いい部屋どこから?

味付きゾンビ

内見

「やべえじゃん、超でかいじゃないっすか」

 先輩の家新居(新居と言ってもマンションの202号室だけれど)に招かれて最初に口に出たのは阿呆丸出しなそんな感想だった。

 その阿呆丸出しの言葉に先輩はにんまりと笑う。

「だろー?六本木から徒歩15分、麻生十番駅徒歩五分の3DK71平米」

「やばい、すげえ。高そう」

 埼玉から出てきた俺でもわかる、有名な地名+平米数の大きさ。

 スゲエな流石社長、そう思わせる立派な家だった。

「えー、凄いじゃないっすか石岡先輩、いや社長?社長だなこれ。儲かってんすねえ」

 得意気に笑っている先輩、いや社長を尻目に部屋をきょろきょろ見回した。

 3DK?マジで?他にもまだ部屋があるってことでしょ?やばい。まずダイニングキッチンが広い、コンロも三口とかついてるヤバイ。三口とか何に使うんだよ、スゲエぞオーブンまでついてる何だこれ?

「社長すごいだろー、でもこの部屋の凄さはそこじゃねえよ他の部屋も見るか?」

 石岡社長の言葉にコクコク頷いてついていく。やべえ、何だこれ都内でこんな広いマンション実在すんのか、やっべ東京タワー見えんじゃん。

「ここがとりあえず仕事部屋な」

「やばいっすね。パソコン高そうなにこれ」

「編集機材だからな、そりゃそれが生命線よ」

「マジか高いんすか。すげー、椅子座り心地良さそー」

「いいか、椅子に座る仕事についたら覚えておけよ。椅子は悪いと腰に来る。何ならいわす」

「やべー、実感やべー。そして仕事部屋なのにひれー」

 なにこれ超でかい部屋にデスク一つに良い椅子ドーンと置いてパソコンガーン置いて編集すんの?なにこれモニターちょうでかい。映画とか見てもよさそう。

「しかもプロジェクターもある」

 石岡社長の指さすところを見ると確かにプロジェクターが置いてあった、つまり逆サイドには。

「やべー、スクリーンだスクリーン。降ろして良いっすか降ろしても」

 声をかけながらスクリーンの紐を引いていた。

 やばい、部屋にスクリーンあるじゃん映画上映できるじゃん、金か金がすべてを可能にしたのか?

「まあ、まだブルーレイもなんも届いてないけどな。食器もないし」

 ニヤニヤ笑う石岡社長がどんどん金持ちに思えてきた。

「すげーっすよ、なんすかこんな儲かってんすか制作会社の社長ってスゲエっすね」

 部屋が広い、それが凄い。だってここ麻布十番だよ?絶対に高いよ?

 きょろきょろ見回しかない俺に隣の部屋を案内する社長。

 やばい、ただの地元の先輩だった筈の先輩がもう眩しい社長にしか見えない。

「こっちはまあ寝室。普通」

「いやいやいや普通じゃないっすよ何すかこのでかいベッド。誰連れ込むんすかやべえな飛び込みそうになった」

 セミダブルを家に置いてる俺には分かる、何だこのでかいベッド俺のの1.5倍はありそう、超でけえ。しかも新品っぽい良いなー、うちの煎餅ベッド変えて貰ったら部屋せめーなやはり金かでかい部屋か。

「いや、マジでかいなこのベッド誰と一緒に寝るんすかー?」

「……いや、その話はやめてちょっと気持ち暗くなるから」

 しまった地雷を踏んでしまった。

 ひょっとしてこれはアレか俺は別れ話の愚痴を聞かされに呼ばれたのか大丈夫です飯を奢ってもらえれば大丈夫。適当に相槌打つの超得意です。

「なんかあったんすね、しかしこの部屋いいなー。俺も引っ越ししてえー、無理だなー。超でかいっすもんねえ」

 よし取り戻してこう取り戻してこう、テンションを持ち上げ直す。寿司!いや贅沢は言わない焼肉!いや贅沢は言わないラーメンと海外を目指したい。

 

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