【オンライン】173話:イベント騒ぎは大騒ぎ




 本来は人の脚に引っ掛けて逆さ吊りする罠を引っ張ってきて大鬼の脚や腕に無理やり絡ませて四方から引っ張り、時間を稼ぐ。


 攻撃力や重力級の武器を持つプレイヤーは頭や関節といった急所を集中的に狙い、総攻撃をして、テイムモンスター達も一緒になって仲良く殴っている。


〈歩きながらでも進もう〉

「進むって、何処に向かってんだよ。適当に逃げてるだけじゃね~のか?」


 怪訝な顔をして突っ掛かるように大剣の青年が言ってくる。


「ネグちゃん。女の子にはもうちょっと優しい口調で言わないと嫌われるわよ」


 大きくため息をもらしながらも、ケリアさんが注意する。


 けれど彼の言っている事は半分くらい合ってるんだよね。目的地は決まってない、こっちに来たのだってダイチお爺ちゃん達が居たからだし、誘導されて来た様なものだ。


 マップを縮小しながら広い範囲を見る。


〈このまま進めば僕等が作った道がありますから、そこまでは死に物狂いで逃げるしかないですね。後は着いてからのお楽しみ〉


「作った道だぁ? そんなとこに行って何すんだよ?」


 ハッタリだけれど、馬鹿正直に本当の事を言う必要はないだろう。


「それそ説明する義理は無いよ」


 シュネーが少しイライラしながら、舌を出し「ベーッだ」と頭の上で威嚇している。


 作戦なんて無く、とにかくボスを引き付けながら逃げるているだけだからね。説明を求められても答えられないという方が正しいのだけれど、気にしない。


 ネグは他の皆にも聞いたが、全員が肩を少し上げて知らないというジェスチャーをする。


『ちょっと~、皆は今どの辺りに居るのよ⁉』


 ミカさんからのパーティー通話が大声で飛んできた。

 僕もティフォ達も顔を顰めて、耳に手を当てる。


『色々と言いたいけどさ、私ってどう動けばいいの! ヴォルマインの人達も引き連れて来ちゃってるのよ! 敵本陣にボスは居ないし水浸しっていうか、水没してるし聞いたし何がどうなってるの? とにかく何か指示を頂戴よ、グランスコートに着いちゃうわよ』


 敵本陣を潰している戦力分以上が来るなら、何とかなるかもしれない。


〈ちょっと色々とあって、ボスを引き付けながら僕等は移動してるんですよ。このまま進むと嵩上げした水路の道に出る感じになります〉


『へ~、なるほど、そういう事ね。そこで私達が待ち構えてれば良いのね』

〈えっと……あ~はい、そうなります〉


 何か勝手に納得されているようだけれど、僕にはサッパリ理解できない。


『ふむふむ、何故そんな遠回りをして敵のボスを連れて移動しとるかと思えば、そういう魂胆であったのか、なるほどのぅ。だからあのままにしていたと……よし、タイミングは其方に任せるぞ。こっちも準備万端にしておく』


 アライアンスパーティーのボイスチャットで会話していたから、他の人達にも聞こえていたらしい。エーコーさんが会話に急に入ってきて少しだけビックリした。


『やっぱり私が持ってきた水門が役に立つんじゃあないですか! こんなに早く、それも重要な事で役立ててくれるなんて、流石は私が見込んだ子ですよ』


 流石にもう中央都市に帰っているかと思ったのに、何を居座っているのさ。


〈……まだ居たんですね、カミルさん〉


『ふふふ、私としても受付嬢として見届けて上に報告する義務がありますのでね』

「モノは言いようだね。良く舌の回る人だよ」


 シュネーが呆れながら言うと、周りの皆もそれに同意という感じで黙って頷いた。


「お前等だけで何を会話してるんだ⁉ 俺達も混ぜろよ」


「それは出来ない相談でござるな。何せ、信用も信頼も出来ない相手なのだから」

「なんだとデブ!」


 ネグが怒鳴り声を上げてガウに掴み掛ろうとしたが、ゲンドウさんがその腕御を掴んで止め、少しだけ彼等を押し返した。


「今ここで争っている場合じゃあないし、彼等の言い分は正しいだろう。仲間じゃあないんだからな。特に俺達がやろうとしていた事を忘れたのか?」


 何をしようとしていたと詳しく言わないが、彼が持ってきてくれた情報をそのまま遂行しようとして、あの場所に居たんだろう。こっちも迂闊な事は言わない方が良いね。


「チッ、わぁったよ」


「へ~い、まぁ確かにそうですね」



 二人はばつが悪そうに、身を小さくして引き下がった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る