2:『妖怪博士 目羅博士』
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その日も寝坊した慎吾は、通学路を無我夢中で走っていた。
お父さんとお母さんは早くから仕事に出かけるから、朝、慎吾を起こしてくれるひとは誰もいない。毎朝のように、我が子が無我夢中で学校へと急いでいるのを両親は知らない。
しかし去年までそんなことはなく、まいあさ決まった時間に起きて、悠々と学校に行っていたのだ。
なのに、今年に入って、もうこれで四度目か五度目の寝坊。
原因は分かっている。
夜、眠れないのだ。
九時過ぎには床に就くというのに、
来年はもう中学生だ。両親や町山先生の言う、“将来”というものに思いを馳せると、たまらなく不安になった。「将来、自分は何になりたいのか?」と自問自答すればするほど、ワケが分からなくなる。そしてその不毛なる思索の果てに、「このまま何者にもなれずにオトナになってしまうと、一体どうなってしまうのか?」という、とてつもない恐怖に心を
だから眠れない。
クラスのみんなが同じ不安を感じていないのが、不思議でたまらなかった。
次郎なんかはサッカーと女子の視線ばかりが気になるようだし、学なんかはテレビゲームやマンガのことで頭がいっぱい。純平はもうすでに《将来設計》ができているらしく、毎日、塾、塾、塾。そして直人に至っては、もはや何を考えているのかすら分からない。
自分だけが将来のことを思い悩み、悩んで悩んで気がついたら、みんなに置いてけぼりを喰らっちゃうんじゃないかと、ときどき思う。その悩みとさえ言えない悩みが、四六時中頭のまわりをグルグル回って、授業に集中することさえままならなかった。
それに加えて、山下奈緒子だ。
彼女が今日もとなりにいるのかと思うと、嬉しさの反面どうしようもないほどの
いっそのこと、今日は学校をサボってしまおうかとも考えたが、そんなワルいことができるほどの度胸がないのは、痛いくらいに分かっていた。
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