りの半分は翌日以降に持ち越すことにして、幸善達はQ支部に戻ることにした。


 その途中、今日手に入れた情報をまとめるように、幸善達は双子について話し始めた。今日回った家の全てで、派手な髪色をした性別の違う双子の情報は手に入った。それで関与を疑わないことはできないだろう。


「やはり、双子は人型なんですかね?」

「そこはまだ確定できないけど、後で支部長にお願いして、観測された人型の妖気の情報を手に入れてもらうよ」

「人型の妖気…?ああ、誕生時に発するという妖気ですか?」

「そう。その中に同じタイミングで観測された気があれば、それが問題の双子の可能性が高いと思う。ただ厄介なのは、未だに正体が分かっていない骨になった女性が一人いるんだよね」


 幸善が秋奈の助けを借り、死神デスと戦った時のことを思い出した。その時に冲方は、それ以前に何度も目撃されていた女性と遭遇し、軽い戦闘に発展したらしいのだが、攻撃を受けた女性は骨になってしまったらしい。


「あれを何らかの妖術と仮定するなら、その双子も妖術の可能性が十分にある。人型が関与している可能性は高いけど、その人型が目撃されている双子とは限らないね」

「確かにそうですね。そうなると、人型かどうかの特定は難しそうですね」

「どちらにしても、双子と接触したことが失踪に至った理由に繋がっているのなら、その接触した場所を特定することで、何か分かるかもしれないね」


 冲方と佐崎の会話を聞きながら、幸善は東雲しののめ美子みこや秋奈から聞いた話を思い出していた。二人は青い髪の男の子とショッピングモールで出逢ったらしい。その男の子と双子の一人が同一人物なら、失踪した女性達もショッピングモールで接触した可能性があるかもしれない。


 そう思った幸善がそのことを言おうとした瞬間、杉咲が思い出したように呟いた。


「香水。それもあった」

「ああ、そういえば確かに。全員に匂いの変化があったらしいね」

「頼堂君。君が最初に戦った相手は匂いを用いたそうだけど、それが関わっている可能性はあると思う?」


 冲方の問いに幸善は考えてみたが、首を傾げることしかできなかった。


「何とも言えないですね。あの人の姿が目撃されているなら未だしも、逢ったかどうか分からないとなると、そこを特定することは難しいです。ただ…」

「ただ?」

「人型が関わっているとしたら、その中にあの人もいて、妖術を用いている可能性は十分にあります。匂いで人を失踪させることができるのも確認済みですから、本人が接触していなくても、その妖術だけ使っている可能性も」

「確かに。姿が確認された以上、自分は動かずに他の人型に任せて、サポートに回っている可能性は十分に考えられるね」

「匂いに対する感想自体は、あの人の匂いに対して思ったことと一緒なんですよね。だから、個人的には可能性が高いと思います」


 幸善の感想に冲方と佐崎は頷きながら考えていた。真っ先に「香水」と口に出した杉咲は、考えているのか興味がないのか、空をじっと見つめたまま歩いている。


「あっ、それと場所のことなんですけど」

「場所?」

「双子と逢った可能性のある場所です。特徴的に東雲達が逢った男の子が双子の一人なら、ショッピングモールの可能性がないかと思って」

「ショッピングモールか…確かに女性であること以外の共通点は彼女達になかったからね。そういう点では、共通で行きやすい場所だよね」

「場所が分からないのですが、ここから近いのですか?」


 住んでいる地域が違うこともあってか、佐崎と杉咲が不思議そうに幸善達を見てきた。冲方がそれに頷くと、佐崎は納得した顔をしている。


「でしたら、一考の余地がありますね。調べてみますか?」

「そうだね。明日以降になるけど、ショッピングモールにも当たってみようか。場合によってはQ支部に報告して、監視カメラの映像も見られたらいいんだけど、それは目撃情報の有無と、その時期によるね」


 少しずつだが、着実に近づいている。その気配を感じながら、幸善は少しだけ別のことを考えていた。佐崎と杉咲が共に背負っている竹刀袋を見ながら、幸善は自分の肩の軽さを思い出す。


 人型と接触する可能性があるなら、ノワールを連れていきたいところなのだが、数日の間にノワールを連れ回した挙句、怪我をさせた経緯もあり、幸善がノワールを連れ回すことはしばらく難しそうだった。

 ノワールがいないと仙術は使えない。その状態で人型を相手にできるだろうか。そう考え、幸善は少し不安な気持ちになっていた。

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