これから、

天洲 町

短く長い夜


 夕食にコンビニで弁当と缶チューハイを買って帰る。高校まではしなかった化粧は相変わらずするのも落とすのも面倒くさい。

 バイトから帰ったこの時間のテレビは面白い番組があんまりやってないから、だらだらとニュース番組を流しながら弁当を食べる。今日は全国的に夏日でした、とか何とか市で大きな火事がありました、とかキャスターが話すのを聞いているとスマホが鳴った。

 江田くんからだ。

 同じサークルの友達で数ヶ月前くらいからほぼ毎日どうでもいいメッセージを送り合う仲で、多分今日も寝るまで話してるんだろうなと思っていた。


「今いい?」

「帰ったとこだよー」

「バイト? おつかれ」

「おつありでーす」

「なあ、今ちょっといい?」


 違和感。


「いいよーどした?」

「ちょっと通話にするわ」


 30分ほどの会話。

 内容を要約すると私のことが好きだから付き合ってほしい、ということだった。やっぱりなと思った。返事は少し待ってもらった。

 正直なところ彼は良いと思う。見た目は悪くないし友達も多い。だからと言って女の子に絡みまくってるようなタイプじゃなくて好感が持てる。

 多分付き合い始めて友達に知られたとしても意外とも言われないし心配もされない。よかったねー仲良かったもんねーって言ってもらえると思う。

 引っかかっているのは彼ではなくて私の問題。

 好きな人がいる。




 その人は一つ年上のバイト先の先輩で、バイト仲間数人で遊びに行くときもまとめ役をしてくれるみんなのお兄さん的な存在で仲は良い。

 いつからかシフトが被ると嬉しくなり、さん付けから呼び捨てになったことに舞い上がったりしていた。

 告白したり付き合ったりは全く考えてない、というかリアリティがなくて真面目に考えたことがなかった。でも多分恋なんだと思う。




 この気持ちは確かに私の中に存在してて、江田くんの告白を断る理由には十分だろう。だけど江田くんの告白を断るだけのものかは少し迷ってしまう。

 テレビでは高級焼肉を懸けてお笑い芸人がゲームで競っていた。この画面に映る牛肉と500円の弁当の肉、どちらが価値があるんだろう。二つとも目の前にあれば簡単な問題なのに。




 先輩に告白してフられたら江田くんに、とも思ったがより一層気持ちがわからなくなりそうでやめた。するにしてもせめて江田くんをフって告白したい。

 どちらか選ばないとこの先もほら穴の中にいるようか気分でいなきゃならない。そんな気がする。

 もともとの性格もあって頭の中に「付き合ってから本当に好きになる」「憧れと恋を間違えてるだけなんじゃないか」そんな言葉が染み出してくる。確実に手に入りそうな幸せの方に心が引っ張られる。それもまた恋とは違う気がして動けずにいた。

 友達に相談するのも最低だと思われそうで怖い。逆の立場なら自分の本当に好きな人を選んだら良いんじゃない? なんて意味ありげに空っぽの言葉を吐ける。恋に合理とか妥協とかを持ち込むのはなんとなく悪だと思うって気持ちを相手に突き刺せるだろう。現に今自分自身を苦しめている。




 もういっそ誰か決めてくれないだろうか。三角関係、というより一方通行の繋ぎ合わせに答えを出してくれないだろうか。お前はこっちを選ぶべきだって決めてもらえたらそっちに動ける。言い訳が欲しい。

 憧れにつられて恋がわからない馬鹿な女にも、気持ちじゃなくて妥協で恋を扱う嫌な女にもなりたくない。その思考さえ姑息で嫌だった。




 一日悩んで答えを出した。私なりに納得した。これで良い。


「今時間いいかな?」

「いいよ」

「昨日の返事をしようと思って」

「あーうん ちょっと緊張するけど待ってた」

「通話していい?」

「いつでもいいよ」


 十数分の会話。これでよかったと思う。

 これから、




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

これから、 天洲 町 @nmehBD

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ