【オン53】役割、開拓、初めの準備
門を抜けて街中を歩いている時もそうだったが、グランスコートの大地に立った時に、更に胸元がもぞもぞと動いていて、妙にこそばゆい。
『ゴーレムさん……もしかして、ウキウキしてます?』
タリスマンを手に取って話しかける。
「ウム、ワレラ、ソダッタ、バショ、ゼンゼン、チガウ」
今もなを、タリスマンの矢印が右に行ったり左に行ったり。終いには、タリスマン自体が起き上がってクルクルと回っている。
「なんでそんなことまで分かんだよ?」
スパイクを頭に載せたティフォが振り返って聞く。
「さっきからタリスマンがね~、周りを見る様にキョロキロ動いてるからだよ」
シュネーが笑いを堪えながら、オレの肩に乗ったままで答える。
「ハジメテ、ミル、ケシキ。コウフン、シナイ、の、オカシイ」
手の上で、タリスマンが仰け反ってみせる。
「ふふ、ゴーレムちゃんが気に入ってくれてるなら良いじゃない」
ケリアさんはオレとゴーレムの様子を見ていたようだ。肩が少し揺れている。
「ゴーレム殿に名前を決めておいた方が良いのではござらぬか? 仮とは言えど、契約個体なんだな。他のゴーレム殿との区別が出来るようしといた方が良いんだな」
他の皆とは違いガウだけが少し真面目な顔で、提案してきた。
確かに他のゴーレムとの区別は必要だ。けど、名前か~、何が良いかな。
開拓? 先駆者的な……あぁ、なら。
『ん~、パニア……かな?』
「パニアね~。もしかしてパイオニアから取って付けた?」
すぐにシュネーが気付いたようで、正解を引き当てる。
「そうね、開拓者、先駆者というわけね。名前もかわゆいし、私も良いと思わよ」
「……センクシャ……ワルク、は、ナイナ。ソウ、ヨバレテ、ヤロウ」
先駆者って言葉の響きが気に入ったのか、妙に反応が良かった。
手の上でタリスマンがちょこちょこ動いて、威張っている。
「そう呼んで欲しそうな感じなんだな」
「感情を隠せないんだろう、そっとしといてやれよ。見ていてめっちゃ和むから」
「言葉は、ちょっとツンツンしてるのにね~」
『ツンデレだね』
「……ンンッ! ウルサイ、ヤツラダな!」
全員でちょっとからかったもんだから、拗ねた様にタリスマンがオレ達にウラを向ける。
「拗ねちゃった。ごめんね、パニア~」
シュネーがすぐに近寄って、タリスマンをツンツンと突きながら謝る。
「フンっ! コマッタ、ヤツラダ」
あぁ、やっぱり名前は呼ばれたかったんだね。
オレ達にも呼ばせたいのか、チラチラとこっちを伺う様にタリスマンが回転する。
『今日中に終わるとは思わなかったど、帰ってきたね』
「まだまだ初級のチュートリアルクエストって感じだからな。その割には難しいとモノが多い気がするが、大体の初級クエストは一日も掛からないでクリアできるだろう」
「そうでござるな、下手したら秒で終わってしまうクエストもあるんだな」
「秒で終わるって、どうやって~?」
「既にクエスト内用のアイテムを所持していた場合でござるよ。例えば、薬草を十叢ほどの数を取ってきて欲しいってクエストで、既に持っている分を渡せばクリアでござるからな」
ガウが説明してくれている間に、ちょっと回覧板のクエスト一覧を見ていた。
『あれ? それじゃあ医者って書かれて人のクエストは、すぐに終わるかも』
というか、あの集落にもちゃんとお医者さんが居たんだね。
「あの集落に診療所なんてあったのかしら? それっぽい建物って見た覚えないんだけど」
「俺もないな。回覧板に乗ってたのか?」
『うん、離れた場所にあるみたいだよ。蜂蜜と薬草が欲しいって書いてあった』
「まぁまぁ、先ずはイーゴさんの依頼を終わらせる事が先でござるよ」
確かにガウの言う通りだね。しっかりとクエストを完了してから次を考えよう。
「きっと首をなが~くして待ってるもんね」
「あぁ~絶対にハイテンションで絡んでくるぞ」
イーゴさんの家を出た時のテンションのまま、更に上があるのかな。
「仕方ないわ、長年の研究成果が一歩前進するんだもの。気分が上がらないでいる方が無理ってものじゃないかしら」
そんなことを言っているケリアさんを見て、イーゴさん宅に行く前の事を思い出した。
『ケリアさんも、卓上織り機をボウガさんに貰ってテンションが上がってたもんね』
「もう、スノーちゃんってば意地悪ね~」
恥ずかしそうにくねくねしながら、顔を両手で隠している。
「イーゴさ~ん、居ますか~」
「家には……居ないみたいね」
「というか、防風林の木々も無いぞ?」
本当だ、ここを出る前は家を囲うように木々があった。
あれが全部、モンスターだったんだ。
『ほぇ? なんか凄い勢いでこっちに来るマーカーがあるよ』
イーゴさんを探そうとマップを広げると、異様なモノがすぐに目に入った。
「ほんとだね~、えっとあ……ちの、ほう⁉」
シュネーも一緒に覗いていて、マーカーの方を示すと何やら変な煙が見えた。
「な、なんでござるかっ! あの砂塵は⁉」
『あ、アイコンに名前が……あぁ、イーゴさんだね』
ある程度の距離だったら名前も表示されるようだ。
「人の速さじゃねぇな、んぉ⁉ おいスパイク引っ張るなよ」
「よっと、スノーちゃんとシュネーちゃんはこっちにいらっしゃい」
ケリアさんに軽々と持ち上げられて、イーゴさんの家の方へと逃げ込む。
「ぬぉ! あれ⁉ いつの間に皆そんな離れてっ⁉ はっ!」
唯一人、砂塵を眺めていたガウだけが反応が遅れていた。
「こんなに早くのご機関とは! どうした! トラブルか⁉ それとも成功したのか~い、さぁ、何があったのか詳しく教えてくれ」
デンドロの太い枝に乗って、木の根が車輪の様に回転している。
「と、止まるでござるイーゴ殿⁉ かいひぃいぃいぃ~~⁉」
鈍い音と共に、凄い勢いでサッカーボールの様に飛んでいった。
「人って、あぁやって飛ぶんだな」
『いやいや、物理的に……あぁ、デンドロさん達に飛ばされたのか』
蹴とばされたと言った方が正しいのだろうか? でも勢い的には轢かれただよね。
「ヤツ、の、アシに、ナニカ、マキツイて、イタ、ゾ」
「アレじゃない、訪問した時に全部回避されたから、今度は絶対に当てる的な感じ」
以外にもプライドの高い種族なのかな。それとも、ただの負けず嫌いかな。
「悔しかったのかしら?」
「そうじゃないか? すっごい木々が嬉しそうに動いてるし」
「ぬ? なにか轢いたかね?」
イーゴさんただ一人が気付いていない。
「気にしないでください、彼は空を飛びたかったようですから」
『それよりも、仮ですが、協力をして貰えそうです』
タリスマンを外して、イーゴさんに見せる。
「ほう……ほうほう! ふむフムッ⁉」
「オイ、コイツ、ダイジョウブ、か?」
覗き込まれたパニアが不安そうに、オレの方を見る。
「ほうほうホフ⁉」
その一動作だけでも、イーゴさんの鼻息が荒くなった。
『お、落ち着いてください』
「…………す、すまない」
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