遠堂さんちのエンデュミオン!~前職、救世の大魔導師。特技は広域殲滅魔法だ~

刺ノ宮

平和な世界の大魔導師

第1話 解雇、平和な世界で

 今から三年前、魔界と呼ばれる大陸を総べ、世界を闇に染めんとした魔王は、勇者セフィロ率いる選ばれし戦士達によって滅ぼされた。


勇者 セフィロ=ディア


祈りの聖女 ファーリア=レイテ


鉄壁の大戦士 パラドン=エーデンハイル


救世の大魔導師 エンデュミオン=クラウスフィア


不屈の狂戦士 リュノスケ


暗殺教団の女頭目 グラニカ=シオン


妖艶なる元魔王軍将 エレナリア=グラニファー


 この7人と、それを支えた多くの人々によって、世界に再び平穏が訪れた。


 しかし、旅が終わろうとも彼らの人生は続いていく。


 勇者セフィロは魔王軍残党を殲滅し、その後も自らの力を平和の維持に役立てようと志して、伴侶である聖女ファーリアと旅に出た。


 鉄壁の大戦士と呼ばれたパラドンは、魔王に壊滅させられた故郷に戻り、その復興に力を注いだ。


 魔王軍の諜報、暗殺によって陰から世界を救った暗殺教団の女頭目グラニカは、教団を解散し、孤児や亡夫を集めて、自立を支える孤児院を作った。


 異なる世界より召喚されし男、不屈の狂戦士と恐れられたリュノスケは、女神に功績を讃えられ、皆に惜しまれながらも元の世界へと帰還した。


 かつて魔王軍の将であったサキュバス、エレナリアは魔王によって虐げられていた魔界の平民を導き、人間との和平の架け橋となった。


 そして、あらゆる魔導に通ずると称された救世の大魔導師 エンデュミオンは自らの経験と叡知を広めるべく、魔術学院で教鞭をとる道を選んだ。


偉大なる七人の英雄。

彼らはこうして、平和な世でそれぞれの役目を見つけて幸せに暮らしていた。



そのはずだった。



「は? 来月から講義がしばらくない? ま、待て!それでは私の受け持ちはどうなる!?」


ガリオン王立魔術学院の教員室に、男の声が響く。


「大変申し訳ないのですが、エンデュミオン先生には、別の科目をご指導願えればと……」


怒鳴り付けられている小柄な男は、そう言って、数冊の本を手渡す。


その表紙をみた男は目を見開き、さらに声を荒げた。


「バ、バカを言うな! 魔王討伐の功績輝かしいこの私に、家庭魔法学を受け持てと言うのか!? 対魔物戦闘魔法学、魔法防衛学、広域殲滅魔法学の授業でなければ、教える気にもならん!」


「エンデュミオン先生のご功績は理解しております。しかし、当学院にしても、生徒の数は減るばかり。雇用を保つので精一杯なのです」


 魔術学院は、魔王が世界を手中に納めようとし始めた百年程前に、『魔法を普及させ、魔族との戦に負けぬ強靭な国を』という理念から創られた。しかし、魔王が倒れた今、魔族との和平が進み、魔法の利用は戦争ではなく、産業や生活の中に場所を移さざるを得なくなっていた。


「それは私とて解っている!しかし、それでは私のプライドはどうなるというのだ!」


「エンデュミオン先生……もはや魔法で殺し合いをする世の中ではないのです。いつまでも血塗られた戦闘魔法にプライドをお持ちならば、この学園に貴方の居場所を用意するのは、難しいかと」


 沈痛な面持ちではあるものの、その男、学院長の意思は固く決まってた。


「ぅ、く、この私を失って後悔せぬことだな!今まで世話になった、失礼する!」


 エンデュミオンは捨て台詞を残し、カツカツと神経質な靴音を共に教員室を後にする。


「学院長、良かったんですか? あの英雄エンデュミオン様にあのようなことを……」


 隠れて二人のやり取りを覗いていた教員達が、ぞろぞろと部屋に入ってくる。

そのうちの一人、若手の教員が学院長にそう尋ねた。


「仕方ありません……今や、戦闘魔法を学ぼうと学院の門を叩くものは皆無。時代の移り変わりとは、本当に残酷な物です。申し訳ありません、エンデュミオン様……」


その言葉に、全員が目を伏せる。

世界に平和をもたらした英雄を嫌う者など、いるはずもない。


そして、その英雄が落ちぶれる様を見たい者も、また居るはずがなかった。



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