第8話 雪山の試練

吹雪の中、歩を進める一行┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



(白聖国 北の山脈 密林)



狩人シヴァ・グリフィンは、騎士ソフィア・オリヴァーと情報屋ゾロロ・オリンピアの3人で体長が2倍の不死身の熊の討伐に来ていた。



日は沈み、辺りは暗闇に包まれていた。


星光が微かに足元を照らす。







「はぁ、はぁ、はぁ...」

ソフィアは寒さと疲労に耐えながら雪山を登っていた。



すると先頭を歩くシヴァが急に足を止める。


シヴァは岩肌を見ながらいった。

「この上さ。ゾロロ、ソフィアを連れてあの場所まで移動しておくれ」



『鸞鳥(らんちょう)』

シヴァは高速で移動すると一気に崖を登っていた。






ゾロロはシヴァが行くのを確認すると歩き始めた。

「よし、行くか。着いてこい、騎士の女」



ソフィアはゾロロに尋ねる。

「ゾロロ、どこに行くのですか?」


ゾロロは歩きながらソフィアに答える。

「決まっているだろ?シヴァのいる所へ向かうだけだ」


ソフィアはゾロロを信じてついて行くことにした。








(北の山脈 氷の湖)


ソフィアとゾロロが歩いていると突然目の前に氷の湖が出現する。



ソフィアはゾロロに尋ねる。

「ここは一体どこなのでしょう?」


ゾロロはソフィアに話す。

「さあな、分からん。だが、ここに来て正解だったようだ」



ゾロロの発言の意味がソフィアはすぐに理解することになる。


凍った湖の反対側から湧き出すように"樹化異(きかい)"が出現したのである。



ソフィアは右肩に描かれた"獅子の刺青(オリヴァー家の紋章)"を発動させる。


ソフィアは全身に騎士の鎧を纏い、真珠色の両手剣を握り樹化異に向けて構える。




「流石は騎士、樹化異を任せる」

ゾロロは率先してソフィアの背後に隠れる。


「はい、危険ですから離れていてください!」

ソフィアは樹化異に向かって突っ込んで行く。




樹化異たちはソフィアに向かって一斉に飛びかかる。



『オリヴァーフラッシュ』

ソフィアは剣から閃光を放ち、樹化異たちの動きを鈍らせる。


樹化異たちの動きが鈍った隙にソフィアは首をはねていく。



樹化異たちも必死に抵抗する。


樹木の腕をソフィアに向かって伸ばし、体に巻きつきにかかる。


ソフィアは樹化異たちの樹木の腕を避けながら蕾を斬り裂いていく。




しかし、突然足が思うように動かなくなる。


「まさか、手だけではなく足も伸ばしていたのか!?」

ソフィアはその場から身動きが取れなくなってしまう。



残り数体の樹化異たちはソフィアのことを囲むように集まってくる。



「くそっ、動け!」

ソフィアは剣で樹を斬ろうとすると樹木に絡みつかれてしまう。



絶対絶命の危機、樹化異たちがソフィア目掛けて樹木の腕を伸ばしたその時だった。






突然、空が炎で覆われる。


炎の空から1人の男が槍を持って現れる。



「ここは慈悲なき魔界、悔い改める者のみ魂を救済する。『聖火・業火煉獄(ごうかれんごく)』」

男は左腕を燃やしながら、左手に握られた槍を地面に突き刺すと同時に地面に巨大な魔法陣を出現させる。



地面に描かれた魔法陣の空間は黒炎をあげて燃え盛る。





ソフィアは気がつくと魔法陣の外に座っていた。


ソフィアは後ろを振り返ると恐ろしい光景が目に飛び込んでくる。

「これは...」




赤黒い炎はまるで踊るように燃え、樹化異たちはもがきながら塵になっていくのである。


その光は何よりも巨大で、火災や戦火の炎と同じような恐怖を覚えた。





「これが炎の精霊魔法使いの真の実力だ。"無から有を生み出し、有を無にする炎"、これが"炎の伝承"だ」

ソフィアの近くに現れたゾロロは"炎の精霊魔法使い"について詳しく説明する。



ソフィアは黙って悪魔の炎が消えるのを見ていた。






炎は次第に小さくなっていき、中から1人の男が歩いてくる。



ゾロロは男に尋ねる。

「終わったか?」


炎から出てきた男"シヴァ"はソフィアとゾロロに伝える。

「ああ、任務完了さ」



ソフィアはこの時、シヴァの顔が泣いているように見えた。



「さあ、帰ろう」

シヴァは無理に笑ってソフィアに手を差し伸べる。


ソフィアはシヴァの手を掴んで立ち上がる。


シヴァは下を向いて肩を落としながら来た道を戻って行った。



「シヴァ...」

あまりに人を殺めることに抵抗があるシヴァにソフィアは同情する。


ソフィアとゾロロもシヴァの後を歩いて帰路に向かおうとしたその時だった。






ドーンッ



強烈な衝撃波を放ち、シヴァの前に全身の至るところに刺青の入った男が現れる。




刺青の男の登場にシヴァは左腕を燃やし、一気に戦闘態勢に入る。

「君は何者だい?」



シヴァの問いかけに刺青の男は被っていたフードをとる。

「俺だよ、覚えてないとは言わせねえ。そうだろ?シヴァ・グリフィンよ!」



シヴァは刺青の男の顔を見ると酷く動揺する。

「君は..."ロスト"...」



ロストの名前を聞いてゾロロも動揺する。


ゾロロの様子を見てソフィアは尋ねる。

「シヴァ、ゾロロ、彼は何者なのですか?」


ゾロロは分かりやすくソフィアに説明する。

「黒聖国(こくせいこく)で最も懸賞金の高い指名手配犯だ。本名も住居も不明、それが"殺戮兵器 ロスト"だ」



シヴァはロストの情報を付け加える。

「この男は...、僕が最も許せない人間だ!」


シヴァのあまりの怒りようにソフィアとゾロロは驚愕する。



ロストは怒るシヴァを見て高らかに笑う。

「ふはははははは。最も許せない?まさかあの女のことか?アイツは和人(わじん)の割には良い女だったなぁ」



シヴァはロストの顔面目掛けて殴る。



ロストはシヴァの拳を受け止めるとさらに挑発を続ける。

「ぎゃははははは。何ムキになってやがる?俺から彼女をとられて悔しかったか?それとも...」



『聖火・神火旋風(しんかせんぷう)』

シヴァの拳から渦巻く炎が出現し、ロストを後ろの林ごと吹き飛ばす。




ロストは林から起き上がってくるとシヴァに向かって吠える。

「楽しませてくれよ!ぎゃはははははは」



ロストは四つん這いでまるで狼のような構えをとる。

「吹き飛べ!『人狼戦闘術・牙狼砲(がろうほう)』」


強力な熱光線をシヴァに向かって放つロスト。



ロストの口から放たれた強力な破壊砲は、近くの林を吹き飛ばした。


破壊砲によって林の中に謎の穴が創造される。




「ちっ、ちとやりすぎたか?」

ロストは頭を掻きながら林から去っていく。


「まあ、いっか。俺は樹化異を作ったら帰るだけだったからな...」

ロストは北の山脈から完全に姿を消した。








ソフィアは目覚めるとまた信じられないものを目の当たりにする。


ロストに放たれた破壊砲はソフィアとゾロロの元には届いていなかったのである。




ソフィアは慌てて前方にいたシヴァに目を向ける。

「シヴァ、無事ですか!?」




ソフィアの目の前には炎で作られた巨大な盾で身を守るシヴァがいたのである。

「『聖火・浄火の盾(じょうかのたて)』。ああ、無事だよ。それよりソフィア、山の反対側を見てごらん」



ソフィアはシヴァに言われたとおり山の反対側を見る。



「これは...」

ソフィアは言葉を失う。








燦然と輝く1つの光源が、山々の隙間から顔を出す。


雪原の大地が照らされ、黒から白に色を染めていく。







美しい景色にソフィアは思わず呟く。

「何も言葉がみつかりません...」


ソフィアは人間の語彙の少なさに落胆した。


ただ美しい、輝かしい自然の絶景にソフィアは思わず涙が溢れ出てきた。




シヴァはソフィアの隣にやってくる。


「この景色をソフィアに見せたかったのさ。だから夜中に調査に向かったのさ」

シヴァはソフィアに夜中に出た意味を語る。



ソフィアは景色を見ながらシヴァの話に耳を傾ける。



シヴァは話を続ける。

「世界はもっと広い。砂漠やジャングル、色鮮やかな港町、異文化の城、美しい桜の咲く場所...。狩人ってのは辛いし大変な仕事だけど、夢のように冒険ができる職でもあるのさ!」



ソフィアはシヴァの顔に視線を移す。


シヴァは曇りなき眼で真っ直ぐに未来を見ていた。



シヴァはソフィアの顔を見ながら話した。

「ソフィア、これからもよろしくさ!」


ソフィアは心の奥底からシヴァに頷いた。

「はい!どこへでも着いていきます!」




狩人シヴァ・グリフィンの冒険が今、始まる!




狩人の誕生┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る