【オフ】閑話:お姉ちゃんの来訪と襲撃。
休憩時間、狙いすましたかのように、ピンポーンーーと家の呼び鈴がなる。
誰だろうと思って玄関モニターを見るとそこにはお姉ちゃんの姿があった。
「やっほ~、元気してっ――」
反射的に通話を切ってしまう。
「おい、誰だったんだ?」
何時もの如くリビングで寛ぐ樹一がひょっこりと顔を覗かせて、僕の方を窺い見る。
「兄ぃ、聞こえなかったの、アレは音姉でしょう」
小鳥ちゃんが呆れながら言うと、しばらく笑顔だった樹一の顔がどんどん崩れていく。
〈そんなムンクさんの絵画みたくならなくても〉
そういう反応がしたくなる気持ちは、分からないでもないけどね。
「あら帰って来たのね~」
〈母さん知ってたの?〉
「えぇ、昨日くらいに連絡があったからね」
〈教えてくれおいてもよくないかな〉
僕がジト目で母さんをみると、ちょっと困った様に笑いながら誤魔化そうとする。
「そうですよ、いきなりは俺の心臓に悪いです⁉」
「ごめんね~、口止めされてたから。音ちゃんがね、どうしても驚かせたいからって」
半目で睨む僕には絶対に視線を合わせないのだ。
普段は逆に人の目をジッと見て話すので、そういう所をみると、お母さんはお姉ちゃんから何かしらの賄賂を貰っている可能性が浮上してきた。
〈お母さん、何をお姉ちゃんから貰うの〉
寂しそうな顔を作って、上目遣いでしょんぼりしながら書いた文字を見せる。
ポイントは少しだけ瞳を潤ませたようにしつつ、細目を作る所だろうか。
「えっと美容に使えるスチーム機材とか、お化粧品一セット……あっ! もう、翡翠ちゃんの意地悪~、その優しい囁き声は卑怯よ~」
子供の時からやってる手口だけど、未だにお母さんは引っかかるんだよね。
〈やっぱり、そんなこったろうと思ったよ〉
「あらもう、母さんを虐めちゃダ~メ」
甘く優しい声音なのに、凛とした声が僕の耳元で囁かれた。
僕や樹一達でなければ、喜びの悲鳴か嬉しさの余り失神でもしていたかもしれないけれど、僕達にとっては背筋から鳥肌がゾワゾワっと駆け巡っていく。
その場から飛び退いて、振り向くとお姉ちゃんが何時の間にか背後に迫っていた。
ちなみに、僕がお母さんを責めていた時には、既に室内に入っていたらしく。
樹一にはもう既に悪戯をした後だったようだ。リビングでプルプル震えながら膝と両手を付けて、項垂れている様子がこちらから良く見えてしまった。
小鳥ちゃんは自分に被害が来ない様にと、最低限の挨拶をして離れた所にいる。
「あっ、お母さんに頼まれてたヤツは明日に届くからね」
「ありがと~、もう大好きよ音ちゃん」
「それと、コレを貰ってきたから、必要だったんでしょう」
A4サイズの厚めな封筒をお母さんに渡して、ニコッと僕の方を見て微笑んだ。
その瞬間に嫌な気配がしたので逃げ出そうとしたが――、
それよりも素早くお姉ちゃんに確保されてしまう。
「あ~、もう想像した通りの抱き心地じゃない。それに前よりもやわっこくてあったかい」
スタイル抜群のお姉ちゃんに抱きしめられて、胸が大きい分だけ息もし辛くなる。
男の時だったら嬉しいのかもしれないけどね、なんか今はすっごく不愉快な感じがする。
「それで、琥珀ちゃんじゃないと貴方の声は聴けないのよね。残念けど仕方ないわね」
流石にバタバタとしていて、放してくれ、優しくも寂しそうな顔で丁寧に頭を撫でられた。
「今日はね、翡翠ちゃんが学校に行けるよになる書類を持ってきたのよ。お父さんやお母さんに頼まれててね、ようやく書類が纏まったって連絡が来たから私が行ってきたのよ」
〈そっか、ありがとう〉
「まっ、それはついでなんだけどね。やっぱり我が妹と触れ合えないなんて、姉としては絶対に許せないじゃない。もう待ち遠しかったんだから~」
しばらくは、お姉ちゃんの暴走に付き合うしかなさそうだ。
僕が諦めた表情をしながら、逃げ出そうとした樹一を逃がさない様に必死に抱き着いた。
「放せっ! 俺を巻き込むな⁉」
〈しなばもろともよ〉
絶対に弄られるならば、少しでも樹一を巻き込んでやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます