第2話

 人ではないものを引き寄せる。

 私の恋人は、そういう何かを持っていた。


 たぶん、才能や体質ではない。理性。どんなことになっても自我を失わない、強靭すぎる理性。その強さが、弱いものを引き付け続ける。


 自分にできることは、なかった。人ではないものが幽霊やのろいのようなものなら、祓うことができる。幽霊やのろいは、見えにくいだけで存在はしている。


 祓えないものが来たら。恋人は、どうなるんだろうか。恋人の理性は、それでも普通のままでいるんだろうか。


 考えても仕方のないことばかり、考える。


 自分の名前と身体を、思い出せないことに気付いた。


 わたしは誰だろう。


 恋人の顔。思い出せる。でも自分の顔は思い出せない。


 ここはどこだろう。


 私は。


「おっ、そろそろお目覚めですか?」


「え?」


 目が、覚めた。


「あ、あれ、私」


「なに祓ったの。倒れてたけど」


「うそ。ここは」


「神社の奥。誰も入ってこないところ」


「ああ、簡易ホテル」


 祭りとかになるとカップルがよく侵入するので、簡易ホテルと呼称していた。ちなみに祀ってる神様の要望で監視カメラもついていた。他人の情事を録画して、それを眺めて楽しむ神様。


「簡易ホテル?」


「なんでもない」


 かみさま。いますか?


『いるよ?』


「わっ。なにこれ」


「かみさま。この神社の」


『起きたね』


「私は何を」


『いやかみさまも知らない。知りたい?』


「ええ。まあ。きけんがあるとまずいので」


『それは大丈夫だと思うよ。うちの境内だし』


「そう、ですか」


『それでもしりたいなら、条件。その恋人と』


「あっお断りします」


「えっなんで。最後まで聞こうよ。ここの神様なんでしょ?」


「だめ」


『ええ』


「ええ」


「だめなものはだめです。さあ、私の部屋でおかしでも食べましょ」


『巫女の映像欲しかったなあ』


「映像?」


『うん』


「ちょっと神様。よけいなこと吹き込まないでください」

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