【暴走20.5】安らぎのお風呂を求めて《後編》




「お、おい? お前の部屋はあっち」


 すぐに携帯を取り出して文字を打つ。


 さすがに暗い部屋で文字を書いても見にくいだろう。……しかし、うちにくい。


 なんで小鳥ちゃんはあんなに早く携帯で文字が打てるのだろう。慣れだとは言っていたけど慣れない、ゲームの時はキーボード形式だったからまだ楽だったけど。


 すこしまごつきながらも、携帯を見せて伝える。


『いいの、部屋に居たらすぐに捕まっちゃう』


 階段から誰も上がってこないのを確認してから、そっと扉を閉める。


「諦めてないのかよ。無理だって千代さんから逃げんのは」

『自分の裸だって見慣れてないのに、他の子の裸なんて見れないよ』

「はぁ、前々から言っただろう、あれほど俺の秘蔵コレクションで勉強しろと」

『ふん、樹一のはただ単に男として馬鹿にされたくないからエロ本持ってるだけじゃん』

「それでもエロ本見つけて毎回オーバーヒートしているヤツよりは、全然ましだ」


 昔に樹一の部屋で見つけたエロ本の絵を思い出して、一瞬にして首より上が熱くなる。

 そんな鮮明に思い出さなくてもよかったのに、今さっき見たかの様に思い出せてしまう。


「お、おい? 大丈夫か?」

『だいじょうびゅ』


 そんなオレを見てか、大きくため息を付いたかと思うと少し困った顔をしながら、


「しかたない、そこまでの反応だと確かにいきなり本物は辛いか」

 そう言ってくれた。


 オレは何も言わずにコクコクと頷く。


「で? どうすんだよ」

『まずはこの家から脱出だ。樹一の家でお風呂に入ろうかなって』

「俺の家か…… 今から風呂やって間に合うかな?」

『とりあえず、小鳥ちゃんに協力を仰ごうと思う』


「いや、でもな~。なぁ、俺が一緒に入るって言えば別にこっちの家でも良いんじゃないか? 別に無理して俺ん家に来る必要性は無いだろう」


 たしかに樹一のいう事はもっともなんだけど、お母さんの事だから良からぬ事を企んでいた場合、逃げる手段がなくなってしまう。


 下手をすれば、あのお母さんの事だ「荒療治」と魔法の言葉を吐いて、オレを弄る事に全力を尽くしかねない。まぁ、本当に嫌がる事は絶対にしないけれど。


 オレを弄りつくす為ならあらゆる汚い手段をも用いてくるだろう。


 ともかく、小鳥ちゃんを呼ばないと。


 メールを送ろうと少し手間取っていると、誰かが階段を上がってくる音が聞こえる。

 そっとオレと樹一がドアを少しだけ開けて、廊下を除く。

 薄暗くて分かり辛いけど、そのシルエットが小鳥ちゃんである事が解った。


 オレの部屋から明かりが漏れていない事を不思議に思いながらも、彼女はオレの部屋をコンコンと軽くノックする。


「翡翠ちゃん?」


 どうしようかと悩んだ小鳥ちゃんがキョロキョロと廊下を見回していると、一つ奥の部屋からオレ達が覗いている事に驚きながらも、気付いてくれた。


 オレと樹一が一緒のタイミングで小鳥ちゃんを手招きして呼ぶ。


「なにしてるの?」


 小鳥ちゃんが物凄く呆れた様な、半場おバカと言われた方がマシなレベルの顔で俺達、ではなく樹一を見下したように見ている。


「なぁ、気のせいか? 馬鹿にされてね? オレ達」


 ――侵害だ、オレを含まないで欲しい。


 あの目はオレを見ては居ない、多分だけど。


『と、とにかく入って、入って』


 近づいて来た小鳥ちゃんの手をギュッと掴んで、部屋に引っ張り込む。


 とりあえず小鳥ちゃんにさっきまでの考えとか、オレ達がしようとしている作戦のあらましを説明して聞かせる。


 樹一が説明し終わると、淡白な返事が返ってきた。


「あぁ、お風呂ならもう入れるわよ」


 一瞬だけ小鳥ちゃんがオレを見た気がした瞬間、背筋というか首筋に氷でも押しあてられた様な冷たい感覚が電気みたいにはしった。


 後ろを振り返っても荷物の山があるだけだ。


「どうしたの、翡翠ちゃん?」


 そんなオレを小鳥ちゃんが不思議そうな顔で見ている。


『え? あ~、いや何でもないよ』

「なんだ? 薄暗いから怖くなったか?」

『ちがうっ!』


 今は何ともない、気のせいだろう。


「早く行動しないと、千代さんにバレるよ?」


 小鳥ちゃんは樹一を促す様に言う。


「それもそうだな、じゃあ先に俺が行くから少し離れて付いてこい」


 足音を立てないよ、ゆっくり動きながら樹一は階段を下りていく。


 そして何故か小鳥ちゃんは、オレをぬいぐるみの様に抱き抱え始めた。


『えっと小鳥さん?』

「えへ、大丈夫」


 破顔しただらしない笑顔でそう言うだけ。


 すくっと立ち上がってゆっくりと、堂々と階段を降り始める小鳥さん。


 何が大丈夫なのかと聞きたい。というか意外と力持ちなんだなっとか、感心している場合じゃあないのだが、もうオレの足は地面に着いていないのでどうしようもできない。


「ひ、翡翠っ! にげっもがっ!! んぉ~~っ!」


「うふふ、ダメよ~。私達の楽しい時間を奪おうなんて」


 若々しく嬉々とした魔王の声が、オレの耳にも届く。


 階段を降りると、そこには簀巻きされた樹一が、ジタバタと暴れていた。そしてその樹一を押さえつける様にして片足で踏んづけている。


『こ、小鳥ちゃん? は、放して』


「翡翠ちゃんのお願いを聞いてあげたいのは山々なんだけど、ごめんね」


 オレもヤバいと、パタパタと手足を動かしてもごくのだけど、抱き上げている小鳥ちゃんの締め付けが強まっていくだけであった。


「ふふ♪ ダメよ~、中立の立場の者から目を離したあげくに、力ある者の傍に行かせるなんて。相手に手駒を無償で与えている様な愚行よ、ねぇ」


『こ、小鳥ちゃん、目其覚まして。お母さんに騙されちゃダメだよ。このままじゃあオレに色々とみられちゃうよ、恥ずかしいでしょ、そういうのは将来を――』


「ごめんね翡翠ちゃん、千代さんには逆らえない…… それに、私に利が無いわけじゃないから、どっちにしてももう千代さん側なの。だから大丈夫だよ」


 そんな子供をあやすような猫なで声を耳元で言わないでください。


「さぁ、お風呂に連行よ、小鳥ちゃん」

「はいっ! お義母様」


『じゅいち~~っ! 助けて~~』


「じゃあ小鳥ちゃん、そのまま翡翠ちゃん持っててね」

『な、何するの母さんっ!』

「さぁ~、ぬぎぬぎしましょうね~」


 もうオレにはどうやっているのか分からない程の手際で衣服を全て剥ぎ取られていく。


 脱がされるなんて優しいもんじゃない、剥ぎ取っていくんだ。樹一の部屋で見てしまった薄いえっちぃ漫画で描かれたヒロインのごとく。


 逃げられないよう小鳥ちゃんの完璧な拘束というコンボで、両手はさながら手枷を付けられて吊るされている感覚に近いだろう。


 もう、最後の砦である下着だけになってしまった。


 洗面台の大きな鏡に態々オレの全身が映り、なおかつオレが見やすいようにしているようだった。あぁ、ちなみに双子がオレの顔を抑え、目を瞑れないようにしているせいで、色々と、本当に色々と丸々とみ言えています。


 しかも、この人達ってばオレが羞恥心で気絶したら、その場で手を止めて優しく介抱しながらも、止めてはくれません。続きとばかりに嬉々として続けます。


 しまいには一人一人、オレの目の前で衣服を脱いでいきます、もう皆が全裸です。


『せ、せめて皆は水着で良いじゃないかっ!』


 そう言いましたが、全て却下されました。

「ここはお風呂よ? 裸が当たり前よ」

 という事らしいです。


 というか、家のお風呂おかしいよっ! 露天風呂まであるっ! 温泉引いてるってなにさっ!


 もう、自分の姿で何回気絶したか、忘れました。


 そしてみんながマジマジとオレの裸を凝視してきます。

 神様、助けてください。


「……綺麗だね、お姉ちゃん」

「ちょっと、嫉妬しちゃうね」

「へ~、やっぱり、……はえてないのね」

「さすが私の娘ね、その身長でその胸、遺伝ね…… てことは、身長は期待できないわね」


 そんな事を数々言われながら、オレの体を隅々まで洗われた。

 えぇ、もう寝る為に布団に入るだけで体が変に反応するほどに、色々と洗われました。


 凄く、オレの体は敏感肌、だと、

 ――ひにゅっ!? い、言われまひた。

 余韻が、屈辱の余韻が消えてくれない。風が、

 ――はっ にゃぅ! 早く明日に、というか助けてよ琥珀っ!


『お母さん、触らないでっ! 小鳥ちゃんも足絡めないでっ!』

「ん~、むり~、翡翠の抱き心地が良すぎるのよ~」

「すぅすぅ―ー」


 ――小鳥ちゃんは素で寝てるの、絡みつきすぎだよっ!


「むぅ、屈辱、じゃんけんにまけるなんて」

「羨ましいね…… 次は勝つ、くぅ、むにゃ」

「葉月…… 寝ながら反応しないで、怖いから」




☆★☆【琥珀ノート(㊙盤)】☆★☆




 はぁ~、翡翠の悶え恥ずかしがる姿が見れて眼福だった。救いは体の感覚がボクにはなかったこだね。


 いやしかし、鏡が無ければあの表情は見れないんだよね~、お風呂場はもうほとんどが途切れ途切れ、それだけが悔やまれる。




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