クズと歯車⑤
延力は自己中で暴力的。 それが最大の問題だった。
―――全く、何なんだよ。
―――ドイツもコイツも鬱陶しい、あぁ、イライラする。
「本当、ムカつくんだよッ!」
近くにあった机を蹴り飛ばした。 それを見た延力とよく一緒にいる男子二人がはやし立てる。
「おぉ、今日はいつも以上に苛立ってんね。 もしかして、その首輪のせい?」
延力にもつるむ連中はいる。 似たようなタイプで繋がっているという感じであるため、他のクラスメイトは近寄ってくるどころか口を出す人間もいない。 それは他の4人も同じだ。
「あぁ、まぁそうだな」
「先生に、延力の力の強さを見せちゃえば? そしたら怖気付いて、何も言ってこなくなるだろ」
「・・・そうしたいけど、退学になるのは困るんだよ」
首輪をグイ、と引っ張りながら言った。 引きちぎることもできそうだが、万が一爆発でもしたら流石にタダでは済まない。
「延力って意外と真面目なのがいいよな。 でもその首輪、結構厳つくて似合っていると思うぞ」
「止めろ」
話していると、絡んだことがあまりない気弱そうな男子がやってきた。
「あ、あの、延力くん」
「あぁ?」
「これ、当番日誌なんだけど、先生が書き直せって・・・」
「俺が当番だったのは昨日だぞ? それなのに何で俺が」
延力は日誌に目を向けながら考える。 開かれていた場所は、確かに自分が昨日書いたはずの学級日誌だ。
「昨日延力くんが、朝に日誌を書いているところ先生が見ていたらしくて。 当番日誌は放課後に書くものだから、新たに書き直せって・・・」
「ちょっと貸してみろ」
日誌を奪い中身を確認した。 ぎっしりと書かれていて、特に問題なさそうな内容だ。 ただもちろん、今日一日起こった出来事を、先に、朝書いたものであるため延力の勘と脚色がされている。
「何だよ、完璧じゃねぇか! 先生に返しておけ、俺は絶対に直さないってな」
「いや、でも、先生が・・・」
カッとなり、気弱少年の胸倉を掴んだ。
「先生が先生がって、お前の意思はどこにもないのか!? だったら素直に俺の言うことを聞いておけよ! 俺の言葉は、一切間違ってなんかいないんだ!
お前の意思がないのなら、俺の言葉にだって従えるはずだろ!?」
寧ろ自分としては一日の予想が当たり、有頂天になっていた程だ。 『どうだ、俺凄いだろ』 そんな風に、仲間に自慢すらしていた。 だからそれにケチをつけられ余計に腹が立ったのだ。
それを見た仲のいい仲間が、二人を引き剥がした。
「ちょいちょい、延力。 落ち着けって」
「そうそう。 コイツはただ、人の言葉に素直なだけなんだって」
「ちッ・・・」
延力はまたしても机をガツンと蹴り飛ばした。
―――どうしてこうも上手くいかないんだ?
―――みんなが俺の思い通りに動いてくれれば、それでいいっていうのに。
延力がこうなったのは、完全に親の教育方針によるものからだった。
小学校低学年の時のある日、延力が問題を起こしたということで母親が学校に呼び出された。
これは延力が暴力を振るうようになったきっかけ、というわけではないのだが、それを助長することになった一幕。
「お宅のお子さん、今月でもう7人の生徒を泣かせたんですよ? 叱っても反省する気はないし。 一体どういう教育をしているんです?」
担任としては“ちゃんとやりました”というポーズがほしいのだろう。 叱ったといっても軽い注意をしただけ。
学校教育が問題になりやすい今、あまり強く出れないということもあったが、余りやる気もなかったようだ。
「息子には私から言っておきますので」
母はそう言うだけで、担任はとりあえず納得したようだった。 母と延力の二人だけになったところで、母は満面の笑みでこう言った。
「大丈夫。 貴方は、自分が正しいと思うことをやりなさい。 それを否定したりする人は、お母さんが何とかするから」
母は自由奔放に育て、元から延力を小さな型枠に嵌めるつもりはなかった。 それから延力は自分に自信を持つようになり、得意な運動で成果を見せた。
運動会も自分が率先して、クラスメイトを率いる程にもなった。 だがそれが、あまりよくなかったのかもしれない。
全てを自分基準で行ってしまうため、怪我や体調不良を起こす生徒がたくさん出たのだ。 この時も母は呼び出され、注意を受けた。
「・・・母さん、俺、悪いことをしたの?」
「いいえ。 他のみんなは、貴方と比べて運動神経が劣っているだけよ。 貴方はそのまま、自分の好きなように生きなさい」
母は延力に甘かった。 延力の悪いところを修正せず育ててしまったため、今のような乱暴で自己中心的な性格になってしまったのだ。 常に自分が特別で、一番だと思っている。
なまじ能力が高いのも問題だった。
延力は高校に入った今も、それが悪いことだと思っていない。 寧ろそうして母親が育ててくれたからこそ、自分の能力は伸び好きに生きられる。 それに付いてこれない周りが悪いのだ。
「あ、見てみろよ延力! あっちで楽しそうなことをやっているぞ」
「あ、本当じゃん。 腕相撲だって、延力の力の強さをみんなに見せつけてやろうぜ」
取り巻き二人も、延力に似たタイプで集まるべくして集まったとも言える。 勉強に関しては三人共大したことはないが、スポーツは学年でも上位に入るくらいなのだ。
「・・・あぁ、そうだな」
それはいいことでもあり、悪いことでもある。 延力のストッパーになってくれることもあれば、逆に背中を押すこともある。 二人が腕相撲に話をそらしたのは、延力の機嫌が悪いのを見てだろう。
その心遣いは延力にも伝わっていて、密かに感謝もしている。 延力は腕相撲をしていたグループに近付き、ニカっと笑った。 相手も当然、延力のことはよく知っている。
「へぇ、腕相撲面白そうじゃん。 折角だから、俺が相手になってやるよ。 今のところ無敗の奴は誰だ?」
グループは互いに目を合わせ、細身の筋肉質な体育会系男子が挙手した。 正直負けるのは分かっていたが、こういう時素直に受ければ延力を怒らせることもないというのも知っているのだ。
試合開始と同時、あっという間に延力が相手の手を机に叩き付けた。
「もうちょっと抵抗して、俺を楽しませるくらいできねぇの? ふッ、俺に勝つ日なんて一生来ないだろうな」
「す、すげぇ・・・。 流石延力だな、敵わないわ」
―――そう、俺に敵う者なんていない。
―――だって、俺が一番正しいんだから。
延力に暴力を振るわれたくないためか、延力に逆らう者はあまりいなかった。 そして力で勝るものは今のところ誰もいない。 力に自信がある延力は、全てを力で解決させてしまおうとも考えていた。
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