死神の毒牙に正義が掛かる(4)
状況を良く理解できないまま、浦見は重戸と一緒にトイレの外に投げ出されていた。さっきまでの追及を考えると、これから浦見が口を割るまで、一生あの部屋に閉じ込められるのかと思ったが、そういうことでもなくなったらしい。何があったのか分からないが、あの謎の地下施設からトイレの外に出されたことを考えると、良く分からないままに受け入れるしかない。
「だ、大丈夫だった?」
困惑を一杯に詰め込んだ声色で重戸に聞くと、同じくらいに困惑を詰め込んだ表情を返された。
「先輩こそ、大丈夫でしたか?」
その時の重戸は自分の何倍もやらかしそうな浦見の問いに困惑していたのだが、重戸も同じように状況が理解できずに困惑しているようだと浦見は思い、素直に「大丈夫」と言葉を返していた。その反応自体が大丈夫ではないのだが、ある意味、いつも通りの浦見だと思ったのか、重戸はホッとしている。
「けど、帰っていいのかな?」
浦見が背後にある開かずのトイレを見ながら、重戸に確認するように呟いた。記憶の消去に代表される荒々しいことをされると思っていた浦見からすると、あの部屋でのただの取り調べは意外だった。それにこのトイレの下に広がる地下施設のことも覚えたままで、浦見が帰されるとは思ってもみなかった。
これは誰かに言ってもいいということなのか、浦見の素性を把握した上で話しても始末できると判断したのか、浦見の頭の中で勝手な妄想が膨らむ。
「でも、他に人もいませんし、帰るしかないですよね?」
既に夜も遅く、周囲どころか、公園の中に浦見と重戸しかいないのではないかと思うほどに静かだ。さっきまで自分を取り調べていた菊池も、重戸を連れてきた女性の仙人と一緒に二人を放り出して、すぐにトイレの中に戻ってしまった。説明を聞く暇もないくらいにあっという間のことで、だからこそ、二人は呆然としている。
「仕方がないから帰ろうか…」
「そ、そうですね…」
浦見と重戸が良く分からないままに帰ろうとした時、浦見は大事な忘れ物があることを思い出した。
「あ、そうだ。あれを回収しないと」
「あれ?」
「カメラだよ」
開かずのトイレを監視するために浦見が仕掛けたカメラ。あれをまだ放置したままだった。何が撮れているのかも、もちろん気になるが、それ以上に高額だったカメラを盗まれたくない。
その思いから、浦見は重戸を連れて、トイレ近くの茂みに近づいた。カメラと三脚、それをその茂みの中に立てておいたはずだ。
そう思うのだが、何故かカメラは見つからなかった。
「あれ…?ない…?」
静かに浦見は焦りながら、茂みの中を掻き分けてみる。その中にカメラと三脚が倒れているかもしれない。そう思ったが、倒れたカメラも三脚も見つからない。
「あれ!?何で!?」
自然と大きくなった浦見の声が公園の中に響き渡った。重戸も一緒になって探してくれるが、その周辺からカメラは見つからない。
「本当にこの辺りに隠したんですか?反対側とかでは?」
「いや、トイレの向き的にこの角度のはずだよ。それとも…え?あのトイレって回転してる?」
まさかとは思ったが、一応は確認してみることに決め、浦見と重戸はトイレを挟んだ反対側も捜索してみる。
だが、やはりそれはただの考え過ぎだったようで、そこにも三脚とカメラは見つからない。
「やっぱり、向こうだよ」
そう確信した浦見が重戸を連れて、もう一度反対側に戻り、カメラと三脚を探し始める。さっきは見ていなかった場所も見てみるが、カメラどころか三脚も倒れていない。
その中でのことだ。
「あ」
不意に重戸がそう声を漏らし、浦見を呼びながら近くの茂みを指差した。
「先輩。ここにあったみたいですよ」
「あったみたい?」
重戸の言い方にどういうことかと思い、浦見が茂みを覗き込むと、そこに三脚が立っていたと思われる跡を見つけた。
「あ、本当だ。え?ていうことはもしかして、カメラも三脚も…」
「なくなってますね。盗まれたんじゃないですか?」
「嘘!?」
まだ数えるほどしか使っていないカメラと三脚の盗難。そのショックは大きく、浦見は崩れ落ちるように項垂れていた。
「カメラ…」
「だ、大丈夫ですか…?」
「大丈夫じゃない…」
カメラをなくしたシチュエーションから警察に届けることは難しい。そのことに気づいていた浦見はいっそのこと、カメラを購入した記憶から消したいと思い、さっきの菊池に頼み込もうかと本気で考えていた。
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