【オフ(特別編)】夏だし、夏祭りに行こう
〈花火大会?〉
「そ、今日はお祭りだし出かけようよ」
〈で、でもさ。人の多い所はちょっと〉
「大丈夫、ずっと手を握ってて上げるからさ」
「というより、自分達と一緒に行けば良い」
「そだね、花火を見るなら家が一番だよ」
小鳥ちゃんと双子ちゃん達からの猛プッシュの勢いに負けてしまい、渋々ながら了承してしまった。というよりも、逃げ道を潰されたと言った方が良いかもしれない。
人の多い所は、崎沢家の執事さんとボディーガードさんが居るし。
崎沢家の主催するお祭り(お金持ちの集まり)に御呼ばれされそうになったりした。
この話をしている際に、執事さんやメイドさん達が終始何かに目配せしている気がしたが、気のせいだと思いたい。
「兄ぃ、普段着は絶対にラフな格好で来ないでね」
「なんでだよ」
「樹一妃のラフな格好は美人でスポーツ系お姉さんにしか見えないんだな。ホットパンツに半袖で上着シャツという感じはダメなんだな。その上に今回は翡翠姫が居るんだな。美人姉妹は腹ペコな猛獣達の折にエサを投げ込むようなモノなんだな」
雷刀が物凄い力説しだして、僕と樹一を脅してきた。
ただ周りの面子は雷刀の言葉に周りの誰もが頷いていた。
「ん~、まぁ大丈夫じゃないかな、しっかりガードさん達が守ってくれるよ」
「我が家の人達は優秀?」
桜花ちゃんと葉月ちゃんが執事さんを見ると「お任せを」としかいわなかった。
「それならいっそのこと、兄ぃに浴衣を着せちゃえば……」
「おい小鳥⁉ 何を恐ろしい事を考えてやがる」
「それいいね!」
「やっちゃえば?」
皆がノリノリになってきてしまっている。
「助けろ翡翠!」
〈へへ、ざまぁみろ。よく僕を見捨てる怨みじゃ〉
「裏切るつもりか!」
「それじゃあ、皆でオシャレしようね」
日頃の怨みと思い。内心で「良いぞもっとやれ」と思って聞いていたが、ふと立ち返ると浴衣の話しが出てきた時点で、流れ的に僕も着させられる。
そう思って逃げようとしたが、敵は既に僕の逃げ道を塞ぐように回り込まれてしまった。
「翡翠様も、可愛くしてあげますよ」
「ちゃ~んとオシャレしてらっしゃい。娘の浴衣姿って見て見たかったのよ」
「あぁ、執事さん。写真をよろしくお願いします」
「お任せ下さい」
お父さんとお母さんはもう魔王の手先に落ちていたようだ。
メイドさん達もなんか物凄いテンション上がってるし、全てはもう手遅れだった。
〈樹一、僕らに逃げ道は内容だよ〉
「死なばもろとも……俺は男なんだ」
ドナドナと連れて行かれる僕達を雷刀が楽し気に手を振って見送ってくれる。
〈アイツ、後でシメようぜ〉
「あぁ、絶対に後悔させてやる」
怨みの籠った目で睨むも、ただ笑っているだけで手は決して差し伸べてはくれなかった。
※※※
お昼ご飯くらいから着替えさせられて、もう日が傾いている。
赤い夕焼けがもうすぐ落ちる頃にようやく解放された。
「なぁ、何枚撮られたんだ俺達は」
〈知らない、むしろプロのカメラマンさんが居た気がするのは気のせいかな?〉
雑誌の編集者とか聞こえた気がしたが、もうその時には僕等の意識は何処が別の場所を漂っていたに違いない。
「はは、やめてくれ。考えたくない」
清楚な感じが漂う青白いそよ風が漂う感じの浴衣を着た樹一は、魂の抜けた様な顔をしている。まぁ僕も似たような顔をしているんだろうけどね。
〈少し、歩きにくいね〉
僕の場合は髪の色や顔立ちの事もあって、少し派手目の浴衣でも負けないと言われ、何かすっごく可愛らしい明るい色の浴衣を着せられている。
ちょっとしたアクセント部分にニンフィみたいな雲の様な可愛いキャラもいる。
傍から見れば可愛く着飾ってるなって思うけれど、元男の立場からすると動き辛いことこの上ない、確かにこの状態ならゆっくり歩いてあげないと付いて行けないね。
「人多い?」
落ち着いた色合いにイルカと月の絵が入った浴衣の葉月ちゃん
「楽しそうだよね」
桜柄に線香花火の様な可愛らしい浴衣の桜花ちゃん。
二人とも嬉しそうにはしゃいでいる。
段々と暗くなり始めたからか、屋台の提灯がチラホラと点灯し始めていた。
〈こんな場所があるんだね。道幅も広いし歩きやすいから助かったよ〉
「かなり大きいよな、自然公園が丸々と祭り場所になってるっぽいし。迷子になんなよ」
〈それは樹一も一緒〉
「ほらほら、それよりも楽しむでござるよ。ちなみに屋台をやっている皆さんはこの自然公園の近くにある商店街の人達なんだな」
なんでそんな事を知っているのか、少し気になるが確かにウダウダと立ち止まっているよりも、色んなモノを見て楽しんだ方が良い。
かき氷や、射的など、皆で一つ一つを覗きながら屋台を楽しんでいく。
〈樹一、射的は止めときなよ〉
「ん~、何で?」
「兄ぃ、今の恰好で乗り出して撃ちたいの?」
僕と小鳥ちゃんに言われて、樹一が固まった。
「別に拙者は止めないんだな」
雷刀だけは携帯電話を片手にして、何やらカメラを起動している。
「はは、別に変な目で見たりしねぇよ。嬢ちゃん達もやってみたらどうだい」
感じの良いお兄さんが僕にライフルを渡してくれる。
〈良いの?〉
「あぁ、子供は一回タダだぜ」
確かに外見は小さいが……いや、別にお店のお兄さんは悪くない。
そう思いつつ、袖を撒くってライフルを構えようとしたが、身長が小さいために手前の机が僕の邪魔になってしまっている。
「ソレを使いな。台座が置いてあんだろう」
よし良いだろう、その喧嘩を買ってやる。
「お、おい翡翠?」
ズリズリと台座を中央に置いて狙いをつける。
商品として良さげな中くらいの人形の眉間を狙い、一つ一つ落としていく。
十発ある弾で、落としやすいように数発は動かして重心が落ちやすくなったら落とす。
小鳥ちゃん、葉月ちゃん、桜花ちゃんと三人分くらい取れれば満足だ。
〈樹一、協力して〉
「あ、あぁ」
「うそだろ」
樹一が買った弾で最後に協力して大物を頂戴してやる。
〈……ありがとう、お兄さん〉
「な、なに。楽しんでくれたならよかったぜ」
ヒクついた顔を見て僕はもう満足だ。
「えげつねぇな」
「可哀そうなんだな」
〈なにか言った〉
僕がニッコリと微笑んで二人を見ると、勢いよく首を横に振っている。
この大きなのは琥珀にでも上げようと思う。
「ありがとう翡翠ちゃん」
「大事にするね~」
「……可愛い」
三人とも喜んでくれたようだ。
それから、おみくじみたいな紐を引いて景品を貰うヤツでは樹一がやらかした。
「嬢ちゃん、付いてるな。まさか一発で大物を引き当てるなんて」
「どうもです」
景品が当たってベルを鳴らされ、人目が樹一に集まったために恥ずかしがりながらも、景品を受け取っていた。
その上目遣いな感じが駄目だっていうのに、本人は全く気付いていない。
型抜きの屋台では雷刀が本領を発揮して、綺麗に皆の分をもぎ取った。
「拙者に掛かればこんなもんなんだな」
昔っから細かい作業は得意なんだよね。
小鳥ちゃんはというと、終始自前のカメラを手に持って色んなモノを撮っていた。
そんな感じでたこ焼きやお好み焼き、焼きそばなんかの屋台を回って食べ物を色々と買い込んでから、海の近くにある双子ちゃん達の別荘へと招待された。
「こっからなら花火が綺麗に見えるよ」
「絶景スポット?」
二人がそろってピースサインで可愛らしく自慢してくる。
「ここならゆっくり見れるね」
「そうだな、変な視線を浴びる事も無い」
〈落ち着くね~〉
皆で広い庭に用意されたウッドテーブルを囲って座り花火を鑑賞した。
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