【オンライン】13話:甘えん坊な妖精と畑作りの行方





『あの、ちょっといい?』


 いまだシュノーに抱きしめられていて、仕方なしにそのまま手をあげ、皆が気付いてくれるよう主張して発言する。


「どうしたの?」


 シュノーの声に二人が振り向く。


『気になる事があるから、畑作りよりもそっちを先に調べたい』

「気になる? なんかあったか?」

「こっちを見られても困っちゃうわよ」


 ケリアさんの方をチラッとみたティフォに、肩をあげて分からいと主張する。


『少し前に来た、このあたりに住んでる村人さんだったかな? その人が言っていたことが気になって』


 村と言えるほど人が多いのか知らないけど。


 と言うよりも、このホームの場所から見える範囲に家がぽつぽつ辛うじて見える程度の数くらいしか、無いんじゃないかって思う。


「畑作りがどうのこうのってやつだよね、それがどうしたのさ?」


 シュノーの問いに自分でも頭の中で整理しながら答える。


『畑作りというより、この辺に住む人達が認めちゃうのかってことが気になる』


「あら~、それなら私が言ったじゃない、このフィールド大地は畑にしようとモンスターがわんさか湧いてくるんだって」


『それは前に見ましたから分かっているんですけど……ちょっと気になるんです』


「この辺を見回るだけか?」

「それだけでなにか分かるの?」

『どうだろ、でも多分、なにか分かると……思う』

「そういえば、確かにここに来てからまともに周りを探索してないわねぇ」

「じゃ、とにかくこの辺りを見て回ろうか」

「よ~し、じゃあ決まったなら行こう行こう。さ、行こうね~スノー」

「なんというか、良いのかスノー」


 ぬいぐるみのように抱かれたオレを、憐みの目で見てくる。


『もう、気にしないことにした。ははっ』

「そうか……、まぁなんだ、頑張れ」


 ケリアさんはオレ達を遠目に見て、楽しそうに高笑いを上げながら外へ向かう。


 オレ達もその後に続いて出ていく。


   ♦♢♦♢


 道なんて整備されたものもなければ、何かシンボルになるような大きな建物がある訳でも無い。特徴なんて一切ない草原に離れた位置に家が点在しているだけ。


 転々とある家は乱雑で適当な間隔で建てられている。

 外的から身を守るような柵さえない。


 いや、これは正確な表現ではないか――、柵が建てられたであろう痕跡はあった。


 ここに町を作ろうと、広く大きく囲ったのであろう痕跡っぽい後を見つけた。


 朽ちた気の柵っぽいものが何もない場所で見つかったものが、多分それだろう。


 そしてその名狩りなのか、点在する家にはゲームのキャラクター達が住み着いている、その場所で生活している、様子も確認できた。


 元々はここに経てたプレイヤーの家が多いらしいけど、管理を放棄した家やきちんと手続きをしていない家には、キャラクターが勝手に住み着いてしまったようだ。


 言付いた人達からのティフォとケリアさんを見る視線は、冷たく敵意を持っている人が多く居るという事も話に聞いた通りだ。


「たく、やるせねぇな」


「そうねぇ~、実際に私達が何かしたって訳じゃあないけれど……これはねぇ」


「ボク的にはスノーに被害がなければ何でも良いや」


 シュネーやオレに向けられる視線は、敵意は無いけど冷たい感じはある。


『ねぇ、なんでファーマーじゃあなくって冒険者が恨まれてるの?』

「そういえば~そだね、ボクらファーマーの方が町作りの力があるんでしょう」

「あ~、言われて見ればそうだな……なんでだ?」


 オレ達三人の視線が必然的にケリアさんへ集まる。


「ん~、詳しく私も詳しくは知らないからねぇ。確か約束を反故にして裏切ったのが冒険者だったんじゃあなかったかしら……匙を投げたってやつかしら?」


 確かバグかと運営に報告して、それがバグではないと言われたんだっけ。


『モンスター退治の失敗が原因?』

「でしょうね、倒しても畑とかに湧いて出てくるんだから」

「俺みたいなテイマーで仲間にするっていうのは?」

「無理よ、テイム出来る上限は決まっているでしょう」


 ティフォの問いに少し考えたが、ケリアさんはすぐに返した。


「他の場所はどうだったのさ? ケリアンが開拓を手伝った場所とかさ」


「他の場所ではそんな事は無かったのよ~、畑を作ればそこでは敵は湧かない、ホームから一定距離にはモンスターが湧くことはないのよ。普通は、ね」


 ちなみに、この辺りの草原に出現するモンスターは大体把握した。


 ラビットの群れ、鶏っぽいモンスターのコッコというらしい。

 まぁ、まんま鶏だ。ただしボールの様に丸々としたフォルムだったけど。


 あとは定番のスライムと、ちょっと奥地に行けば羊と牛のモンスターがいる。

 オオカミの群れという危なっかしいアクティブモンスターと共に。


「むしろ、ホームの近くにいっぱいいる感じだもんね」


 シュネーがウサギを眺めながら、ため息交じりに言う。

 むしろホームの近くの方がモンスターが多い気がする。

 それと、やっぱり何処の家の周りにも離れた位置にもまともな畑が無い。


 田畑の後は多く見てきたが、どの畑にも何かが育っている様子が皆無だ。


 誰かが作ろうとした畑にはモンスターが踏み荒らした様な足跡が残っている。

 あんな事をやられちゃ、そりゃあやる気も削がれていく。


『……シュネー、ちょっと放して』

「え、あ~うん」


 名残惜しそうにオレのことを開放してくれた。

 ゆっくりと真上に向かって飛び上がって、辺りを一望する。

 気持ちよく風に乗っているようで、飛んでいるというのは不思議な感覚だった。


「こら~、危ないから下りておいでよ~」


 結構な高い位置まできて下を向くと、シュネーがぴょんぴょん飛び跳ねていて、オレを心配そうに見ている。


 改めて家の位置から、モンスター分布の様子を窺う。

 木があまりないこともあって一面を確認しやすい。

 上から見下ろしてみると、白いのが鶏、灰色がウサギ、青がスライムと分かる。

 思った通り、やはりホームに近い場所にモンスターが多く集まっている。

 というか、モンスターがグループを作ってホームの周りに居る。

 それぞれ種族ごとに一グループずつだが、固まりで纏まって居るのが分かる。


 この事を報告するために、シュネーの胸元まで直ぐに戻る。


「もう、スノーの甘えんぼさん」


 シュネーは声を出さずに薄笑いを浮かべて、オレのことを見ている。


『なにいってるの?』

「だって、態々ボクに抱かれに来るなんてさ」


 またギュッと優しく、けどしっかりと抱きしめられた。


『ち、違う。シュネーが名残惜しそうにしてたから』

「ん~、そういう事にしといて上げよう」


 なにがそういう事にだよ、名残惜しそうにしていたのは事実じゃないかよ。


 ――まぁ、落ち着くっていうか、安心できるけど。


 シュネーのことを思っての好意なのに、まったくもって、侵害だ。


『別に良いんだよ、離れて飛んでても』

「もう拗ねない拗ねない」

『拗ねてない!』

「じゃあ、離れる?」


 そう言われて、なんかムカッとするも、抱きしめられた腕が弱められていくと、自分でも分かる程に、チラチラとシュネーの事をチラ見してしまう。


『別に、このままで良いって言ってる』

「もう、可愛いんだから」


 ギュッと抱かれると、安心して体を委ねてしまう。


 その事に安心した自分も、

 それを見てニヤニヤ顔をシュネーにも、

 ちょっと悔しく思う。


「それで、何かわかりそうか?」


『とりあえず、一回ホームに戻ろう、そこでオレの考えと上から見た感じの情報の整理をしてから、次に実証研究? ってやつかな』


「良いわね~、もうワクワクしてきちゃうわ」




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