第13話 異変
砦全体を震わせた衝撃は、地下牢にも十二分に伝わっていた。
微睡みの中にあったカイトがその振動に叩き起こされたのも無理からぬことだ。
「なんだ?」
飛び起きて周囲を見渡す。固い石床で寝ていたせいか、背中に固い痛みが走り、思わず声を漏らしてしまった。
ここが牢屋であることを再確認して改めて気が滅入るが、今はそれどころではない。
カイトの胸に去来したのは、本能的な危機感である。
「なぁ、おい! あんた!」
怠惰な看守は椅子の上で舟を漕いでいた。鉄格子を掴んで詰め寄ったカイトに、彼は肩を震わせて目を覚ます。
「ン? なんだよ……うるせぇな」
「なんか、すごい揺れてるけどっ」
「ああ、大方戦闘が始まったんだろう」
大きなあくびをして、看守の青年は気の抜けた声を吐いた。
「戦闘? じゃあ戦わなくていいのかよ!」
「俺にはお前を見張るって仕事がある。戦いは外の奴らに任せるさ」
軽い笑いを漏らした看守に、カイトは血の気の引く思いがした。
「戦争、なんだろ? なんでそんな暢気なんだよ」
「はは。俺一人加わったくらいじゃ何も変わらねぇよ」
腰に提げた鍵束をジャラジャラと手慰みにして、看守は椅子に深く腰かけて天井を仰ぎ見た。
「このモルディック砦は、頑丈な高い壁と強力な防御魔法に守られてる。兵員は四百。いくら魔族が凶暴凶悪だからって、簡単は落ちねぇ」
「分かりやすいフラグ立てんなよ……」
「はぁ? なにワケの分からんことを。いいから大人しくしてろ。囚人くん」
手の甲を振って、もう喋るなと主張する看守。
兵士として軍の一員であるにも拘らず、彼には責任感というものがまるで無いようだった。無関係であるはずのカイトの方が、まだ危機感を抱いている。
納得できないまま、カイトは牢の奥に戻るしかなかった。
かすかに聞こえてくる戦闘の音に耳を澄ませて、この砦が陥落しないことを祈る。たとえ守り切ったところでカイトの処遇が変わるわけではないだろうが、敵に攻め込まれて殺されるよりは遥かにマシだろう。
「ん?」
壁に背を預けて座り込んでいたカイトの耳に、ふと異音が届いた。
外の戦闘音に紛れて、しかし異なる間隔と伝わり方で、この地下牢に響いてくる。
「なんだ、この音」
引っ掻くような、削るような、小気味良くも重厚感のある音だ。
「これって、まさか……!」
何かの本か、あるいはテレビ番組で見たことがある。強固な要塞を攻める際、城壁を壊したり登ったりするのではなく、地下道を掘って侵入するという戦術。
カイトははっとした。これはまずい。
正面からこの砦を落とすのは難しいと敵軍が判断したのなら、地下を通ってここにやってくることも十分に考えられる。
「なぁ、おい。あんた」
「なんだよまったく。大人しくしてろって言っただろうが」
看守は面倒臭そうに舌打ちをして、鉄格子を近寄ったカイトを見た。
「敵は、地下を掘ってる」
「はぁ?」
「地面を掘ってここまで来ようとしてるんだよ!」
「バカが。そんなことあるわけないだろう。冗談にしてももうちょっと言葉を選んだらどうだ」
せせら笑う看守に、カイトは眉を吊り上げた。
「バカはどっちだよ! どうしてこんな簡単なこともわからないんだ。地下道を掘れば敵は簡単に攻め込めるんだぞ!」
「うるせぇな間者のくせに。大体よ、魔族ってのは――」
その時だ。
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