【オンライン】177話:イベント騒ぎは大騒ぎ
さっきまでのカッコイイ感じのケリアさんが、今はもうオロオロとしながらも僕の隣に立って、何時でも僕を連れて逃げられるようにしてくれている。
「ちょっとちょっと、どうする気よ」
〈パニア、大鬼の手前辺りに守る感じで石壁を出す事って出来る?〉
『モンダイない、シカし、イイのか? アヤつはテキではナイノカ?』
「あのままにしておいた方が、楽に倒せるのに助けちゃうの?」
確かに罠にかけて倒したというなら別に良いんだけどね。今回の事態は想像していないイレギュラーな事で、完全に僕が想像していた範疇の外側だ。
〈コレは唯の事故だよ。そんなんで勝っても楽しくないでしょう。それにこのままだと被害が大きくなる可能性の方が大きいんだから、彼には協力してもらう。分厚い壁は下側だけで良いから、後はドーム……半球の形にして〉
『ズイブンと、ムズカしいチュウモンをイウ』
僕の指示を聞いてからすぐにパニアが光り出して、集中するように力を籠め始めた。
「ここに居ちゃったら私達を危ないわよ⁉」
「スノー! 水の壁が遠くに見えるよ! どうしよう、ねぇ、どうするのさ⁉」
〈僕等も下に行こう〉
ニンフィはスタミナゲージがゼロになってしまっていて体力切れ状態に陥り、しばらくは高く飛び上がる力も無く、使い古された枕みたいにペチャンコの布切れ状態だ。
今までは僕を守る為に必死になってくれていたんだから、次は自分がしっかりと守ってあげなければ罰が当たってしまうだろう。
小さな小石が幾つも地面にばら撒かれてような音が段々と周りに響き渡ってくる。
「ほ、本当に行くのね!」
〈時間もありません、早く〉
「はぁ~、なんでこんな事になってるかな~」
滑り降りるようにして、大鬼の元に行くとパニアの力が溜め終わったようで、すぐに壁が地面から迫り出してくる。
「グァ⁉ ガァウゥ‼」
ボケっとしていた大鬼は今まで逃げていた僕等が近くに来たのを、戸惑った様子で見る。
初めは大鬼が武器を手にして、こちらを警戒するような雰囲気を見せた。
でもパニアが壁を守る様に出し始めて、棍棒を握る力を緩めてくれた。
〈すぐに起き上がって‼ 死にたくなかったら力一杯に壁を支えて下さい〉
鬼のボスにこっちの言葉が理解出来るかは、正直に言って分からない。
けれど、彼の知性は普通の鬼達よりも格段に高いという事は分かっていたし、パニアの行動を瞬時に理解した様子を見れば明らかだろう。だから必死になって壁を指さして、支えるような姿勢をとって力を貸してほしいと頼むことで意思を伝えるしかない。
大鬼は何度も壁と僕等を交互に見返し、ゆっくりと上半身を起こして膝を付きながらも壁を支えるような姿勢をとって見せてくれた。
「……伝わるモノなのね」
「でもさ、石壁だけで耐えられるの?」
それは、ちょっと分からないと返そうとする前に、パニアが答えた。
『ムリダ、イキオイがツヨスギル。マワリのカベがケズレるヨウスがある、ソノイキオイがブツカレば、スグにカベがタエラレズにクズレてしまう』
パニアが作り出した壁に魔力が宿っていても、周りの石壁より少しだけ強度が強い程度。いくら分厚く作ろうとも、連打で削られてしまってはすぐに脆くなってしまうようだ。
〈衝撃を和らげるモノが在れば耐えられそう?〉
『ふむ、ソンなモノがアレばヨユウだ』
ミカさんに貰った試作品を取り出した。
「あ~、それってもしかしなくてもミカさんの錬金アイテム?」
「なるほどね、それなら何とかなりそうね」
「グァ?」
大鬼は目をパチパチとさせて僕の手の平に乗っている小さい錬金アイテムを見ている。
〈小さい穴を開けて手前にコレを設置しよう〉
『スコシまて』
滑り台みたいな斜めの坂になっている穴がクルクルと開いていく。
『ソコにイレレば、マエノホウにオチル』
〈シュネーも手伝ってね、上手くいってね〉
「上手くいきますように」
願う様にギュッと胸に握り込んでから、シュネーと一緒に少しだけ魔力を込める。
穴の中に入れると、コロコロと転がっていく。
手前に落ちた事を確認したのか、パニアはすぐに穴を塞ぎ始めた。
僕等の前がどういう状況になっているのか確認は出来ないが、左右から大量の拳くらいの石礫が飛んできているような激しい音が聞こえてくる。
チラッと左右を見渡せば、音がしている場所には濡れた後があるだけだった。
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