【オンライン】304話:勝負と試合と勝敗の価値(13)
牧場サーカス団の様子を一通り見終わって、明日の公演に向けて問題点を洗い出して纏めてから、カミルさんに資料を作って貰う。
「もういっそのことさ、ご意見箱でも作って置いといた方が良いよね」
〈そこに文字を書ける人を派遣しないとダメだけどね〉
「ほぇ? なんで?」
〈グランスコートに住んでいる村人全員が文字を書ける訳じゃあないからだよ。元々、学力は底辺な状態なんだから〉
ただ、何故か特殊技術力だけは飛びぬけているという不思議な町になりつつあるんだよね。本来は基礎知識から特殊技巧を得なければならないはずの部分を、モンスター達が肩代わりしてくれているので、技術力が飛びぬけて上がっていくようだ。
「来場者数はグングンと伸びていっていますよ」
カミルさんがウキウキしながら、牧場に入っていく人の数値を映し出してくれる。
「ですが、お客様としての来場者は三千にもみたないですけどね」
アンさんが疲れた表情でカミルさんを半睨みしながら、テキパキと作業を進めていく。
「もう暗いよアンちゃん」
「いきなり連れて来られて、大量な仕事をさせられる身にもなってくださいよ」
「そんなことを言って、ウサギちゃん達や妖精ちゃん達と戯れてた癖にさ~。それで作業を忘れて溜まっちゃっただけでしょう」
アンさんのイメージは真面目で仕事を終わらせてから、自分の時間に費やす人だと思っていたけれど、意外にも可愛らしい所もあるんだな。
僕等の生暖かい視線が集中してしまい、少しだけ恥ずかしそうに顔を赤らめ、俯いてしまう。プルプルと震えながら隣に座っているカミルさんが、急に声を上げて飛び跳ねた。
「いっ⁉ ちょっとアン! なにするのよ」
「どうかしたの? なにか尖ったモノでも踏んづけたんじゃない?」
あれはきっと、アンさんに抓られたんだろうな。
「それよりも、コレは勝つ気がないと思ってもよろしんですね。イベントの勝敗は来場者の総合数ではなく、お客様の数ですよ」
〈あぁそうか、アンさんには今回の経緯を説明してませんでしたね〉
なんで僕等の場所に見に来てくれた人達が、舞台の参加者としてカウントされるようなことをしているのか、ミスユ団長達のやり取りを含めて細かく説明する。
「なるほど……それならば確かにメリットの方が大きいですし、人心の掌握も出来ますね」
〈あの、アンさん。その言い方をされてしまうと身も蓋も無いんですけど〉
カミルさんとは違う意味で、アンさんは直球の剛速球ストレートな性格らしい。
だから、お互いに気が合うのかもしれないな。
「スノー様、今何か失礼な事を考えませんでしたか?」
背筋がヒンヤリと冷たくなり、思わずアンさんの方を向く。
〈なんにも考えて無いですよ〉
震えながらコメントを素早く打ち、首も左右にブンブンと振る。
顔は笑顔なのに、物凄く冷たい視線が僕に突き刺さってくること数秒間、じっとしながら耐え続けるしかなかった。
「そうですか、私の感も鈍ってしまったんでしょうかね。考えて無いなら良いんですよ」
何にも言い返せずに僕は縦に首を振るしか出来なかった。
「他の方々も、淑女に対して変な考えはしないように、お願い申し上げます、ね」
僕以外にも笑顔で一人一人の顔を見つめていく。
隣に座っているカミルさんは、さっきから顔を青くして寒そうに震えている。
「だ、大丈夫です。逆らいませんので」
シュネーが余りの恐怖に混乱してか、敬礼しながら可笑しなことを口走っている。
ただ、それに満足したようにアンさんは、シュネーにだけ優しく微笑んで返す。
「明日から、こちらの修正案を考えて提示しておきます。人員の補充はスノー様のポイントから使わせて頂きますが、よろしいですね」
〈あ、はい。人材募集に使っちゃってくれて構いません〉
「それでは、二千ポイントほど使わせて頂きます。コレで文字の読み書きと指導が出来る人材を四人は確保できるでしょう」
という事は、一人に対して五百のポイントって事か。
低めなのは、文字の読み書きを教えられるだけの人材なんだろうな。
〈警備に関しては大丈夫そうなのかな?〉
見回っている間、僕はあんまりその辺が見れていなかった。
「その辺は心配なさそうですよ」
「そうですね、彼等が居ますから、下手に人員を割くよりは育成に回して今後に備えた方が効率も良いでしょうね」
「それで問題ないんだな。彼等について居れば、ある程度の経験値は得られると思うんだな」
なんか僕の知らない所で、色々と動いてくれているらしい。
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