死神は獣を伴って死に向かう(4)

 校門はしばらく開閉した痕跡が見つからず、試しに相亀と牛梁で開けようとしてみたが、錆びた部分がうまく動いてくれなかった。

 無理に動かして壊しても仕方がないと思い、幸善達は校門を飛び越え、小学校の中に潜入することにした。


 校門がそうであったように、校舎自体も古くなっている様子が見受けられた。特に壁面を伝う植物は校舎を飲み込む勢いだ。


 幸善達が踏み込んだ段階で、学校内はとても静かだった。

 ここまでの状況の全てが学校内に誰かが立ち入った可能性を否定している。人型どころか、人間の出入りすら確認できない。


 幸善が思い出したことから来てみたが、空振りだったかと幸善達はその雰囲気に思った。


 とはいえ、可能性が潰えたわけではなく、調べてみるに越したことはない。一刻も争う状況なのだから、可能性が一つ潰れるだけで他の捜索の役に立つ。


 広い学校を四人で順に回ると無駄に時間がかかるので、四人は分かれて捜索してみることに決めた。

 単純に部屋数が多く、捜索が困難になりそうな校舎は二つに分かれている。第一校舎と第二校舎、それを牛梁と冲方がそれぞれに分かれ、幸善と相亀は校舎外の捜索に回されることになった。


 ただ校舎の奥に体育館があるので、幸善は先にその捜索だけ済ませることにする。


 校門前で四人は分かれ、幸善は相亀と後々合流することを約束してから、ノワールと一緒に体育館に踏み込んだ。


 もちろん、体育館にも倉庫等の調べるところはあるのだが、全体的に広い空間が広がっているだけで、校舎のようにややこしい部分があるわけではない。

 簡単に見回し、軽く体育倉庫を調べて何もなければ、すぐに体育館の外に出ようと思いながら、幸善は体育館の中を歩き出す。


「何かいそうな匂いはあるか?」


 ノワールの鼻を頼りに聞いてみるが、ノワールは肩で欠伸を一つするだけで、特に変わったことがないようだ。


「もうちょっと、やる気を出せよ」


 ここに来るまでの道中に、状況の説明は済ませてある。今が非常事態であることくらいはノワールも理解しているはずだ。


「そんなこと言われても、妖気は微塵も感じないし、何かいるとは思えないが?」

「まあ、今のところ人がいる気配もないよな」

「そもそも、確定でいるわけじゃないんだろう?これも無駄足だったんじゃないのか?」


 そうハッキリと言われてしまうと、そんな気がしてくるもので、体育館の中を歩きながら、幸善はだんだんと不安になってきた。


 自分達は無駄なことをしているのではないか。この間にも人型の魔の手は人質となった浦見に迫っているのではないか。

 それならば、一刻も早く、他の場所の捜索に向かった方がいい。


 そう気が急いてきて、幸善は倉庫を調べる際にも、非常に足早に動いていた。

 その様子に気づいたノワールが呆れたように溜め息をつきながら、幸善の肩を軽く引っ掻いてくる。


「おい、やる気出せとか言っておいて、そんな調べ方でいいのかよ?」


 尤もとしか言いようのないノワールの指摘を受け、幸善は少し落ちつこうと一度立ち止まった。

 倉庫には誰かがいそうな気配はない。そもそも、人が立ち入った雰囲気がない。


 そう思ってから、幸善は失念していた疑問に気づいた。


 慌てて、倉庫から飛び出し、そもそもの部分に目を向ける。ノワールはその雰囲気に幸善の肩に乗ったまま、驚いた声を上げた。


「急に走るなよ。滑って落ちるだろうが」

「油断するなよ…それよりも、さっきだけど」

「さっき?」

「この体育館に入る時、俺ってあの扉を開けていたか?」


 何を聞いている、と表情だけで語り、ノワールが呆れた声を出す。


だろうが」

「やっぱり…!?」


 ノワールの返答に、幸善は急いで体育館の中を見回し始めた。


 ここまで学校に人が出入りしている気配はなかった。それはつまり、学校が廃校した時のまま、放置されていることを意味している。

 それなら、体育館の扉はどうなっているのか。


 普通に考えてみると、不用意に荒されないように扉を閉めて鍵をかけたはずだ。体育館に誰も出入りできないようにしたはずだ。


 それが今は扉が開き、幸善とノワールは簡単に踏み入ることができた。


 そのことに疑問を懐かなかった少し前の自分を恥じた。


「やっぱり、ここには誰かいるんだ。他の場所を急いで調べた方がいい」


 共有するためにノワールに呟きながら、幸善が体育館から外に出ようとした。


 そこで、さっきまで存在しなかったはずの壁が体育館の出入り口に生まれていることに気づいた。


 それも正確には壁ではない。

 凄まじい勢いで吹くだ。


「え…?」


 風に遮られ、外に出られないことに気づいた瞬間、幸善の口から自然と声が漏れ出た。その声に反応したわけではないだろうが、肩の上でノワールの鼻が動く。


 そして、ノワールは背後を振り返りながら、いつもの少年のように高い声ではなく、緊迫感を持った少し低い声で、幸善に呟いてきた。


「気づかなかった…みたいだ…」


 幸善がその声に振り返ると、そこには見覚えのある男が一人、立っていた。


「良く分からないが、ラッキーと言うべきか…がここに来るとはな」


 浦見を連れ去った男が少し不思議そうな顔で、そう呟いた。

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