【オンライン】118話:イベント騒ぎは大騒ぎ(一日目後半)




 凄いんだな、今のゲーム。

 ちゃんとプレイヤーの心情を表現してくれるんだから。

 休憩タイムが終わってすぐにダイブインした。

 しかし何故か知らないが、かなり遅れて樹一……ティフォがやって来た。

 物凄く青い顔をしながら、僕を人形の様に抱きしめてきた。


「や、ヤツが来るんだ。かくまってくれ」

「……どったのさティフォっち?」

〈分からない〉


 小刻みに震えているのも伝わってくる。

 それなりにプレイして時間が経っているのに、まだまだ知らない事ばかりだな。

 意識してみないと気付かなかった。

 リアルじゃなくゲームの世界だもんね。


「お前は俺を助けてくれる気があるのかね?」

〈理由も分からずに、小声でブツブツと言ってるだけで分かるか馬鹿者〉

「自分達はエスパーじゃありませんよ~」


 むっすりしている顔がもはや女性のようだとは言ってやるまい。


「どう? ちゃんと休んでこれたかしら?」


 ホームの扉を開けて、最初に入って来たのはケリアさんだった。


「ばっちりだよケリアん」

〈ちょっとイベントの事が頭から離れなかったです〉


「ふふ、分かるわ~、ワタシもよ~。もう気になって気になってすぐに始めちゃいたかったのよね。デメリットなんて構わず」


〈ケリアさんでも衰弱のデバフは嫌ですか?〉


「嫌ね~、全能力値が半減だし。防御力とスピードは最低値の1にされるのよ。戦いにすらならないし、ゲームやりながらずっと病気の様な怠く重い体なんて絶対に嫌ね」


「それは確かに嫌だね」

〈衰弱ってそんな感じになるんですか〉

「えぇ、死に戻りした時のデメリットだと五分くらいかしらね、そんな状態が続くのよ」


 説明書だけ読んだ字の文じゃあ、そこまでは想像していなかったな。

 最後に少し遅れてガウがインしてきた。

 その姿は休んだにしては、両肩を落としてティフォと同じく顔色を悪くしている。


「ティフォ妃、妹殿からメールが……アレが来るってマジなんだな?」


 ちょっとゾンビっぽくオレ達の方に来たので、体がビクッと震えてしまった。


「あぁ、マジだ……スクショもバッチリ俺だった」


 休憩時に電話を渡されてたヤツかな。


「あらなぁ~に、新しいお友達が来るの?」


 オレ達よりも内容が良く解っていないケリアさんが興味津々に聞く。


「アレは友達ではないんだな」

「アレを友達と言わないでくれ」


 ティフォは鬼気迫る様子で、ガウは悪魔にでも迫られている様子だ。

 小鳥ちゃんの携帯電話に掛かってきたんだから、年下である可能性が高い。

 それでもって樹一と知り合い、しかも怖がる様な子って居たかな。

 オレの記憶には全く当て嵌まる人物が居ないのだが、誰なんだろう。


 ガウもとい雷刀も知っている感じだし、小鳥ちゃんから連絡がいってるならよっぽどだ。なんで自分には想像が出来ないのだろうか不思議だ。


 二人の気迫に驚いていたケリアさんが、オレの方を見てくる。


〈オレにも良く解らないんですよ〉

「ボクも知らな~い」

「そうなの? てっきり知ってるものだと思ったんだけど」


 オレ達三人で首を傾げながら二人を見守るしかなかった。


「あ、そうそう。休憩中にねダイレクトメールが来たのよ、お仲間が増えるわよ」


 ケリアさんの言葉にガウとティフォがピクリと反応する。


「それは、もしかしてテイマー職の人でござるか?」

「あらガウちゃんの方にも来てたの?」

「外堀はもう既に埋められているのかよ」


 もう二人とも絶望に打ちひしがれている。

 更に追い込む様に、二人にとっては恐怖のコンコン――という音がドアから鳴った。


「どうも~、私はアズミルというものです。ティフォナスお姉様に会いに来ました」


 ハキハキと喋る明るい感じで、女の子の声が聞こえる。

 一瞬にしてガウとティフォが凍り付いたのが分かった。

 ちょっとだけオレとシュネー、ケリアさんの三人で顔を合わせた。

 とにかく出迎えようと思い、三人ともドアの方へ行こうとする。

 ガウがシュネーとケリアさんを掴んで止め、オレはティフォにホールドされた。


「悪魔に近付いちゃいけないんだ。こ、ここは居留守を使おう」


「合ってくれるって約束したじゃないですか、ねぇお姉様……あんまり困らせてると、例の物をクラスの人達に売っちゃいますよ。あ、安心してくださいちゃんと焼きまわししてあげます。あの可愛らしい先輩が皆を虜にする姿が目に浮かびます。……十秒待ちますよ?」


 この喋り方は、まさか小鳥ちゃんと長年一緒のクラスだった委員長さん。

 いま、絶対に顔を赤くだらしない顔をしているに違いない。


「す、すまん。ちょっと皆に確認を取ってたんだ、いま開けるから待ってくれ」


 オレを下ろして、ドアまで駆け寄っていく。

 ガチャガチャと慌てているせいで、上手く扉が開かない様だ。


「――ろ~く、ごっ……に~い」


 カウントが半分切った瞬間に残り二秒まで飛ばしやがった。


「よう、良く来たな」


 ガウはというと、カシャカシャとゆっくりケリアさんの後ろに隠れようとしている。


「フフッ、先輩達、お久しぶりで~す」



 肩にモモンガみたいなモンスター居たが、なんか申し訳なさそうにお辞儀をしている。

 柔らかな感じのふんわりウェーブの掛かった茶髪のセミロング。小柄で少し大きめな胸にへそ出しルックのホットパンツと登山ブーツみたいな動きやすそうな服装だ。



 目元パッチリで小顔の可愛らしい、小悪魔な女の子がそこに立っていた。



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