リンちゃんと惑星レトロナ

リンちゃんと惑星レトロナ Fractal.1

『レェェェトロォォォナ……ファァァイブッ!』

 天空に立つ鋼鉄の巨人が、雄々しくポーズを決めはった!

「アカン……リンちゃぁぁぁーーーーん! 帰って来てぇぇぇーーーーッ!」

 ウチは叫んだ!

 哀しなって……むなしなって……必死の懇願こんがんを叫んだ!






 さかのぼる事、約三日前──。

『ツェレーク、空間転移完了──量子波動安定化──現フラクタルブレーン座標照合、3フラクタル\2ブレーン次元ディメンション、マイナスコンマ0003誤差修正──滞在可能推定時間、七十二時間四十五分リミット────』

 空間転移が終わった。

「今回はエライ滞在可能時間長いねぇ? 約三日やん?」

 イザーナの操縦席コックピットで転移報告を聞いたウチは、率直な感想をらした。

『ま、そういう事もあるっしょ』と、ミヴィークの操縦席コックピットからリンちゃんのモニター通信。

 淡白に切り捨てて、テキパキと発進準備を進めとる。

『んで、クル? 今回は、どんな感じの惑星よ?』

 リンちゃんの質問に答えるべく、反対側のモニターにクルちゃんが映った。

『今回の目的地は〈惑星レトロナ〉──あなた達の地球に似通った惑星』

「ふぇ? ウチらの〈地球〉に似とる惑星ほしなん?」

『とは言っても、旧暦──それも〝昭和〟と呼ばれた時代に酷似している』

「ふわぁ? ウチ、楽しみや ♪  旧暦、体験した事無いわぁ ♪ 」

『……いや、そりゃそうでしょうよ』

「リンちゃん、ある?」

『あるか! アンタ、アタシを何歳だとカウントしてるッ?』

「えへへ~ ♪  ウチと同い年 ♪ 」

『……嬉しそうにニコニコしてないで、少しはアタシの意図を汲め』

「楽しみやね? リンちゃん ♪  クルちゃん ♪ 」

『うむ、実に楽しみであるな』

「ほら、ハッちゃんも楽しみやって……」

『…………』

『『「………………」』』

 ウチとリンちゃん、とんでもない予感に泡食ったよ?

 第三の通信相手に面喰らったよッ?

『エエエ……エルダニャ? まさかアンタも降下する気なのッ?』

『騒がしいのぅ、リン。当然であろう? オマエ達が降下するのであれば、われとて降下するは道理!』

『どうしてだッ! そもそもアンタ〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉は、どうしたッ!』

『フッ……抜かり無いわ! われを誰だと思うておる!』

「ハッちゃん」『エルダニャ』『痛いアルワスプ』

『違うわッ!』

 合ってるやんな?

『さぁ、心して見るが良い……が愛機の勇姿を!』

 自信満々ぶりに続けて、普段使わへん〝第四ブロック十三型六六六番格納庫ドッグ〟がゴウンゴウンとシャッターを開け始めた。

 此処、普段は閉鎖されとんねん。

 不吉な番号の羅列やし、夜間整備してるとラップ音とかオーブとか騒乱しはるし、シャッターとか御札おふだだらけやし。

 ほんでもって重々しい逆光を浴びつつ、初見の〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉が姿を現してきはった。

 ハッちゃん専用機やから、きっと〈蜂型〉……やない!

 何故か〈魚類型〉や!

 ウチの〈イザーナ〉やリンちゃんの〈ミヴィーク〉に似たフォルムやけど、二回りデカイ!

 しかも、何処となく凶暴な面構ツラがまえや!

 ウチ、あんなん古い映画で観た事ある!

 確か〈モササウルス〉いうヤツや!

『何で〈モササウルス〉だーーッ?』

 リンちゃん、ウチの代弁を叫んでくれはった。

 有難うねぇ?

『む? コレは〈もささうるす〉というのか? 実はわれも、何がモチーフに良いか日夜検索しておったのだ。いやはや苦労したぞ……ぬしらに合わせたモチーフでなければ〝てーぴーおー〟というものが成り立たんでな』

 ハッちゃん、もしかして〝DVD〟を〝でーぶいでー〟言うタイプ?

『そんな中で、斯様かように雄々しい生物を見つけたのだ。見よ、この勇猛さ! そして、王者の貫禄! 実に相応ふさわしいではないか?』

『いや、まぁ……アンタの気位なら、そういう基準にもなるか……』

『私のアルにーー♡ 』

『基準そっちかーーーーッ!』

『だってぇ~ん ♪  アルってば、カッコイイじゃない? 凛々しいじゃない? 胸、大きいじゃない?』

 最後の関係あらへん。

「あんな? ハッちゃん?」

『うふふ♡  アルアルアル~ン♡  コレで一緒に新婚旅行~~ ♪ 』

「あんな? ハッちゃん? 鼻血流してクネクネなってるトコ悪いけど……ちょっとええ?」

『アルアルアル~ン♡  私のアル~ン♡ 』

「おらへんよ?」

『うわ~~~~ん!』

 号泣しだしはった。

 感情忙しいねぇ?

『うぐっ……グスッ……して、きたい事は何だ? モモカよ?』

 凛と上から目線や。

 ハッちゃん、情緒不安定?

「あんな? それ・・、誰が造ったのん?」

『そうよ! そんな〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉なんて、おいそれと急造できる物じゃないでしょ! まさか、またマリーとか言うんじゃないでしょうね!』

『私じゃないわよ』

 また新たな通信モニターが開いて、困惑気味の眼鏡美女が映った。

 表マリーや。

 操縦席コックピット内、モニター乱立でせわしなくガチャガチャなってきたわ。

 軽くパーリー状況や。

『マリーが造ったんじゃないの? じゃあ、誰だッつーのよ?』

『う~ん、私じゃないんだけど……何処となく見た記憶があるのよね、それ・・

『フッ……やれやれ。どうにも御主おぬしたちは、すくがた無頓着むとんちゃくのようであるな? 斯様かように素晴らしき機体を失念しておったとは……勿体もったいい!』

 ハッちゃん、優越感めいて勝ち誇ってはる。

『コレは、あの倉庫に眠っていた機体である! それを〈もささされす〉へとフォルム改修して新生させたのだ!』

 噛んだよ?

『あの倉庫って……まさか〝第四ブロック十三型六六六番格納庫ドッグ〟の事ッ? エルダニャ?』

左様さようじゃ、リン』

『ンなワケあるかッつーの! あそこ、ずっと封印・・されてんのよッ?』

 封印・・言いはったねぇ?

 リンちゃん、閉鎖・・やなく封印・・言いはったねぇ?

『思い出したわ!』と、突然マリーが声を上げた。『あの倉庫に眠ってたのは〈イザーナ〉と〈ミヴィーク〉の試作機体──つまり〈プロトタイプ〉よ!』

『は? アタシらのプロトタイプ? それが〈モササウルス〉って……色気無ぇー』

『いいえ。別に〈モササウルス〉じゃなかったわ。かといって〈イルカ〉でも〈シャチ〉でもない』

『んじゃ、だったのよ?』

『何でも無いわよ。単に外装無しの剥き出し機体……骨組みと基礎設計メカニズムだけ。機体も、ここまで大きくなかったわ。せいぜい〈イザーナ〉〈ミヴィーク〉の1・3倍程度……』

『だから、言うておろう? われが〈ももささうれす〉へと改修した──と』

 噛んだよ?

『んで? 何で、そんなのが封……放置されてたワケ?』

 また〈封印〉言い掛けたねぇ?

『……死んだのよ』

『は?』「ふぇ?」

『当時、その機体開発を担当していた整備員がね……その格納庫ドッグで睡眠薬自殺したの』

 陰惨な黒歴史が炙り出てきた!

 朧気おぼろげに予想してたけど、オカルト入って来た!

 アカン! この作品〈SF〉なくなってまう!

『相当思い詰めていたみたいね……生真面目過ぎる性格だったから……けれど、誰も彼女の胸中に気付けなかった』

 ウチとリンちゃんは、ゴクリと生唾なまつば飲み込んだ。

「それって、開発に行き詰まった……とかなん?」

『あ……あるいは、過労死?』

『いいえ』と、深刻な面持ちで真相を告げるマリー。『彼氏と別れたらしいのよ』

『開発秘話、関係ないじゃんッ!』

 リンちゃん、間髪入れずに突っ込んだ!

『来る日も来る日も缶詰状況で、しかも完成の目処メドが付かない。クリスマスも誕生日も返上で、ひたすらに開発へ孤軍奮闘──。そんな長距離恋愛で関係が冷え込み、彼氏から別れの連絡が…………』

『よくある話じゃん! 死ぬほどの事ないじゃん! 男なんて掃いて捨てるほどいるんだから!』

「ふぐぅ……その人、可哀想やぁ~」

『……何で潤々うるうるしてんだ、脳味噌スウィーツ娘』

 リンちゃん、あんまりや!

『頬を伝う乾いた涙は何だか可笑しく、明日からの生き甲斐を模索するのも面倒になってきていた』

 クルちゃん? いきなり何をブッ込んできたん?

 誰も読んでへんよ? それ・・

『しかし、それにしても、なかなか見事な腕前であるな? 正直、われも感嘆し──いやいや、謙遜けんそんするでない──フフフ、左様であったか』

 ……ハッちゃん? 誰と話しとるのん?

 いてないサブモニター相手に、誰と話しとるのん?

わずか数週間で、このように完璧な機体を完成させるとは──何を言うか、見事である! 可能であれば特別報酬を授けたいところであるが、生憎あいにく現状いまわれは──ふむ? そうか? 何と無欲な──うむ、構わぬ。申してみよ──なるほどのう?』

 見えへん人・・・・・と話してはるッ!

 ハッちゃん! 帰ってきてぇ~~ッ!

『うむ、善かろう! 今日より、われの専属エンジジニャアにしてやろう!』

 ドエライ人を採用しはった!

 ほんでもって、噛んだ!

『ホホホ……苦しゅうないぞ?』

 オーブ飛び始めた!

 ハッちゃんの周り、無数の発光体が喜び飛んではる!

『では、改めて紹介しよう。リン、モモカ、クルロリよ、此処に居るが、が専属の──』

『「行ってきまーーすッッッ!」』

 なかば強引に〈イザーナ〉と〈ミヴィーク〉は出動した!

 格納庫扉ハッチをミサイルでブチ破って!

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