クズと歯車

ゆーり。

クズと歯車①




ここは県立紅桜高等学校。 普通科の至って普通の高校に、妙にダークなオーラを放つ5人が廊下を歩いている。 気だる気な表情からは、健全な学生生活はとても見て取れない。 

更に首に巻かれた黒い首輪が印象的である。


「あー、鬱陶しい」


教室の入り口をくぐりながら、面倒臭そうに華月(カゲツ)は言う。


「ったく、どうして俺がこんなことをしなくちゃなんねぇんだよ!」

「マジうぜぇ、何なんだよ。 教育委員会に訴えるぞ」

「あー、もう意味分かんない。 デタラメなことを言ってもらっても困るなぁ」

「・・・」


文句を言いながら教室に入っていく面々。 前から、華月、延力(エンリキ)、悪沢(アクザワ)、歌災(カサイ)、浅取(アサトリ)、だ。 自他共に、というよりは周りから恐れられている5人。 

それが同じクラスに集まっている。 元々つるむような5人ではないのだが、少々厄介があり呼び出されていた。 注目が集まる。 だがそれも一瞬のことで、クラスメイトは慌てて目をそらした。






約40分前。 5人はある名もない部屋へ、担任の川原田(カワラダ)に呼び出されていた。 一人ずつ行われる面談、それに意外と素直に従う5人。 まずトップバッターは華月だった。


「先生ー。 俺に何の用ですかぁー?」

「華月。 お前、随分と学校生活を楽しんでいるようじゃねぇか」


もちろん、嫌味である。 だが華月はそんなことを気にもせず、本気で褒められたのだと感じた。


「もちろん! 先輩や先生方は、俺をすっごく可愛がってくれますし! 俺の周りには、いい人ばかりしか集まりません!」

「それだよ、それ。 人によって態度を変えるのを止めろ」


川原田は呆れ返るように言った。


「・・・は?」

「自分より下の奴らには、酷い言葉で罵っているんだって? なのに成績上位者や先輩には、いつも媚を売っているみたいじゃねぇか。 そのまま大人になったら苦労するぞ」


別の先生が華月を取り押さえ、無理矢理首輪を付けさせた。 生徒指導を行う川原田と、その子分とも言える体育教師。 体格では1対1でも敵わないところを、二人もいればどうしようもない。

首輪が付けられるとそれで終わりなのか、華月は返され次に呼ばれたのは浅取だった。


「浅取。 先生は知っているぞ? お前、モノをたくさん盗んでいるだろ。 その盗み癖を直せ。 大人になっても直らなかったら、お前はすぐに捕まるぞ」

「・・・」

「今まで盗ってきたものを全て返せ。 そして、みんなの前で謝るんだ。 猛反省したら許してやる。 どうだ、できそうか?」

「・・・」


元々口で言って分かるくらいなら、こんなところに呼び出してはいない。 反省の見込みがない浅取にも首輪を付け、次に呼ばれたのは延力だ。 彼には話すこともなく、首輪が付けられた。


「ッ、おい! いきなり何をすんだよ!」

「お前は反省する気がそもそも見られないからな。 首輪を付けるのは確定だ」

「はぁ!?」

「延力はその暴力を止めろ。 言葉も丁寧に使え」

「そんなもんなくしたら、俺じゃねぇだろ!」

「大丈夫だ。 暴力をなくしたところで、お前の個性はなくならない」

「そういう意味じゃねぇ!」


終始不満気だったが、川原田としても先に首輪を付けるのは譲れない。 延力は体格がよくて力が強い。

二人がかりでどうにもならないといったことはないが、話をして理解しないのが分かっているなら先制的に首輪を付ける方が賢明だと思った。 次に呼ばれたのは歌災だ。


「成績優秀で習い事も多く、容姿も完璧でお金持ち。 周りの友達はそう思ってんだよな?」

「・・・それがどうしたって言うんだ?」

「実際の成績は中の下。 習い事も一つもしていないから、言う程運動神経はよくない。 更に、お前の家庭はごく一般的平凡な家庭だ」


歌災は自分のイメージ像を作り上げ、それを周りに信じ込ませている。


「ッ、それ絶対誰にも言うなよ・・・!」

「そう思うなら、もう人に嘘をつくのを止めろ。 いつかバレた時、お前のことを誰も信用しなくなるぞ」


歌災にも首輪を付け、次は悪沢だ。


「悪沢は人の悪口を言うのを止めろ」

「あぁ? 先公ごときが何を言ってんだよ」

「色々と被害届が出てんだよ。 『悪沢くんに人格を否定されました』だとか『悪沢に親を馬鹿にされました』だとか」

「そんなもん、俺が知ったこっちゃねぇだろ!」


直る見込みのない悪沢にも首輪を付けた。 全員と一対一で話し終え、川原田は5人に向かって言う。


「お前らはみんなクズ過ぎる。 もう高校二年生だ。 高校を卒業したら、お前らはどうなると思う? 不適合者として、社会から省かれるのは自然だな。 それぞれ指摘したところを各々直せ。 

 じゃないと今日、家に帰ることはできないと思え」


その乱暴な物言いに、首輪を付けられた面々は一斉に不満を漏らす。 だが浅取だけは、座って黙っていたようだ。


「「「「はぁ!?」」」」

「お前らに付けた首輪、所定の手段以外で外そうとすると爆発するようにしてある。 死にはしないが、タダでは済まない。 あとはこの学校の敷地外へ出ようとしても爆発するから、要注意な」

「ふざっけんなよ! 人権侵害だ!」

「くっくっく。 人権っていうのは、義務と責務を守る人間にのみ与えられた権利だ。 お前らには人権なんてないんだよ。 人として扱ってもらえると思うな!」


正直、本当に爆発するとは思えなかったが、5人は仕方なくそれを信じることにしたのだ。






そして冒頭に戻り、現在である。 川原田にああ言われたが、5人は特に何も感じていない。 いつも通り過ごしていた。 

どうせ首輪の爆発なんて嘘だろうし、帰れないというのも嘘だろう。 学校としても、生徒を帰さないなんてできないのだから。


「あーあ。 憂鬱ー・・・。 そうだ、先輩のところへ行って構ってもーらお。 ちょっと君たち、そこ邪魔だよ。 どいてくれる?」


華月は教室を出ると、階段へと向かった。 その後ろ姿を見送ったクラスメイトが、歌災に話しかける。


「歌災くん、先生に呼び出されたんでしょ? 何だって?」

「『歌災は頭が悪くて貧乏な家庭に住んでいる』って言ってきたんだ。 酷くない? 実際の俺は、その真逆だって言うのにさ!」

「だよねー! 歌災くんのハイスペックさに、先生は嫉妬したんだよー」


5人は全員が全員、周りから評判が悪いというわけではない。 実際、普段の言動から問題児と呼ばれているのは延力と悪沢の二人だけだ。 

ただその5人が同時に呼び出されたということで、何か思うクラスメイトもいるのかもしれない。 浅取は誰とも会話せず席に座っている。 その時、ふと床に一本のシャープペンが落ちているのに気付いた。 

場所的には隣の人のものだろう。 だがそのようなことは気にもせず、周囲を確認すると堂々と拾い上げた。 もちろん返すわけもなく、懐に忍ばせる。 鮮やかなものだ。

やはり5人全員全く直す気はなく、各々別行動をして普通の日常を送っていた。 もちろん川原田だって、そのようなことはよく分かっている。

水面下での計画は、5人の全く知らないところで進行していた。



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