【オンライン】43:役割、開拓、初めての準備





『え~っと、ここ……かな。屋敷林って言うんだっけ?』


 屋敷の周囲に設置された林が、オレ達に気付いた様にサワサワ揺れだした。

 風なんて吹いていないのに、意思を持ったように動いている。


「ねぇケリアん、アレってモンスター?」

「ちょっと分からないわ。見たことがないから……でも、モンスターっぽいわね」

「やっぱり、樹木系統のモンスターでござるかね?」

「どうだろうな、っておいっ! スノー危ないぞ」


 住民好感度のメニュー欄を見て、木々に近づき右に行ったり左に行ったりする。

 するとオレを追ってか、枝葉が自分を追うように揺れては戻る。

 シュネーも一緒に近付いていて、木々を指先で突いて回る。

 突いた木はなんかくすぐったそうにして、小刻みに揺れたりしている。


『モンスターみたい。友好度も出てるしモンスターのマーカーも出てる』


 友好度のところには、《間接的に警戒対象》と書かれている。

 警戒対象は多分だが、ガブとティフォだろう。

 冒険者に対しての警戒度が高いんだと思う。


『ケリアさん、ちょっと近付いてもらって良いですか?』

「えぇ、良いわよ」


 モデル歩きで木々の前に立つ。

 覗き込まれる様に枝葉が伸びているだけで特になにも起きない。


「スノー? 何が見えてるのさ?」

 シュネーが早く知りたいとばかりに、オレのメニュー欄を懐から覗き込む。

『多分だけど、ティフォとガブが近付くと……危ないかも?』

 確証は持てないから、どうしても疑問詞になってしまう。

「はっはっは、何を言ってるでござるか、まだ何もしていないんだなスノー姫よ」

 まったく警戒せずにガブが大股で屋敷に近付く。


「あ、おい、やめといたほうが良いぞ」

「弱腰でえぇっ⁉」


 地面から尖った根っこがガブの足元から飛び出して行く手を阻み、枝葉から銃弾の様に鋭い枝と、刃物の様なギザギザの葉っぱが彼を襲った。


「はぁ、スノーは幸十の弟子みたいな奴だと思った方が良いぞ。助言してくれる分だけスノーの方が優しいと思うけど」


 おい樹一、最後の一言は余計だろう。


「そういうことは、早くに言って欲しいんだな」


 どういう事かと聞きたけど……それを言ってしまうと、せっかく誤魔化してくれている樹一にも悪いから、笑顔だけを向けてティフォを見やる。


 ハッとした様子で、すぐさまオレから顔を背けやがった。

 ガブに気付かれないよに注意しつつ、舌打ちしてティフォを睨む。


「あら、スノーちゃんてばダメよ。可愛い顔が台無しになっちゃう」


 ケリアさんが小声で諫めてくれる。


『む~、すいません』


「ふふ、好きな人なのか知らないけど、そんな顔をしちゃあ台無しよ。レディーは常に可愛く美しくってね。そっちの方が効果があるからやってみなさいな」


 そんな乙女のテクニックの教え要らないです。とは、流石に言えない。


『分かりました、今度、やってみます』


 絶対にやらないと思うけどね。


 そんなオレの思考を読んでか知らないが、シュネーがニヨニヨ気持ち悪い笑みを浮かべてオレの耳元までやってくる。


「大丈夫、鏡の前で女の子らしく変じゃないかって何度も確認していた事と、きっと変わらないからさ。それにボクは誰にも言わないよ」


 ほぼ反射的にシュネーの頭を鷲掴みにして、黙らせた。

『今すぐ、記憶から消去しようか?』

 個人チャットでシュネーへ向けて速攻で送る。

「え~、ぼうぼえかへったら(可愛かったから)や~」


 オレ達の様子を屋敷の玄関から覗き見ている人物に、ようやく全員が気付いた。


「随分、賑やかですね」


 若干の隙間から、外の光が眼鏡に反射して顔は良く解らなかった。




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