【オンライン】36:喧嘩のコツ、ファーマ―の存在。
「手伝ってもらっちゃって悪いわね」
「いやなに、自分もこの辺の木材はクエストで必要でしてな。レディ達の手伝いとあれば、男として手伝わない訳にはいかないんだな」
ガブは切り倒した原木をアイテム化せず、丸太のままで馬車まで運んでいる。
「面倒じゃないの? 一々さ丸太のままで運ぶのは」
ガブの往復を何度か見て聞かずにはいられなかったシュネーが尋ねる。
「確かに非効率ではあるんだな、だけどこういう行動から基礎値の底上げやら、強化が出来るのが醍醐味でもあるんだぞ、これが。インベントリに入れてしまうと鍛練値、基礎能力ポイントが上がらないんだ、戦闘における体力、筋力、脚力とこの丸太運びだけで上げる事ができるんだな」
キラキラした笑顔で語りながら、颯爽と往復している姿は何ともシュールだ。
「現実なら、アレだけやってたら痩せるのにな……」
ティフォが物凄く残念そうな目でガブを見て言う。
「ふ、現実でこんな無駄な事に費やす時間は無いんだな」
斜め四十五度、丸太を担ぎながら時間的に影がカッコよく、ガブをカッコ良く飾っているのだが、言っている事が凄くカッコ悪い。
『ねぇ、こんだけ切っちゃって大丈夫なの?』
リアルに作られているなら、木を伐採し過ぎるのは危険なのではないだろうか。
「あら大丈夫よ? 二、三日くらいで新しく気が生えてくるから」
「拙者は見た事は無いが、トレントが木を生やしまくっていると」
「だから中心都市のお国様から定期的に伐採依頼が出回るのよね~、トレント族は私も見たことないのよね、やっぱり木に化けてるのかしら?」
ケリアもガブも周りの木を軽く叩いてみるが、何の反応もない。
「定期的にここには来ることになるんだから、いつかは会えるんじゃないか?」
ティフォが伸びをして、最後の木を伐り終えた。
いつの間にか名前が表示されているハリネズミこと【スパイク】…………。
可愛らしく一生懸命に飛び散った小枝を加えて、ガブと共に馬車まで運んでいる。
そんな姿に癒されながら見ているっと、チラッと横目でティフォを見やる。
「な、なんだよ」
〈もっと可愛い名前が良い〉
「ネーミングセンスは0点だね」
オレもシュネーと一緒にジト目をティフォに向ける。
「カッコイイだろうが」
〈スパイクは無いよ〉
「無いね、可愛くないもん」
「可愛くなくて良いんだよ、カッコ良くしたいの、俺は」
〈だって雌だよ? 可愛そう〉
「女の子にスパイクってつける? 付けないでしょう」
「え? アレって雌なの?」
オレとシュネーの言葉にティフォの動きが止まった。
〈ちゃんとステータスを見てみなよ、種族の下の方に性別が書いてあるから〉
さすが、物を買った時に説明書を読まないタイプだな。
慌てて確認するティフォの手がプルプルと震えている。
「本当に書いてある」
大きくため息を吐いて、あきれ顔でオレとシュネーは同時にティフォを責める。
〈普通、性別って確認するよね〉
「名前を付けるのに性別は確認するでしょう」
何かが胸にでも刺さったようなアクションをして、ゆっくりと両膝をついて地面に突っ伏していく。スローモーションを見ている様でちょっと面白い。
「ちなみに、一度名前を付けると変更は不可能なんだな。この世界のどっかに居ると噂がある獣使いの【育てファーム】って人とフレンドにならない限り」
「NPCともフレンドになれるのよ。よっぽど仲良くならないと貰えないのよね」
「ち、ちなみに町人と仲良くなれるのに、どれくらい?」
震えた微かな声で、ケリアとガブにティフォがすがる様に尋ねた。
「唯の町人、通行人みたいな人ならクエストのBランクくらいかしら?」
「そうですな。重役やストーリーなどに絡むキャラ、何かしらのキーキャラクターならSランクのクエスト内用のモノと相違はないと思うな」
あぁ、更にティフォが地面に沈み込んでいくよに落ち込んでいく。
それを可愛らしくスパイクが慰めている。
頬をペロペロ舐めたり、前足で頭をポフポフしたりしている。
……可愛い、羨ましい、良いなぁ~すっごく良いなぁ~。
ここで近づいてしまうと、何故か威嚇されるんだよな。
「何故、スノー嬢とシュネー嬢は甘いモノでも我慢する娘子みたいに、ティフォナス氏を怨みそうな目で見ているんだな?」
「はぁ、帰りながら話すわよ。ほら、帰るわよ貴方達」
楽しそうに苦笑いを浮かべながら、ケリアさんが誘導してくれた。
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