第15話 砂漠の姫

復旧作業に入る黄聖国┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



(シヴァと詩音の夢の中)


目を覚ますと、そこにはいつもの光景が広がっていた。


最近は決まって縁側に膝を曲げて仰向けに寝ている。



首を右に傾けると、詩音(しおん)がいつものように足を揺らしながら縁側に座っている。



「おやすみ、シヴァ」

最近の詩音は決まってこの言葉から会話を始める。


「おはよう、詩音」

シヴァは体を起こしながら詩音にいつものように返答する。



詩音は何も無い空を見上げる。

「珀(はく)と会ったんだな」


シヴァは何も言わず頷く。


「意外と変わってなかったな。特にあの潤った肌、羨ましい...」

詩音は珀の肌に嫉妬する。


シヴァは詩音の肌を凝視する。

「詩音も綺麗な肌してるさ」


詩音はシヴァの頭に指を近づけデコピンする。

「あまりジロジロ見ないで」


シヴァは詩音のデコピンの破壊力から頭を両手で押さえる。



詩音は膝に視線を落とすと、目を閉じて話し始める。

「生命樹ってあるんだね、この世界に」


シヴァはおでこから手を離して詩音の方に視線を向ける。


「良かった。生命樹がこの世にあって。私の肉体はまだそこにある」

詩音は笑顔でシヴァの方を見る。


「うん!詩音の肉体は...。え?肉体...?どういうことさ?」

シヴァは首を傾げて詩音に尋ねる。


詩音はシヴァに説明した。

「人間の肉体には必ず魂が宿る。逆に肉体が生命活動を停止すれば魂は肉体から離れ、在るべき場所へ還る。樹化異にされた私の肉体は死んだ。でも魂が肉体を離れない限り、生命活動は終わらない。だから魂を無理やり妖刀に封印したの。すると私の肉体は消滅する、でも私の魂が生きてる限り肉体は復活する。ただし、生命樹の空間に限るけどね」


シヴァは悲しい顔で詩音を見つめる。

「君はもう生命樹の空間でしか生きられないのかい?」


詩音は笑いながら首を横に振る。

「ううん、違う違う。復活する為には生命樹の空間に行かないとダメってこと。式神家(しきがみけ)の呪いも私にはあるから深く考えなくてもいいよ」


シヴァはずっと疑問に思っていたことを詩音に尋ねる。

「詩音、生命樹のある場所ってどんなところなのさ?」


詩音はまた空を見上げる。

「分からない、悔しいけど知らないの。でも、生命樹に行くには"サン教の三大聖地"を巡ればいい。これが分かっただけでも大きな収穫だ」



シヴァには何となく夢の中にある邸宅に日が昇ったように見えた。


詩音が再び地上に戻る日は近づいている。


シヴァは途端に舞い上がたい気持ちが押し寄せてきた。











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(黄聖国 地下の遺跡)


崩れ落ちた地下の遺跡。


奇跡的に無事だった"女神の壁画"の前にシヴァとゾロロの2人はやってきていた。



ゾロロは壁画に近づいていき、実際に手で触る。

「サン教の聖地が関係してくるとはな...。それにしても何て書いてあるかさっぱり理解できないぞ」


壁画には古代文字よりさらに古い記号のような言葉で書かれており、現代人にはさっぱり理解することができなかった。



ゾロロとシヴァは文字の前にしゃがみこんで色々なことを考えていた。








すると、そこへジャスミン姫とソフィアがやってくる。


「シヴァ、出発の準備が整いました」

ソフィアはシヴァに伝える。


ゾロロは立ち上がると顎に手を当てながら悩み続ける。

「分からない、この文字が何て書いてあるのか...」



シヴァは急に閃いたのか、何かを呟く。

「『"我、四方を水に囲まれた杜の奥深くに眠る』...」



シヴァの言葉を聞いたジャスミンは何かを思い出す。

「シヴァ様。その言葉は兄様がよく話していました。1本の美しい木を囲む泉の女神の話」



ゾロロは頭を掻きながら、もう一度壁画に目を向ける。

「この言葉は泉の女神の話なのか?それとも何だ?」



シヴァはゆっくりと腰をあげる。

「考えても分からないなら調べればいいのさ。そしてまたやってくればいい」



ジャスミン姫は俯きながらシヴァに尋ねる。

「シヴァ様、また城に危機が訪れたら...、また会いに来てくれますか...?」



シヴァは胸を張って誓った。

「もちろんさ!必ず助けにくる!」



ジャスミンはシヴァの言葉を聞くと嬉しさのあまり涙が溢れ出す。

「あ...、会いに来てくださるのですね...?」



シヴァは最後にジャスミンの手を握る。

「必ず来るさ、ジャスミン。じゃあ、また来るさ!」



シヴァは手を離そうとするが、ジャスミンは手を握り続けた。



「ジャスミン?」

シヴァは不思議に思いジャスミンの顔を覗き込む。



「港までお見送りに行かせてください、シヴァ様」

ジャスミンは胸の高鳴りが止めることができなかった。


繋いでいる手は震えが止まらない。



「うん、行こう!」

シヴァはジャスミンの手を引っ張って港のある場所へと向かった。



別れの前、ジャスミンにはこれが精一杯、しかしジャスミンはこの上なく幸せな瞬間であった。








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(黄聖国 首都オシリス 港)



シヴァたちが港に着くと、珀たちも準備を済ませていた。



シヴァは珀に向かって手を振る。

「おーい、珀!」


シヴァの姿を見つけた珀はゆっくり歩み寄って行った。

「君たちも出発するのだな、シヴァ」


シヴァは背中の陰陽の刺青を珀に見せる。

「詩音も珀の顔を見れて嬉しそうにしてたさ」


珀はシヴァに刻まれた陰陽に触れると涙が出てきた。

「そうか...。それは良かった」


シヴァは珀に詩音のことを話した。

「詩音はずっと約束を果たしたいって言ってるさ。皆で揃って"あの木の下で桜を見ること"を」


珀は涙を手で拭う。

「桜か、懐かしいなぁ。あの日から私たちの時は止まったままだからなぁ、動かさないとな...」


シヴァは珀に生命樹について知っていることを話す。

「珀、話したいことがあるのさ。生命樹の在り処は"サン教の聖地"が関係している。そして何か悪巧みを考えているのは"Treedom(ツリーダム)"って組織さ」


珀は深く頷く。

「うん、承知した。シヴァ、私からも一つ分かったことを教えておくよ。樹化異の成分はこの世に存在する樹木の性質と同じだ。"竜陽樹(りゅうようじゅ)"、太古より竜が棲むとされる秘境の木だ」


シヴァは珀の話に目から鱗であった。

「ありがとう、珀。それなら樹化異の解毒薬が作れるかもしれないさ!」


珀はシヴァと握手しながら話し出した。

「無理かもしれないけど薬のことは私に任せてくれ。あと、華の大陸(はなのたいりく)の友にも伝えておくよ。シヴァは生命樹を探すだろ?」


シヴァは笑みを浮かべる。

「もちろんさ!必ず場所を突き止めてみせる!」


シヴァと珀は最後に力強く抱き締めあうとそれぞれの船へと向かって行った。



互いに最後に交わした言葉は同じだった。


"また会おう、そして桜の木の下で"








(小型輸送機)


カリティアが盗んだ黒聖国(こくせいこく)の水陸両用の飛行機は、芸術の才能のある紅覇(くれは)が色を塗り、シヴァたちだけの船になっていた。



小型だが、7人で乗るには十分すぎるほどの広さであった。



窓の外を眺めるシヴァにソフィアは話しかける。

「シヴァ、滝壺の親友のことをピクシーから聞きました。生命樹を探す理由も」


シヴァはソフィアの方を振り返る。

「えっ、そうなのかい...。困ったな...」


ソフィアはシヴァの隣に座る。


シヴァはソフィアに親友の話を少しだけする。

「端麗で奥床しい、たおやかさもあり、実に見目麗しい彼女に僕は生まれて初めて恋をした。どうしても振り向いて欲しかった。でも、彼女と過ごす内に感情は変わっていき、恋ではなく尊敬になった。それは彼女も同じだった」


ソフィアはシヴァの話に聞き入った。


シヴァはソフィアの方を向いて話を続けた。

「彼女を見習うべきところは沢山あった。僕にとっては尊い存在...。そんな彼女のような人と"親友"になれたのは僕たち"同志"にとっての誇りだ」


ソフィアはこの時、シヴァが別の誰かになったように見えた。


白く透き通る肌、濁りのない眼、凛とした誰かに...。






砂漠の姫君~完~┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

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