人鳥は愛に飢えている(4)

 無事に東雲との勝負に勝利した相亀は学校を後にし、そのまま家に帰るつもりだった。今日はQ支部に行く予定がなく、多少の用事があったとしても、明日行く予定なのだから、今日行く必要はない。

 今日はさっさと家に帰って、さっきの一件もあったし、早めの夕飯にでもしようかと考えている中で、相亀は早朝に弁当を作った時のことを思い出す。そういえば、冷蔵庫の中身がほとんどなかった気がする。もしかしたら、食材を買って帰れなければ、真面な食事も作れないかもしれない。


 そう思った相亀は咄嗟に足をスーパーに向けていた。今日の夕飯くらいは確保しないと生きていけない。

 夕飯のメニューをある程度考えながら、今日は何が安かったか思い出そうとする。チラシはチェックしたはずだが、買い物に行くとは思っていなかったため、具体的にメモをしていなかった。そのことを後悔しながら歩き、スーパーが近づいてきたところのことだった。


 相亀は背後に気配がくっついていることに気づいた。一定の距離を保ったまま、相亀の少し後ろを歩いている。それがたまたまであれば問題ないのだが、その気配のつき方は最近感じていたものに非常に良く似ていた。


 つまり、相亀は尾行されている可能性が非常に高い。


 しかし、尾行されているとして、それは一体誰に?相亀が思いつく尾行してきそうな人物と言えば東雲だが、東雲はさっきそういったことがないように釘を刺したばっかりだ。東雲が勝負の結果を無視した可能性も考えられるが、そうだとしても相亀を今、尾行してくるだろうかという疑問もある。


 そういえば、尾行していることに気づいていたと知られるわけにはいかないので、尾行するな、と直接的に言ったわけではないな、と思いながらも、流石に自重するかと東雲の可能性を否定しようとしたところで、背後に感じていた気配の中に具体的に知っている感覚が混ざっていることに気がついた。


 その瞬間、相亀は東雲の可能性を完全に消し去り、完璧な警戒態勢に入る。この尾行している気配は間違いなく、が混ざっている。


 つまり、


 しかし、そうなると本格的に尾行の理由が分からない。妖怪が相亀を尾行してくる理由はないはずだ。


 知り合いの妖怪か、と幸善が飼っている黒い犬の姿を思い浮かべながら考えてみるが、それなら尾行する必要があるとは思えない上に、知っている気配かどうかの区別くらいはつくはずだと自負している。もちろん、確実ではないと思うが、知り合いではない可能性の方が高い。

 不意に頭に浮かんだのはグラウンドでの一件だった。あの一件を見ていた妖怪なら、相亀が仙人であることに気づくはずだ。仙人である相亀に保護を求めている妖怪か、仙人を揶揄おうと思った妖怪か、前者なら声をかけるべきだが、後者なら厄介でしかない。


 相亀は悩みながら、一度立ち止まってみることにした。相手が妖怪なら、ただ同じ場所を移動していただけの可能性もある。それなら、相亀が深く考える必要はなく、もう見えてきたスーパーで買い物をしたらいい。


 そう思い、相亀が立ち止まった直後、背後の気配が猛烈なスピードで動き出した。まるで相亀に一直線で走ってくるようなスピードに相亀が驚き、慌てて振り返ろうとしたところで、その気配が飛びかかってくる。

 襲われた、と相亀は一瞬思ったが、相亀の身体に抱きつくばかりで、何か攻撃をしてくる気配はない。


 そう思っていると、グワーとアヒルか何かの鳥類のものに聞こえる鳴き声がした。相亀の頭の中でアヒルやカモの姿を思い浮かべながら、自分に抱きついた妖怪を引き剥がす。


 その直後、相亀は口をあんぐりと開け、驚きの声すら出てこないほどに驚いていた。

 相亀の目の前で再び妖怪が鳴き声を上げる。その姿は相亀も何度か見たことのあるものだが、少なくともスーパーの近くで見るものではなかった。


…?」


 相亀は状況が理解できなかったが、取り敢えず、そのペンギンの妖怪が誰かに目撃される前に、Q支部に連れていく必要があることを悟った。

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