【オンライン】176話:イベント騒ぎは大騒ぎ




 坂を駆け上がる手前でニンフィの速度がガクッと下がる。


「よっと。もう少し頑張るんだな」


 下から優しく抱き上げる様にニンフィを支えながら、坂を一気に駆け上がっていく。


「あれ? 追って来ないよ」


 シュネーの言葉で僕も大鬼に目をやる。

 急に冷静になったのか、坂の手前で大鬼が僕等を少しだけ見てから後ろを振り返る。


「こっちに来るなら構わないぞ」


 何処に隠していたのか、バリスタも用意されて包囲網が何時の間にか完成していた。

 舌打ちをする様に唸り声で斜度のキツイ坂を這うように上ってくる。


〈以外にも早い!〉

「体が大きいでござるからな」

「早くしないと、掴まっちゃうってば」


 坂を上り切った所で大鬼の手はもう僕等を捉えられる位置まで来ていた。


「ガウちゃん、合わせて⁉ 《衝手破》」

「承知⁉ 《シールドバッシュ》」


 ケリアさんとガウが僕を掴もうとしてくる巨大な手を弾き飛ばした。


 スタミナはもう殆ど空っぽのニンフィも、一生懸命に前へと進んで行く。それでもやはり進みは遅く、歩くスピードと変わらない。


「一気に行くわよ~」

「誰よりも軽やかに逃げる。それが拙者の真骨頂である」


 技を打ち終えたケリアさんとガウが素早く体制を整えて、ガッシリとニンフィと僕を抱き抱えこんで下り坂の端までピタッと止まる。


「二人とも飛ぶ気なの⁉」

〈時間も無いし、それでいこう〉

「ぼ、ボクは元々飛んでるしさ、別に――」


 シュネーが一人脱出を図るが、僕が彼女を抱え込んで逃がさない。確かに言われて気付いたけれど、もう殆ど条件反射的にシュネーを抱え込んでしまったので離せない。


 後ろには顔を半分くらい出し、こちらを覗き込むように見る大鬼が真後ろまで迫っているのだ、目と目が合った瞬間に体が強張ってシュネーを離してあげられるような力の抜き方なんて忘れてしまっている。


 無理やりにでも僕を捕まえようと必死になる鬼を嘲笑うように高く飛躍する。

 何故かガウは後ろを向いたまま飛び上がっている。


「ケリア嬢⁉ 後は頼むでござるよ」

「えぇ、任せなさい」


 ガウが背負う大盾に乗っかって、ケリアさんはもう一段高く飛び上がった。


「えっ! ガウはどうするの⁉」


 反動で落ちていくガウは体を丸めて弾丸の様に大鬼の顔面目掛けて落ちていく。


 チラッとガウが落ちて方を見ると、大鬼もこちらに向かって飛ぼうとしていた所だったのだが、ガウの予想外の動きには反応が出来ずに脳天に直撃する。


 一気にバランスを崩した鬼はそのまま水路の方へと転がり落ちていった。


 ガウは回転を加えた勢いを利用して、反対方向へと転がっていく。ただ状態異常の警告で【気絶】とだけ表示されていた。


 上手いことぶつかったのはお互い様の様で、お互いに強いダメージを頭に受けたらしい。


 あそこでシュタッとカッコ良く着地が出来ていれば、女性からの評価は満場一致で満点だったろうにね。惜しい所は実にガウらしいと思った。


 反対側まで飛び退くと、水がもうちょろちょろと水路を通って流れ始めていた。


「アレはヤバいわね。逃げるわよ」


 水が来る方をケリアさんが目を凝らして見ながら、焦ったように反対側へと駆け出して嵩上げした広い道から離れようとしている。


「皆離れろ! 鉄砲水が来るぞ⁉」


 ティフォの叫び声が聞こえてきた。


〈……鉄砲水……ダメです、戻ってくださいケリアさん〉

「へっ⁉ 何言ってるのよ。アレでアイツも倒せるじゃない」


〈このままだと、グランスコートに被害が出るかもしれません。パニア! パニアは⁉〉


 皆が此処に集まっていたのなら、パニアも居るはずだと探し回る。

 コンコンと足音の様な、小石がぶつかる感じの音が徐々に聞こえてくる。


『ドウシタ、ココにイルぞ』


〈一緒に来て〉


 ケリアさんの腕から飛び降り、パニアを首から掛け水路の中央に目をやる。


 全身に冷たい水を改めて被ったからか、大鬼のボスはボケ~っと天を見上げている。


 彼もスタミナ切れを起こして、起き上がる気力も無いのだろう。




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