【オンライン】169話:イベント騒ぎは大騒ぎ
ケリアさんが大きな叫び声をあげると、すぐに全身から余計な力が抜けていく。
〈今のは……何をしたんですか?〉
「ピリピリした感じは取れたけど、耳はまだ響いてるよ~」
シュネーがふらふらと頭を揺らしながら言う。それにケリアさんが少しだけクスッと笑いながらも「ごめんなさいね」と謝ってくれた。
「敵の威嚇でござるよ。ただし、声に魔力が宿っている技なんだな。ある程度の鍛練者なら効力は無いに等しいけれど、ティフォ妃やスノー姫みたいな人達には効果が抜群という」
「それは分かったけど、ケリアさんが叫び返したのは?」
「テクニックというか裏技というか、隠し要素的な感じな返し技っていうのがあるのよ。ああいう感じで『畏縮』っていうデバフを解除するにはね、己の力のみで破る力業、魔導士による状態異常回復。そして、さっき私がやってみせた返し技があるのよ。格闘職を鍛えてると咆哮っていう技を覚えるんだけど、それの効果一覧に「仲間の闘気を上げる」って感じで書いてあって、畏縮の効果をかき消せるのよ」
「へぇ~、初めて知りました。気付け薬を飲んで治すもんだとばかり思ってましたよ」
アズミルはメニューウィンドーを開いてメモ帳に書き込みながら、ケリアさんの話を聞いていた。っていうか、そんな機能まであるんだ。メニューの何処にあるんだろう。
僕はすぐに説明書を取り出して調べてみるが、確かに何処にも書かれていない。
そんな話をしていると、水を激しく叩きつける様な音と石の防壁をガンッと殴り壊す様な鈍い音が段々と聞こえ始めたきた。
防壁の外側ではパラパラと細かい砂や石が飛び、内側の水が少し漏れだしてきている。
「さて、そろそろ時間が無くなって来たみたいだけど、どうするよ」
ティフォとスパイクちゃんが臨戦態勢で、僕を見ながら聞いてきた。
〈どうするって言われてもな~、此処で戦う訳にはいかないし。とにかくボスを引き付けて逃げようか、他のパーティーには残った残党兵の排除と、敵陣の捜索及び破壊工作は変わらずにやってもらおうよ。敵陣の効力はもう無くなってるみたいだしね〉
敵陣が水没したため自陣内で受けられる能力アップの恩恵は、もう無いようだ。
「でもさスノー、逃げる方向って後ろに向かって逃げるんだよね」
〈そりゃあ引き付けながら逃げるんだから〉
シュネーが何か不安そうに僕等の背後を確認する。
「こっち方向に来られると、遠回りにならない?」
敵陣の入り口はジャンシーズの人達が強引に攻め込んだ影響を受けて出来てしまった、だだっ広く開けた通りで、荒れた山道だ。
鬼達のボスは門など関係ないかのように防壁をぶち壊して、飛び出して来た。
他のパーティーの人達は隠れているので見つかる事は無い様子だった。しかし、僕等は開けた場所、しかも門の前に堂々と突っ立っているのだから嫌でも目に付くだろう。
「凄い血走った眼をされているようですね」
全てを諦めた様に言うアズミル。
「完全にキレちゃってるわね、怖いわ~」
相手を挑発するようにクネクネと腰を振り、茶目っ気たっぷりに言うケリアさん。
「逃げる経路は考えていなかったんだな」
「最初は敵陣の中を上手く使おうかなっていう感じだったからな~、外に飛び出すっていうのは計算外だからね。諦めろ」
何故か楽しそうに笑いあっているティフォとガウ。
「ねぇねぇ、すぐに脇道に反れちゃえばいいんじゃない? 森の方が小回り出来るこっちが有利でしょう、アレだけ大きいんだしさ」
鬼のボスはかなり大きくってパット見た感じでも三階建ての建物くらいはあるから、下手すれば踏みつぶされそうだ。
〈あのねシュネー、そんな事をしたら普通は道に迷って帰れなくなっちゃうよ〉
「え? でもマップを持ってるスノーなら出来るんじゃない」
〈……なるほど〉
確かに、現在位置が表示されるマップを見ながら移動出来るこの世界なら、迷うことなく目的地まで誘導が出来るかもしれない。
リアルだとそんな事をすれば遭難確実だから、頭の中になかったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます