内見後

「マトンも美味いなあ、いやなんならマトンの方が美味しいんじゃないすかね?あ、ビール切れてますよ飲みます?おねーさーん、生二つー」

 成功である焼肉である羊だけど、羊の焼肉?これはジンギスカンじゃない?いや美味いのでオッケーだけど、実際美味いなこれ。

 遠慮をする機能をスイッチオフにしてモグモググビグビやってると石岡社長の本題が始まった。

「……いやあの部屋よくない?広いしさー。生活圏もまあそこまで不便じゃないし?」

「そっすね、俺の部屋の広さの4倍弱?何人で住むの?みたいな気持ちになりましたね。あ、これ俺の今の部屋の話で隣の隣がアジアの人々が複数人入ってるみたいなんすけどねワンルームに」

「何だよこえーよ。どんな家だよお前の住んでるところは」

「中野のアパートっすよ。駆け出しの制作なもんで」

「……金ねーもんな。いや、まあ聞いてよあの部屋な。特に問題なかっただろ?」

「全部屋広いしキッチンはなんか高機能そうだし風呂トイレ別ってなんすか、風呂トイレ合体は世界の常識ですよ、やばいっすよ」

「だろー、でもあの部屋に越してからさ。彼女があの部屋から出ないと別れるっていうんだよ」

「なんて?」

「いや、あの部屋なんかやばいっていうんだよね」

 なんだそれ。残りのビールを全部飲み干して部屋の様子を思い返す。

 綺麗なダイニングキッチン、寝室。あと、居間の代わりに使おうとしてた快適そうな部屋。仕事部屋。何が問題なんだろうか。

「やばいってアレじゃないっすか事故物件じゃあるまいし」

「……」

「すいませんおねーさんハイボール一つ」

「……いや、まあ事故物件なんだけども」

「……あ?」

「家賃七万」

 信じられない生き物を見る目を向ける。

「いやないって、なんもないって」

 持って来てもらったハイボールを一息に飲み切りお代わりを追加。

「……あの、じゃあ今日俺はなんかあった建物の中を歩いてたんすか」

「いや、なんもないって。俺もうちで出してるDVDの都合上さ、送られてくる動画とかも一応チェックしてるけど全部編集だぞ?」

 頭を抱える。

 そうだ、この人の仕事の内容は『本当にあった○○な話』『呪いのDVD』とかそういツタヤだのなんだのに夏だけ人気になったりすることがある微妙なホラーの製造販売だったと思い出した。

「……説明あったんですよね?」

「あったよ」

「納得して借りてるんですよね?」

「七万は納得するだろう、普通なら20~25万円だぞ」

「高っ!そして安っ!?まあ納得してるならいいんじゃないですか」

「アレかなー、別れたかったんかなあ……」

 そんな事言われても困る。

 一年ぶりの地元の先輩に呼び出されて家自慢されただけなのに、そんなこと言われても実際困るし彼女のことも知らないしそもそもあの家でずっとは誰なのだ。

「まあ、でも良いじゃないっすか。広い家にも住めて、彼女はまあいないっすけどこれから誰でも呼べるしチャンスチャンス」

 気付いてないのに何かを言わなくていいだろうと適当に言葉を繋いだ。

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