閑話:グランスコート
★☆★☆【閑話:グランスコート】★☆★☆
「丈夫な木を並べて外的から身を守るという訳か? ……何やら魔法陣が彫られているが」
ニンフィを抱きしめながら、ぶらっと集落を見て回っているエーコーが集落を囲う様に建てられた塀に沿って歩いて行く。
その後ろをイーゴさんが歩いている。
「簡単なモノではありますがね、頑丈さと燃えにくい様に少しばかり弄ってますよ」
「それなら土属性の陣で良いのではないか?」
「それでは強度しか補強出来ないのでね、この塀にした木を水の陣で生かし、育てていこうかと思いましてね。水を巡らせて根が張ればまた強固な壁が出来ます。デンドロ達も協力してくれているので、その辺は抜かり在りませんよ」
「なるほどのぅ。流石はデンドロ達に好かれるだけはあるな」
雨風に晒されても腐らない様に切断面にも何やら細工がしてある。
その様な知恵は人間達ならではのモノだとエーコーは感心したように頷いて、また歩き出してゆっくりと辺りを見回す。
「おや、エーコー様。おはようございます」
「朝の散歩ですかな? おはようございます」
ダイチとハーナの二人がウサギやハチ達と畑仕事に勤しんでいた。
「この辺りは森とはまた違った風が吹くからな、色々と新鮮な感覚だ」
ニンフィを撫でながら、上機嫌なエーコーの足元に数匹のウサギとハチが集まってきた。
「む? どうしたのだ?」
ウサギ達はニンジンを器用に抱えて差し出してくる。
ハチ達は花と蜂蜜の入った木のコップを差し出している。
「エーコー様に、だそうですよ」
ニコニコしながら優しい声音でハーナがエーコーを促す様にしてモンスター達の前へと誘導し、それに戸惑いながらも思わず足を踏み出してしまう。
「う、うむ……しかし、良いのか?」
「その野菜や花はね、彼等が自分自身の手で初めから育てたモノなんですよ」
ダイチもハーナも孫でも見る様な目でウサギやハチ達と接しながら説明をする。
「こ奴等が? それは嘘じゃないの?」
エーコーがそう言った途端、モンスター達があからさまに落ち込んだ様子を見せる。
「あ~あ、しょげちゃったよ。ほれ元気を出さんか、ワシらがちゃんと知っておる」
「信じられないとは思いますがね、本当なんですよ」
「「「ぷ~っ!」」」
子供をあやす様にモンスター達全員を分け隔てなくモフりつつも撫でながら、数秒後に意味深にジッとエーコーの方を見つめる。
それに便乗するようにモンスター達も同じような目をしてジッと見つめる。
「わ、分かったっ! だから、その目を止めよ」
差し出されたニンジンや蜂蜜を半ば引っ手繰る様にして、自分の胸元に寄せ集める。
「食べてみさい、美味しいく出来てるはずじゃ」
「うっ! た、食べるって生でか⁉ (ニンジンは好きではないのだが)」
「まぁまぁ、騙されたと思ってお召し上がりくださいな」
二人に勧められ躊躇していると、モンスター達にも感想を聞かせて欲しいと訴えるような瞳の輝きを向けられてしまっては断ろうにも断れない。
泉で洗ったようで、綺麗に洗われている身は丸々としていて色合いも綺麗だ。
最初はニンジンを食べてしまえば、後に残る好物の蜂蜜で口直しをすれば良いかと、少しヤケになりつつも両目を瞑ってニンジンにかぶりついた。
「んぐっ……ぬ? 少し、甘味があるのう。それに臭みもない」
自分が食べた部分マジマジと見ながら、まだ口の中に残るニンジンをしっかりと味わいながら、もう一度ニンジンにかぶりついた。
「……まぁ、悪くない」
そして好物の蜂蜜を少しだけ舐める。
しばらく何も言わずに、しっかりと味を楽しんだ後にモンスター達の方に寄っていく。
「良いモノを作ったな。凄いじゃないか」
優しく全員を撫で終えると、鼻歌交じりのステップを踏みながら自室を目指す。
「凄いですね」
イーゴがダイチを見ながら呟く」
「何がじゃ?」
「またまた、この集落の売り込みって感じでしょう」
「気のせいだろ。あ奴等がどうしても自分の作ったモノを食べさせたいと言っとった、ただそれだけ」
軽く手を振り笑いながらその場を去っていってしまった。
ハーナも軽くお辞儀をして、ダイチの後に続いて歩く。
「食えん人だよなぁ~、あの爺さんも、その連れの女の人も」
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