第9話 廃校舎

 青山の操縦する攻撃ヘリコプター・アパッチは、正式名称をAH-64という。この機体は、旧マクドネル・ダグラス社が開発した戦闘用ヘリコプターで、機体に取り付けられた対局車ミサイル、ロケット弾、チェーンガンなどの重装備から『空飛ぶ戦車』と呼ばれている。本来は前席が副操縦士兼射撃手、後席が操縦士の二人乗りであるが、攻撃用の装備を取り外したこの機体は、前席に二人乗れるように“おやっさん”によるが施されてあった。さらに、日本国内で使えるように、ヘリコプター専用のGPSナビゲーションシステムが搭載されていた。

「前席は少し窮屈ですが、少しの間ですから我慢してください」

 機内はエンジンの爆音で通常の会話はできないので、青山がマイク越しに言った。

「あのぉ、このヘリには機関銃やミサイルなんかの武器類は、もちろん積んでないでしょうね?」と黒田が心配そうに聞いた。

「この機体は今でも、正式には米軍横須賀基地に所属していますから、国内法によるそのような制限は受けません。しかし、そんな武装装備は日常生活には必要ありませんから全て取り外しています。安心してください。日本の法律は厳格に遵守じゅんしゅしています」と青山が説明した。

「日常生活には、こんなヘリコプター自体が必要ないと思いますが・・・・・・」赤城が青山に聞こえないように小さくつぶやいた。

「ところで、ヘリコプターのライセンスは、日本で取得したんですか?」と黒田が聞いた。

「いいえ、アメリカにいた時です。父親の仕事の関係で一時期アメリカに住んでいましたから」と青山が答えた。

「青山さんは帰国子女なんですね。アメリカでは、ヘリコプターの操縦ライセンスが簡単に取れるんですか?」黒田が再び聞いた。

「いいえ、アメリカでも操縦ライセンスの取得は、それほど簡単ではありません。しかし、頑張って取りました。私の唯一の趣味が空や海の乗り物に乗ることなので、ヘリコプターの他に飛行機や船舶の免許も持っています」と青山が少し嬉しそうに答えた。

 三人を乗せたアパッチが一山超えて星久保村を離れると、暗灰色の雪雲も途切れて所々に晴れ間が見えてきた。星久保村のサイエンス研究所のヘリポートを飛び立ってから、およそ十分が経過した。

「そろそろ小学校跡地が見えてくるはずです」GPSナビと速度計を確認しながら青山が言った。

 すると、アパッチ正面の視界が開け、その先に山田山小学校跡のグラウンドと校舎らしきものが見えてきた。山田山小学校は山間部にある小さな小学校で、村が合併して新しい市になったときに、市内の別の小学校に統合されて廃校になっていた。

 青山は、山田山小学校跡のグラウンド上空でアパッチを一旦静止させ、ホバリングしながら旧校舎の周辺をうかがった。グラウンド上空からは、旧校舎の端にある駐車場に、福山のものと思われる黒塗りの高級国産車が無造作に放置されているのが見えた。三人は、その周囲を慎重に見回したが、この車以外の車が確認できなかった。鬼塚局長が派遣した危機管理官たちは、まだここには到着していないようだった。青山たちは、ゆっくりと降下しながら小学校跡のグラウンド中央に着陸した。

 青山はアパッチのローターのスイッチを切り、プロペラの回転が止まったのを確認して、エンジンのスイッチを切った。

「お疲れ様でした。無事に目的地の山田山小学校に着きました」と青山が言った。

「ありがとうございました。ご協力感謝します」

「ここまで運んで頂いて申し訳ないのですが、青山さんとは校舎内部に一緒に行くことはできません。民間人をこれ以上、危険な事に巻き込むことはできません」と赤城が言った。

「危険なことにはもう十分巻き込まれていると思いますが、私は臆病なので、この場所で待機させてもらいます」と青木が冷静に応えた。

 赤城と黒田の二人は、飛行中に被っていた窮屈なヘルメットを脱いで座席に置いた。

「何だか緊張してきたわ」と赤城が言った。

「何とかなりますよ。臨機応変だましだましで行きましょう」と黒田が暢気のんきに言った。

 内閣府危機管理官は特殊な国家公務員で、警察官や麻薬取締官と同様に捜査権と逮捕権が認められている。ただし、警察官のように拳銃の携行は認められていない。赤城はヘリコプター内で、青木に強く勧められて米軍の防弾ベストを着用しているが、黒田は動きにくいからといって固辞して着用していない。

「ヘリのあんな大きな音がしたら、私たちが来たことはとっくにバレてますね」と黒田が言った。

「そうでしょうね。とにかく校舎に入りましょう」と赤城が言った。

 ★

 赤城と黒田が校舎に入ると、最初の部屋の表札には、小学校の当時のままに『給食調理室』と書かれてあった。部屋の扉をゆっくり開けて中を覗くと、部屋の奥にある流し台の周辺に三角フラスコやビーカーが置かれているのが目に入った。また、部屋の奥には、動画で見たのと同じ孵卵器と冷凍庫が置かれていた。

「ここで間違いないですね」と黒田が赤城に言った。

「そのようね」と赤城が小さな声で短く応えた。

 二人が足音を忍ばせて廊下をまっすぐ進んでいくと、二つ先の教室が黒いカーテンで遮光されているのが外部からもすぐにわかった。黒田がゆっくり扉をスライドさせると、薄暗い教室の中にポツンと、目隠しをされた福山が座らされているのが見えた。

「誰かわからんが、助けてくれ。私は拉致らち監禁されている。私はワクチン研究所の福山だ。助けてくれ!」と誰かが入ってきた気配に気付いた福山が言った。

「赤城さんと黒田さん、狭いところですが中にお入り下さい。あなた方に会うのはこれで二度目ですが、こうして話すのは初めてですね」福山の後ろにある教壇に隠れていた山根公典が、姿を現して静かに言った。薄暗い教室内には暖房器具はなく、山根は厚手のセータを着ていた。山根の背後には、林田秋菜と思われる女性が控えていた。林田は、山根のものと思われる大きめのダウンジャケットを羽織っていた。薄暗くて遠目にはよく見えないが、二人の手には拳銃らしきものが握られていた。

 赤城と黒田の二人は言われるままに、教室の中に入っていった。

「福山。目隠ししたお前には見えないが、こちらは二人とも拳銃を持っている。撃たれたくなかったら、少し静かにしていろ」と山根が言った。山根に命令された福山は、よほど悔しいらしく、奥歯を強く噛みしめていた。

「山根さん。いくら大学をクビになったからといって、上司を逆恨みしてはいけません。ましてや、バイオテロなんかはもっての外です」と黒田が言った。

「色々とヒントをあげたのに、君たちは、まだ何もわかってないようだね。これまでにしてきた福山の悪行の数々を。信じてもらえなくてもいいが、私は実験データの捏造など絶対にしていない!」と山根が言った。

 それから、山根がゆっくりと語り始めた。

「ここにいる福山は、当時、北関東医科大学の特任教授で私の上司だった。研究室には多くの優秀な研究者がいて、助教に採用された時は本当にうれしかったことを今でも思い出す。でも、ある時に研究室の学生から、福山のアカデミックハラスメントの相談を受けた。また、先輩の助教からは福山のパワーハラスメントの噂を聞いた。止せばいいのに、愚かな僕はちっぽけな正義感を振りかざして、福山にハラスメントの改善を訴えた」

「そうしたら、どうなったと思う? 想像できると思うが、福山は謝罪するどころか激怒して、私の身に覚えのない実験データの捏造をでっちあげた」

「僕がいくら強く否定しても、大学には認めてもらえなかった。教授の権力は大学内では絶対的だ。結局、僕は懲戒免職になったよ。実験データ捏造のレッテルを張られた者に、研究者としての就職先はどこにも無い。仕方がないから、就職情報誌で見つけた予備校の非常勤講師として、生物を教えながら糊口ここうをしのいだよ」と山根が悔しそうに過去を語った。

「みんな出鱈目でたらめだ!」福山が大声で否定した。

「黙りなさい!」と今度は林田が強い口調で言った。

「お前は何者だ。いったい私とどんな関係があるんだ?」福山が聞いた。

「あなた、林田義則よしのりという名前は知っているわね?」と秋菜が質問した。

「林田――義則・・・・・・。誰だ、そいつは?」福山が聞き返した。

「忘れたとは言わせないわ。生命科学の研究者で、あなたの大学の後輩だった林田義則、私の父よ」と秋菜が強い口調で言った。

「父はワクチン研究の過程で、ワクチン精製に関する新しいアイディアを思いついたわ。当時の父は、信頼していた先輩であるあなたに、そのアイディアを話して評価してもらおうとしたわ。あなたは、そのアイディアを聞いたが、詭弁きべんろうして父のアイディアを酷評した。馬鹿正直な父はあなたを信頼して、別のアプローチによる研究を模索した。しかし、父は半年後に、父のアイディアをそのまま盗用したあなたの論文が学術誌に掲載されたのを知った。信頼を裏切られた父は大いに落胆して、そのあと自殺したわ」と秋菜が語った。

「どこにそんな証拠がある?」と福山が開き直って聞いた。

「父が亡くなって随分経ってから、父の日記が出てきたの。三年前に交通事故で亡くなった母の遺品を整理していた時に。その日記には、新しいアイディアを思いついたキッカケや、そのアイディアをあなたに聞いてもらったこと、そしてあなたの研究盗用のことも日付と共に詳しく書かれていたわ。母も、このことを知っていたようだけど、二人の子供を育てるために必死だったから、この事実は封印していたみたい」と秋菜が答えた。

「個人的な日記が証拠になるか!」と福山が語気を荒げた。

「もちろん、法的な証拠にはならないわ。だから私たちがあなたに罰を与えるの」と秋菜が言った。

「自殺した父には悪いけど、これだけならここまでの事はしなかったわ」と秋菜が続けた。

「三年前の川崎の交通事故の事は、覚えているでしょう?」

「高齢者の自動車暴走で、二名の死者と多くの重軽傷者を出した痛ましい事件よ。ニュースで何度も報道され、テレビのワイドショーでも大きく取り扱われたから、知らないとは言わせないわ!」

「それが君と私に何の関係があるんだ」と福山がおずおずと聞いた。

「二名の死者のうちの一人が私の母で、運転していた高齢者の老人があなたの義理の父親よ!」と秋菜が言い放った。

「んっ」福山が声を詰まらせた。

「あなたはもう理解したと思うけど、赤城さんと黒田さんにわかるように説明してあげるわ」

「この事件を起こしたのは、あなたの奥さんの父親である綾部剛太郎よ。綾部は医学界の大物で、全日本医師協議会の元会長でもあるわ。あなたは自分の出世のために、綾部の一人娘と結婚したんでしょ」

「綾部は重大な事件を起こしたにも拘らず、高齢を理由に逮捕や拘留されなかった。そればかりか綾部は、自動車運転過失致死傷容疑で送検されたのに、アルツハイマー型認知症で刑事責任を問えないと判断されて、不起訴処分になったわ。あなたは、容疑者が『心神喪失』状態であれば処罰されないことを知ってて、これを悪用したのよ!」

「当時、この事件を積極的に取り上げてくれた東関東テレビのディレクターが、母の取材に来たときに、取材に応じる代わりに彼が独自に入手した情報を教えてくれたわ」

「そのディレクターの情報で、綾部が医学界の重鎮で、引退したその当時でも影響力が大きかったことや、国会議員にも知り合いが多かったことを教えてくれたわ。それから、当時の国家公安委員長は綾部の出身大学の後輩で、綾部の地元選出の衆議院議員だとも教えてくれたわ。さらに未確認情報だという話だけれど、綾場の車のドライブレコーダの音声データが、警察内部で紛失したらしいことも教えてくれたわ。何か『心神喪失』に不利な音声が記録されていたかもしれないわね」

「私を含めたこの事件の遺族や被害者たちは、不起訴処分に納得がいかなかったので、裁判にかけなかったことの良し悪しを審査する検察審査会にも申し立てをしたけれど、結局、綾部が罪に問われることはなかったわ」

「でも納得がいかなかった私は、警察や検察のサーバをハッキングして、捜査資料を手に入れたの。その資料を調べていたら、興味深いことがわかったわ」

「綾部のアルツハイマー型認知症の診断をしたのが、北関東医科大学の山田一郎という医師だということがわかったわ。それから、その医師があなたと同じ大学の出身で、あなたの後輩であることもわかったわ。その半年後、大学の冴えない勤務医だった山田医師は、都内の総合病院の精神科部長に栄転したわ。――どうしてかしら?」

「あなたが山田医師に依頼して、アルツハイマー型認知症という偽の診断書を書かせたことは、小学生でもわかるわ。大病院への栄転は、その報酬ね」

「人の噂も七十五日。現在、綾部は郊外の介護付きの高級マンションで悠々と暮らしているみたいね。興信所の探偵を使って調べてみたけど、アルツハイマー型認知症とは思えないぐらいの我儘わがままな生活をエンジョイしているみたい」と秋菜が一気に話し終えた。

「今の話で、こいつがどんなに酷い奴か、よくわかっただろう?」山根が赤城たちに向かって言った。

「あなたたちには悪いけど、私たちには今の話の真偽はわからないわ」と赤城が言った。

「その話が本当なら同情はしますけど、人を拉致監禁したり、有害なウイルスを撒き散らしていい理由にはなりませんよ」と黒田が言った。

「今ならまだ間に合います。人質とウイルスを解放して、罪を償ってください」と赤城が言った。

「もう後戻りはできない」山根が悲壮な覚悟で言った。

「私も同じよ」と秋菜が山根を見つめながら言った。

     ☆

 秋菜がチェスを覚えたのは、小学生の時だった。週末のある日、いつもは難しい本ばかりを読んでいる父親が、珍しくチェス盤に駒を置いて、チェスの棋譜を並べていた。その棋譜とは、人工知能(AI)が人間のチェス世界王者を初めて破った歴史的な対局の棋譜だった。父親がチェスを始めたきっかけは、海外留学の時の暇つぶしぶしだったと、秋菜は母親から聞いたことがあった。

 それまで弟の春馬の面倒を見て、一緒にお絵かきをしていた秋菜が、目聡く珍しいものを見つけて聞いた。

「お父さん、これ何ていうゲームなの?」

「これはチェスって言ってね、日本の将棋みたいなゲームなんだよ」

「このお馬さんみたいなのは何?」秋菜は、将棋や囲碁とは違って立体的な駒の形に魅了された。

「これはナイトと言って、西洋の騎士が乗る馬を表しているんだ。駒の形も変わってるけど、駒の動かし方もかなり変わってるんだよ。少し分かり難いけど、前後左右に二マス進んで、そのマスの両隣が移動できる場所になるんだ。例えば、こういう風に」

「へぇ、動き方が本当に変わってるね」

 秋菜は父にチェスのルールを教えてもらい、週末には父親と何度も対局した。最初は駒の動かし方を覚えるだけで精一杯で、父親には全く歯が立たなかった。しかし、チェスの定石(じょうせき)が身についてきたある日、ワザと緩い手を指した父親に初めて勝利した。この勝利が嬉しくて、秋菜はチェスにのめり込んで行った。週末以外は、父親から借りたタブレット端末で、人工知能との対局やインターネット経由の対局を楽しんでいた。

 最初の頃こそ、手加減した父親にも全く勝てなかったが、ネット対局でプレイを重ねていくうちに、本気で指した父親にもいい勝負ができるようになった。最近では二回に一回は父親に勝てるほど、急速にチェスが上達していた。秋菜は、最初に駒の動かし方を覚えたナイトが特にお気に入りで、対局ではナイトを使った攻撃的な戦略を使うことが多かった。この日もナイトの縦横無尽の大活躍で、父親を負かしていた。

「秋菜には叶わないな。こんなに負かされたら、父親としての威厳が保てなくなるよ」

「ねぇ、お父さん。もう一回だけやろう。本物のチェス盤を使って対局できるのは、おうちだけなんだから」と秋菜がせがんだ。

 毎週末のように父親と楽しく対局していたチェスも、ある時期を境にして対局することがほとんどなくなった。小学生の秋菜には理由を知るよしもなかったが、父親には以前のように明るさがなく、何かに悩んでいるようだと子供ながらに感じていた。

 ある日、秋菜が小学校から帰ると、母親から父親が亡くなったことを聞かされた。まだ子供たちが小さかったこともあり、気丈にふるまう母親からは、父親は急な病気で亡くなったと知らされた。父が自殺だったと知ったのは、ずっと後のことだった。母から父の死を告げられた後も、秋菜には父が死んだ実感はなかったが、「もうこれで、父さんとはチェスができないんだ」と悲しくなった記憶があった。この日から、秋菜は大好きだったチェスをやめた。

     ☆

 世帯主を失った林田家では、父親に代わって母親が働くことになった。母親は、結婚以前は看護師として病院で働いていたが、結婚を機に専業主婦になっていた。その経験を活かして、母親は以前の伝手つてを頼って、知り合いの病院で働けることになった。その病院は、住んでいるアパートからやや離れているものの、夜勤を免除してくれるなどの母子家庭への配慮をしてくれた。

 中学生になった秋菜は、男性アイドルやファッションの話に夢中な同級生たちに馴染めずにいた。学校で仲間外れにされないため、普段テレビを見ない秋菜は、帰宅してから仕方なく、インターネットでアイドルやファッションの情報を集めていた。最初は手作業でキーワードの検索をしていたが、欲しい情報が得られるまでに時間がかかった。こんなことに無駄な時間を使いたくないと、別の方法がないかインターネットで調べていると、簡単なプログラムを組めば自動的に情報を集められることを知った。最初は、アイドルやファッション情報を調べることが目的だったが、いつしか目的と手段が入れ替わって、秋菜はプログラミングの魅力に取り付かれた。中二になる頃には、キーワードを使ってウェブサイトを巡回し、関連するサイトを全文検索したのちに、人工知能を使って必要な情報を整理するプログラムを作っていた。このプログラムを使えば、気になった幾つかのキーワードをパソコンに入力するだけで、朝には必要な情報がランキング付きで出力された。秋菜はこのプログロムのお陰で、中学の間は仲間外れにされることはなかった。

 プログラミングを極めると、秋菜の興味は、作ったプログラムが動いているコンピュータそのものに移っていった。手始めに、秋菜はプログラムを動かす基本ソフトであるオペレーティングシステム(OS)の解析を始めた。この作業にも、秋菜自作のプログラムが役に立った。オペレーティングシステムを理解するには多くの専門用語を理解する必要があるが、このプログラムを使えば、秋菜の知りたいことが要領よくまとめられたマニュアルが作成できた。秋菜には専門書を買うお金や、図書館に行く時間もなかったので、もっぱらオンライン情報に頼って自習した。ただし、オンライン情報には間違った情報も多く、時々大失敗をすることもあった。しかし、この失敗の積み重ねが糧となって、秋菜のスキルは急速に上昇していった。

 高校生の頃には、市販OSの安全性を脅かすセキュリティホールを探し出すことができるまでになっていた。また、父のお下がりのロースペックのノートパソコンでも動くように、ハッキングに特化した独自のOSを開発していた。秋菜はこのパソコンを使って、国内外のサーバをハッキングして、秋菜独自のセキュリティランキングを付けていた。秋菜のランキングでは、国内のサーバは海外のサーバに比べてセキュリティが甘いことがわかった。国内のサーバで秋菜にログインできないものは殆どなかったが、一ヶ所だけどうしてもハッキングできないサーバがあった。高校三年のある日、例の堅牢なサーバにいつものようにログインを試みたが、やはりハッキングすることはできなかった。そればかりか、逆にハッキングされて、OSを動かなくするコンピュータウィルスに感染させられた。秋菜のパソコンは、”Don’t touch me! MAD Science Lab.”というメッセージを表示した後に、ハードディスクのデータが消去されて動かなくなった。秋菜は“MAD Sciense”という言葉の響きが怖くて、それ以降はコンピュータスキルを封印して、すべてのハッキング行為を止めた。

 大学は自宅近くの女子大に通い、大学の授業以外ではコンピュータとは無縁な四年間を過ごした。就職活動も順調で、秋菜は県内を地盤とする地方銀行に就職することができた。新人研修が終わり、幸運にも自宅近くの支店に配属されて、窓口業務にも慣れた頃、その不幸がやってきた。

 秋菜はいつものように、支店の開店前に慌ただしく準備をしていた。

「林田君はどこにいるかね?」と課長から慌てた声が聞こえた。

「はい、ここです」と秋菜が手を挙げた。

「私も詳しいことはわからんが、君のお母さんが交通事故に巻き込まれたらしい。すぐに病院に来てくれと、ついさっき川崎警察署から電話があった」

 秋菜には、それからの数時間の記憶がほとんどなかった。たぶん耳にはいろいろな情報が届いていただろうが、秋菜の精神を保つために、脳が情報をシャットアウトしたのかもしれない。周りに流されるように母親の葬儀を済ませ、それからの一週間を秋菜は突然泣き出しては泣き疲れて眠るという空虚な日常を繰り返していた。このままでは駄目だと、心の整理をするために母親の遺品を整理していた時に、物置の奥から小さな段ボール箱が見つかった。秋菜が箱を開けると、そこには懐かしいチェス盤と日記帳らしいものが入っていた。

     ☆

 林田秋菜が山根公典と知り合ったのは偶然だった。秋菜は父親の遺品のチェス盤を見つけたのを契機に、楽しかった頃の小学生時代を思い出すように、週末には”あきお”というハンドル名でインターネットでのチェス対局で息抜きをしていた。秋菜のチェスの腕前は、コンピュータスキルと同じようにセミプロ級だったが、一人だけ何度対局しても勝てない相手がいた。それが、ハンドル名”はむてん”だった。”あきお”の攻撃型チェスに対して、“はむてん”は攻撃を受け流す守備に徹したチェスを指した。いつも序盤は”あきお”の優勢になるが、いつの間にか逆転されて”はむてん”に負かされていた。

 チェスのインターネット対局はネット上のハンドル名で行なわれるので、本名はわからない。しかし、秋菜はどうしても知りたいという好奇心に負けて、悪いとは思いながら封印していたハッキングスキルを使って、“はむてん”の本名や経歴を調べあげた。秋菜は、“はむてん”こと山根がチェスを教えてくれた父親と同じ生命科学の研究者であることに、驚きと同時に因縁めいたものを感じた。

 秋菜は、山根のことをもっと知りたいという欲求に負けて、新人銀行員・林田秋男と偽って、山根の職場にメールを送った。山根も突然送られてきたメールに最初は不審に思ったが、メールを重ねる毎に趣味のチェスの話などで次第に打ち解けっていった。秋菜が山根にメールを送って二ヶ月くらいたった頃、山根から秋菜に、サークルへの誘いが用件の短いメールが届いた。

《私が時々参加するチェスのサークルが今週末、メンバーの自宅マンションで行なわれます。良かったら、一緒に参加しませんか。参加可能なら詳しい住所を送ります》

 秋菜は大いに迷ったが、パソコン画面ではない実物のチェス盤で対局できる機会を逃したくないと、参加することに決めた。参加を決めたメールを送った後で戻ってきた返信メールには、マンションの詳しい住所と、場所がわからない時の連絡先として山根の携帯番号が書かれていた。山根にはマンションの下で待ち合わせたいと、さらに返信した。

 サークル当日の開始時間十分前、秋菜は山根を見つけて待ち合わせ場所に近づいて行った。しかし、山根は辺りをキョロキョロ見回すばかりで、秋菜には視線を合わせなかった。

「こんにちは。林田です」と秋菜が山根に声をかけた。

「林田さんの妹さん?」

「いいえ、私が本人です。今まで嘘をついてて御免なさい」と秋菜が深々とお辞儀をした。

「――あなたが林田さんですか? 驚いたなぁ、女性だったなんて! チェスの豪快な駒さばきから、マッチョな青年だと勝手に想像していました」

「想像通りじゃなくて申し訳ありません。本当は林田秋菜と申します。今日はお招き頂いてありがとうございます。林田さんとお会いして対局できるのを楽しみにしていました」

 その日の山根との対局は、いつになく動揺した山根の終盤のミスで、初めて秋菜が勝利した。

     ☆

「林田さん、そろそろ来るはずなんだけど、道に迷ったのかな?」と思いながら山根は気を揉んでいた。自分の方に近づいてくる若い女性は山根の視界に入ってはいたが、脳の中では関係ないものとしてデータ処理されていた。その女性が急に声をかけてきたので、山根は本当に驚いた。

 秋菜と一緒にサークルが開催されているマンションに入ると、サークルのメンバーが一斉に「山根さんが彼女を連れてきた」と冷やかした。サークルのメンバーはほとんどが中高年の男性で、山根のような青年でさえ珍しかった。ましてや若い女性が参加することは、サークル始まって以来の珍事だった。

「仕事で忙しいと常々言っている山根さんが、こんな綺麗なお嬢さんをどこで見つけたんですか?」とサークルの主催者が声をかけた。

「僕も今日初めて会ったんですよ。彼、いや彼女とはネットの対局を通じて知り合いました」と山根が釈明した。

「まったく驚きましたよ。山根さんがいきなり彼女を連れてくるもんだから」

「か、彼女じゃありません。林田さんが困っているじゃないですか」と言いながら山根が困惑していた。

「林田です。今日は山根さんからお誘い頂きました。こういうサークルに参加するのは初めてです。よろしくお願いします」と秋菜がメンバー全員に挨拶した。

「挨拶が済んだところで、さっそく対局しましょう。お嬢さんの棋力はどのくらいかな?」と主催者が聞いた。

「小学校の頃は父とよく対局していたんですが、ネットの対局でチェスを再開したのはつい最近で、十年振りくらいです。ですから、自分の棋力は良くわかりません」と秋菜が答えた。

「それじゃあ、まず私と対局してみましょう」と主催者が言った。

 秋菜は、山根を除いたすべてのメンバーと次々と対局したが、一度も負けることはなかった。最後は、秋菜と山根の対局になった。

「サークル最強の山根さんが負けるわけにはいきませんね」と代表が山根にハッパをかけた。

「山根さんには、まだ一回も勝ったことがないんです」と秋菜が言った。

「全力を尽くします」と山根が言って対局が始まったが、山根の終盤のミスで秋菜が勝利した。

「今日は運が良かっただけです」余りのチェスの強さに驚愕しているメンバーに秋菜が言った。

 このサークル参加をきっかけとして、山根は秋菜とサークル以外でも時々会うようになった。二人とも話すのが苦手で、一緒にいても会話はそれほど弾まなかったが、山根は秋菜の優しさと賢さに次第に惹かれていった。

 山根が付き合い始めて半年後、山根が上司の逆鱗に触れて大学を辞めることになった。普段から連絡は頻繁ではなかったが、一週間ほど秋菜とは連絡を取っていなかった。山根は意を決して秋菜に電話をかけた。

「もしもし、林田さん。山根です。一週間ぶりだけど元気にしてた?」

「山根さんこそ、こんな時間にどうしたの?」

「――」

「――大学を辞めることになった。しばらくは、チェスもできそうにない・・・・・・」と山根声をしぼり出だすように話した。

「どうしたの? 理由わけを聞かせて!」と秋菜が聞き返した。

     ★

「僕は、研究者としての成功を夢見ていたわけではない。地道でも良い。社会に役立つ研究がしたかっただけだ。それも、此奴こいつのせいでもう不可能だ」と山根が言った。

「これから福山を殺して、海外へ逃亡する」と山根が続けた。

「そんなことをしても、いつか捕まるわよ」と赤城が言った。

「いいえ、捕まることはないわ。万が一捕まっても、私の両親と林田さんの無念を晴らせるなら思い残すことはないわ」と秋菜が言った。

 山根と秋菜はゆっくりと福山に近づき、福山の目隠しを取って、手にした拳銃の目標を福山の頭部に定めた。

「な、何をしている。待ってくれ。何が欲しい」と福山が慌てて言った。

「時間ぎりぎりだったけど、ウイルスとあなたの身代金、百億円分のネットコインの送金を先ほど確認したわ。これで欲しいものはすべて揃ったわ」と手元のスマートフォンを見ながら秋菜が言った。

「わ、わかった。これまでのことは謝罪する。すべて私が悪かった。ゆ、許してくれ」

「山根君の懲戒免職の原因となった研究データの捏造は、私が部下の一人にやらせたことだ。昇進をチラつかせたら、喜んで引き受けてくれたよ。君がパワハラやアカハラに気付いて告発しようとしたから、仕方なくやったんだ。今では心から反省している。許してくれ」と福山が山根に頭を下げて謝罪した。

「あなたのお父さん、林田君のアイディアを盗んだのは私だ。当時、私は実験に行き詰っていて、研究成果を出せずにいた。林田君のアイディアを聞いた時には、これだと思った。悪いこととは知りながら、苦渋の決断だったんだ・・・・・・。まさか林田君が自殺するとは思わなかった。すまん」と、今度は秋菜に謝罪した。

「どうせ口先だけの謝罪に決まっている。謝罪に誠意がないから、少しも心に響かないな!」と山根が吐き捨てるように言った。

「僕たちが手を下さなくても、ウイルス盗難が公表されれば、鳥インフルエンザウイルスをまんまと盗まれた間抜けな所長として、社会から大きなバッシングを受けるはずだ」と山根が続けた。

「もう、あなたには人質としての何の価値もないわ。ここでは殺さないであげるから、これまでの事を死ぬまで後悔しなさい」と秋菜が突き放すように言った。

「本当の人質は培養したウイルスだ。動画に映った鳩の映像を見たはずだ。場所は言えないが、培養したウイルスを注射した鳩を複数の場所に隠している。このスマホのアプリのスイッチを押せば、鳩舎の窓が開いてウイルス感染した鳩が一斉に放たれる」と山根が言った。

「放鳥用のアプリは、私のスマホにもインストールしているから気を付けて」赤城と黒田の二人を牽制するように秋菜が言った。

「僕たちが安全なところまで逃げられたら、鳩舎の場所を教えるよ。賢い君たちにはわかるだろうが、下手なことはしないほうがいいと警告しておくよ。鳩舎からの放鳥はネット経由でできるから、世界中どこからでも可能だ」山根が言った。

     ★

「二人ともわかってると思うけど、そんなことは正しくないわ。無関係な人たちへの鳥インフルエンザウイルスの被害を考えたことがあるの!」と赤城が言った。

「小森君――じゃなかった林田君のお姉さん、弟さんが悲しみますよ」黒田がじわじわと山根と秋菜に近づきながら言った。

 秋菜は一瞬動揺したが、「春馬はるまなら、いつかわかってくれるわ」と言った。

「黒田さん、それ以上近づくと、放鳥のスイッチを入れるわよ」と言って、秋菜がスマホに手をかけた。

「あなたが拳法の達人だということは、この前の件でよくわかっていますよ。黒田さん、これ以上は近付かないで下さい」と山根が黒田から遠ざかりながら言った。

 十分間にも感じられるような緊迫した沈黙が、十秒ほど続いた。その時、遠くから近づいてくるヘリコプターのローター音が、四人の耳に聞こえてきた。次の瞬間、「ガシャーン。バラバラ」、外に面した窓側から、窓ガラスを粉々に粉砕して何かが教室に撃ち込まれてきた。その何かは、床に落ちて周囲にパラフィン臭のする白煙をまき散らした。

 それが発煙筒だと赤城が認識する前に、すでに黒田は動き出していた。黒田は動揺した秋菜に素早く近づくと、手刀で両手首を狙い、拳銃とスマホを床に叩き落した。秋菜はすぐにスマホを拾ってスイッチを押そうとするが、両手が痺れてスマホを拾えなかった。次に黒田は、流れるような連続動作で山根に近づき、同じように拳銃とスマホを叩き落した。それから黒田は山根の鳩尾みぞおちに肘を打ち込んで、山根を気絶させた。最後に、黒田はゆっくりと発煙筒を拾い上げ、燃えている部分を床板にこすりつけて消火した。

 実際には初めて見る黒田の俊敏な動きに、赤城は目を丸くした。気を取り直した赤城は秋菜と林田のスマートフォンを拾い上げて電源を落とし、教室の外側に面した窓を全開にして発煙筒から出た煙を換気した。次に、呆然として立ち尽くしている秋菜を横目に、福山の体の拘束を解いた。

 手足の拘束を解かれて安心した福山は、椅子から立ち上がって赤城と黒田に向かって言った。

「本当に助かった。これも君たちのお陰だ。身に覚えのないことで、危うく殺されるところだった。こんな奴らは決して許しておけん。必ず重罪にしてくれ」と言い、福山が握手を求めるような仕草で赤城に近づいてきた。赤城は、その手に触れた刹那せつな、その腕をとって福山を一回転させ床に叩きつけた。不意打ちを食らった福山は、したたかに後頭部を床に打ち付けて、その場で意識を失った。

「皆さん、そろそろ終わりましたか?」柱の陰からひょっこり顔を出した青山が、教室内部を覗きながら緊張感のない声で言った。

「やっぱり、あなたでしたか。発煙筒を打ち込むなんて無茶し過ぎですよ。私達に当たっていたらどうするつもりですか?」と赤城が言った。

「発煙筒の発射装置は、おやっさんがヘリコプターの改良のついでに面白半分で取り付けた“オモチャ”です。こんな時に役に立つとは思いませんでしたが・・・・・・」

「教室内のやり取りは、赤城さんの防弾ベストに取り付けた盗聴マイクで聞こえていました。それから、二人の居場所も赤城さんのマイクの音声情報から大体わかっていました。これは、おやっさんの発明ですが、四ケ所に取り付けた盗聴マイクで拾う音声の時間差から、喋っている人の場所を知ることができます。あとはタイミングだけでした。赤城さんと黒田さんなら、臨機応変に何とかしてくれると信じていました」と青山が表情を変えずに言った。

「赤城さんこそ、ちょっとやり過ぎじゃないですか?」と、気絶して倒れている福山を見ながら青山が言った。

「いつからのぞいていたんですか?」と赤城が恥ずかしそうに聞いた。

「ちょっと前から柱の陰で」と青山が申し訳なさそうに答えた。

「は、発煙筒の煙で前が良く見えなくて、犯人と見間違えたんです!」と赤城が強引な言い訳をした。

 逮捕された山根と秋菜の二人は、あとから来た警察官に引き取られて北関東警察署まで護送された。しかし、護送された二人には残念そうな表情はなく、むしろ清々しい満足気な表情をしているように見えた。また鳥インフルエンザウイルスは、鬼塚が派遣した厚生労働省出身の二人の危機管理官によって、無事に回収された。アクシデント(・・・・・・)のため気絶した福山は、念のため近くの救急病院へ救急車で搬送された。なお救急隊員には、福山が視界の悪い中で転んで気絶したと説明されていた。

 大騒動の後始末を終えて三人が校舎から出ると、ヘリコプターの爆音と発煙筒の煙のせいで、近隣の住民がヘリコプターを取り囲むように集まってきていた。大人たちの多くは、見たこともない物珍しいヘリコプターに、遠巻きに興味と不審な目を向けていた。しかし子供たちは、遠慮なしに近づいてヘリコプターの機体にペタペタと手で触れて、コクピットの内部を覗きこんでいた。

「皆さーん、こんにちは。たいへんお騒がせしました」と、住民たちを掻き分けながら黒田がヘリコプターに近づいて行った。

「安心してください。これは映画『ヘリコプター野郎』のロケ撮影です。この映画は年末に上演予定ですので、皆さんも是非見に来てくださいね」黒田が頭を下げながら、適当に胡麻化ごまかした。

 黒田が作った隙間を通って、青山と赤城がヘリコプターに到着した。

「新人の俳優さんかしら。背が高くてかっこいいわね」近隣住民のなかの年配の婦人が、青山を見て言った。

「あの女優さんも、可愛いのぉ。孫の嫁さんにしたいくらいじゃ」と高齢の老人が言った。

「さあ、撮影は終わりました。そろそろ映画スタジオへ戻りましょう」と、青山が黒田の話に合わせて、赤城と黒田にヘリコプターに乗り込むように促した。

「皆さーん。大変お世話になりました。これからヘリコプターで撮影スタジオまで戻ります。申し訳ありませんが、危ないのでヘリコプターから二十メートル以内には近づかないで下さい。それから、映画の公開前なので写真撮影は控えて下さいね。よろしくお願いします」と、黒田がにこやかにお辞儀をしながら、近隣住民に注意を促した。

 赤城と黒田の二人がアパッチに搭乗し、ヘルメットを被り、シートベルトをしたことを確認して、青山はアパッチのメインスイッチを起動した。アパッチのローターは軽やかに回転数を上げて、小学校跡地のグラウンドに砂埃すなぼこりを巻き上げた。三人は、にこやかに手を振る近隣住民に見送られながら、グラウンドを飛び立った。


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