【オン51】役割、開拓、初めの準備




「なんか、こうやって尾行してるのってシュールだよね」


 周りのアクティブモンスターを避けて移動しているせいで、ゴーレムから離れたり近づいたりを、コソコソと行ってる集団がいるのだ。


「確かに、傍から見たら変な集団だからな」


 客観的に見たら、確かに恥ずかしい行動をしている気がする。


「ふふ、そうね。ゴーレムの後ろをコソコソ付いて行ってる感じは、親鳥を追う雛みたいに見えなくもないわね」


 ケリアさんやガウは、まだマシだけど。


『オレ達じゃ、此処のフィールドで好き勝手に移動が出来ないから仕方ないでしょう』


 シュネーとティフォにオレは、本当に戦闘面は役に立たない。


「堂々と歩こうもんならドラコス系のモンスターに絡まれて悲惨な事になるからな。武器だってろくなの無いし、初っ端からレベル上げもせずにこうやって非戦闘クエストをやってるのなんて、きっと俺達だけだろうぜ」


 皆はすぐに外に出て戦ったりするのだろうか? もうちょっと街とか見回ってる人も中には居そうだけどね。案外、レベル上げをしてない人だって居るかもしれない。


「鬼っていうかさ、ちょっとぬいぐるみっぽいよね。鬼って防具を着こむモノなの?」


 最初のフィールドに居る、アクティブ系モンスターの代表だそうだ。


「モフモフなフル装備でござるからな~、それに倒したら粒子になって消えてドロップアイテムくらいしか残らないから、あの防具の中身って未だに誰も知らないんだな」


「可愛らしいセンスよね。中身がほんとに気になるわ~」


 確かに中身は気になるけど。


『なんで、ゴーレムじゃなくて小鬼の観察してるのさ』


 きちんと標的の行動を見ていて欲しいな。


「いや~、分かってはいるんだがな。こうも、契約に関するヒントが無いと厳しいだろ」


「もうゴーレムの尾行を開始してからゲーム内時間で半日は経つかしらね。ただずっと歩き回ってるだけで、何かをしてるって雰囲気も無いし……ほんと、どうしましょうね」


「せめてイーゴさんがもう少しだけ、まともなヒントをくれてればね」


「イーゴ氏から貰ったのは、そのタリスマン一つでごさるからな~」


 まぁ、皆の言いたい事は良く解るけどね。本当にどうすれば良いんだかね。


『ただ本体を指し示すだけの、コンパス的な役割しかないもんね』


 それ以外の使い道は無い。説明文にも場所を示すしか書かれていないし。


「ねぇねぇケリアん、そういえばゴーレムのコアってどの辺にあるの?」


「体の中央分かしらね、胸元の分厚い場所に埋まってるわよ」


 だからゴーレムの胸部分がやけに大きくなっているのか。


『もういっそのこと、ゴーレムに話しかけてみる?』


 このまま尾行していても、変わらないならこっちからアクションを変えていくしかない。


「まぁ、ノンアクティブモンスターだしな。皆で近づいてみ――」


 ティフォの周りが急に暗くなる。


「まっ⁉ 待でござる。ゴーレム達が一斉にこっちを向いたんだな」


 ガウは周りを見回して、いつの間にか変化した状況を確認する。


「ティフォナスちゃん、う、動いちゃダメよ。ゆっくり、こっちにいらっしゃい」


 さっきまでオレ達の前に居たはずのゴーレムが、急にティフォの後ろに出現したのだ。


「イッタイ、ナンノ、ヨウ、ダ。イチニチジュウ、ズット、ツキマトウ、イミ、が、ワカラナイ……コウゲキ、も、シテ、コナイ。リユウ、ヲ、イエ」


『ゴーレムって喋れるんですね』


 何処から声をだしてるのか、物凄く気になる。


「……私は、知らなかったわ」


「オイラもなんだな」


 驚いたのはオレだけではなかったらしい、捻りだすように二人が答えてくれた。


「ヒツヨウ、に、ナッタカラ、カイワ、シテル」


 こっちの言動や言葉を理解してるのは、想像通りといえば、通りなんだけど。喋るとは恐れ入ったね、全然、想像していなかったよ。


「なぁおいコレって、どう説明すりゃあ良いんだよ? 引き抜きに来たとでも言えと?」


 ティフォがゆっくりとスパイクと共にゴーレムから、離れた。


「ヒキヌキ? イミ、が、ワカラナイ? ワカル、セツメイ、ヲ、モトム」


『此処から少し離れた場所を、開拓、しようとしてるの。開拓は、理解出来る?』


 人が使う言葉は、ある程度の理解しか出来ないって事かな。


「カイタク……シゼン、ヲ、ハカイ、スルキカ!」


 お~、間違ってないけど、そういう捉え方が出来るのは、経験則かな? 前にいた住処を追い出されて、此処をうろついている可能性もあるのかな。


「ちょっ! スノーっ⁉ か、囲まれちゃったよ⁉」


 多分、最初から囲まれてたと思うよ。一斉に動き出した時点でね。


『武器は出さないでっ! ティフォはスパイクを抱いててよ! 下手に攻撃しないように』


 とにかく、混乱して下手に刺激するのは悪手だ。


「わ、分かった」

「考えが、あるでござるな」

「スノーちゃん、任せたわよ」


 良かった、皆がすぐに我慢できる人で。それで、シュネーさんや、オレを盾にする様に隠れるのは止めてくれないかね。オレだって怖いんだからさ。


「…………ナゼ、ナニモ、シナイ?」


 やっぱり、相手からすぐに攻撃してこないな。


『話が出来るなら、言葉を交わさないとですよ。貴方が、戦闘を嫌うようにね』


 正直、ただの賭けと、ハッタリだ。

 分かってる訳じゃ無い。


「…………ワレ、マモノ、タタカウ、コワクナイ」


 ヒントはイーゴさんから色々と出てた、なら多分、正解だろう。


『ん? 戦闘を嫌うと言ったんですよ。別に臆病者と言った覚えはありません』


「……マスマス、ワカラナイ。カイタク、スルノダロウ?」


 オレの言葉に、攻撃姿勢だったゴーレムが警戒を解く。


『えぇ、ただ、一方的に住処を奪うのではなく、共に共存しようと言う意味での、開拓です』


 緊迫していた状況からは脱したかな。


「キョウゾン? ワレワレ、トカ?」


 またまだ、気を付けて、言葉をきちんと選んで、教えて行かないと誤解を生む。


『貴方達には、道づくりや整備のお手伝いをして欲しいんです。その代わりに、貴方達がしたい事や、住みやすい場所をオレ達が創り、一緒に住んでいきませんか?』


「ソレ、が、キョウゾン、カ……スミカ、の、テイキョウ、ト、シタイ、コト、か」


『オレの言葉が信じられないなら……契約してみますか? 裏切ったら、どんな呪いを掛けて貰っても構いませんよ』


 何もない契約なんて出来ないだろうし。いま出せるのは、この身だけだ。


「スノーちゃんっ⁉」


「また勝手に決めて話しを進めやがって」


 止めに入ろうとするティフォとケリアさんを、ゴーレム達が阻んだ。


『裏切る気なんて更々ないんだから、別に良いでしょう?』


「そういうことじゃ、ないと思うんだな」


「はぁ、スノーの暴走癖を制御する仲間を、早めに集めないとな~」


「シュネー、ほんと、早めに頼むな」


 なんか凄い事を言っている気がするが、今は目の前の事に集中しないとな。


「フム、カリ、の、ケイヤク、ダナ。スミカ、と、ワレラ、ノ、ネガイ、カナエた、トキ、アナタ、ヲ、ワレラ、の、アルジ、ミトメル」


 ちょいちょい気になるワードを言ってた気がしたけど、コレでゴーレムを仲間に出来た。


『やったね、それで、どうやって契約すれば良いの?』


「ワレら、の、チカラが…………ン? ソノ、ホウセキ、デイイ」


 以外にも、このタリスマンで良いのか。


「わわっ⁉ 崩れちゃったよ⁉」


 ゴーレムにとって周りの岩は鎧みたいなモノなのだろう。


「この、ホウガ、イイダロウ。その、ヨリシロ、カリウケル」


「タリスマンの中に、入ってちゃったわね」


『少し、タリスマンが重くなった?』


「お、おい、スノーの体が光ってるぞ」


『大丈夫、特に何ともないよ』





【クエスト】《仮契約・ゴーレムのコアとの約束》が自動発生しました。

 ※クエスト失敗時、ペナルティーとしてデバフ効果のある呪いを受けます。





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