悪魔が来りて梟を欺く(7)
幸善と東雲、怪しい我妻の三人で高校を出発し、フクロウカフェに向かった――のだが、そこで一つの問題と直面することになった。
東雲と怪しい我妻を引き連れ、先頭を歩いていた幸善が不意に立ち止まる。不思議そうに東雲が幸善を覗き込み、我妻が暑さで死にかけているが、幸善は一切顔を上げずに手元のスマートフォンを眺めている。
「どうしたの?」
東雲が聞いてみると、我妻がついに耐え切れなくなったのか、フェイスマスクとゴーグルを一度外していた。その中で幸善が顔を上げ、辺りを見回し始める。
「これってさ…」
「ん?」
「店ある?」
「え…?」
幸善の放った異次元からの質問に、東雲はすぐに顔色を変えていた。その隣で我妻は真っ赤に火照った顔を扇いで冷まそうとしている。
「もしかして、幸善君…迷った?」
「迷ったのか、もしくは店が存在してないのか…」
「いや、迷ったよね?もうない店の割引券とか貰わないでしょう?」
「そう決めつけることないだろう?散り際の足掻きがあの券かもしれない」
「散り際の足掻きって何?」
幸善が三枚の割引券を取り出してみる。割引券には店名の他、店のある住所までしっかりと書かれている。それから調べているから、普通に考えて迷うはずがないのだが、店のある場所まで来ても、店は一向に見当たらない。
そう思った直後、幸善は信じられないものを目の当たりにした。
「東雲…」
「どうしたの?」
「住所を打ち間違えていた…」
「なら、永遠に辿りつかないね」
呆れた顔の東雲に謝罪しながら、幸善は今度こそ間違えないように気をつけながら、地図アプリにフクロウカフェの住所を打ち込む。
ちなみに―――店名とフクロウカフェというワードで、検索することで店の場所が出ないかと昨晩の時点で確かめたが、アプリも検索サイトも把握していないのか、店の情報は一切出てこなかった。
新たに打ち込んだ正確な住所から、地図アプリが本当の店の場所を示す。それを確認してから、幸善は今度こそフクロウカフェに辿りつくために歩き出そうとした。
その直前――スマートフォンから顔を上げた直後の幸善に一人の男がぶつかった。不意に体勢を崩し、転びそうになった幸善を我妻が支えてくれる。ぶつかった相手の男も、体勢を崩してはいたが、転ぶところまでは行かなかった。
「すみません」
幸善が咄嗟に謝罪すると、相手の男が笑顔でかぶりを振る。
「いや、こっちこそ、ごめんね。ちゃんと見てなくて」
「いえ、俺が道の真ん中に立ってたから…」
謝罪する幸善に、気にしないように言いながら、男は不意に足下に手を伸ばした。どうやら、ぶつかった時に幸善が持っていた割引券を落としてしまったらしい。
「これ、落としたよ」
「すみません。ありがとうございます」
そう言って、幸善が男から券を受け取ろうとしたところで、男が何かに気づいた顔をする。
「あれ?これって、もしかしてフクロウカフェの…?」
「え?ご存知なんですか?」
「うん。この店には良く行くし、何なら、今から行くところだよ」
「本当ですか!?」
思わぬところでフクロウカフェを知っている人物と出逢い、幸善と東雲はどこか安堵していた。ここまで迷ったのは住所を打ち間違えたからだが、この先にもあった迷う可能性がこれで完全になくなった。
「あの…俺達、この店に行くのが初めてで。案内してもらってもいいですか?」
「ああ、うん。いいよ」
男が快く引き受けてくれたことで、幸善は必要なくなったスマートフォンを仕舞う。この頃には我妻の体温も下がったようで、ようやく顔を扇ぐことをやめている。
「けど、珍しい券を持っているね。それって、貰える人が限られるはずだけど…誰から貰ったの?」
「知り合いの女の子から」
「もしかして、穂村さん?」
「え?穂村さんと知り合いなんですか?」
「ああ、うん。店で良く一緒になるからね」
そんな会話をしながら歩き出そうとしたところで、男が再び何かに気づいた顔をする。
「そういえば、名乗っていなかったね。俺は
「俺は頼堂幸善です。それでこっちが…」
「東雲美子です」
「我妻京です」
ようやく互いに自己紹介を終えてから、四人はフクロウカフェに向かうために歩き出す。
その途中、幸善はふと疑問に思ったことを聞いていた。
「鈴木さんって穂村さんと良く逢うってことは、それくらいの時間にフクロウカフェにいるんですか?」
「うん、そうだね。少し自由に時間を作れる仕事なんだよ。ただ、これから大きな仕事があるから、しばらく行けなくなりそうなんだけどね」
「どんな仕事なんですか?」
「詳しいことは言えないけど、貿易関係の仕事だよ」
「貿易関係…」
不意に幸善は相亀の捕まえた密輸犯のことを思い出す。流石に関係ないことくらいは分かっているが、その思考にすぐ行くあたり、奇隠に染まってきていると思ったら、笑っていいのか悩ましい。
「ねえ、幸善君」
東雲が突然、囁くように声をかけてきた。鈴木と話していた幸善はその声に驚き、真ん丸くした目を向ける。
「どうした?」
「あの券って、女の子に貰ったの?」
「そうだけど?」
「どんな子?」
「アルバイト先の同僚の友達だけど?」
「年齢は?」
「俺達と多分同じ」
「そうなんだ…」
「な、何?」
「何でも…」
東雲は心なしか冷たい目で見つめてきていたが、その理由を言ってくれることはなく、それからしばらく――四人は無事に目的地に辿りついていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます