【オンライン】03話:不安の始まり、一人じゃないこと
目の前に新たに電子モニターが表れる。
そこには【はい】【いいえ】の他に【どちらとも言えない】の選択肢があった。
「私達がお二人それぞれに幾つかの質問していきます。この質問は初期能力値や今後の成長値に関係するとは一切ありません」
「私達が与える【加護】という能力に関係します」
「基本的には何かしらの向上能力ですが、加護にはバッドステータスも同時に発生します。何かを得る代わりに何かを犠牲にする、そのような力です。この説明を踏まえた上で、お聞きします【加護】を得ますか?」
そう聞かれると、オレと琥珀の前に出ていた電子盤の選択の欄が光った。
「「加護の能力が分かった後でまた同じ質問をしますので、身構えなくても大丈夫です。加護を得ない場合ですが、最初の基礎能力値に振れるポイントやアイテム、お金などが代わりとして与えられます。加護はこの世界を旅していれば、もしかしたら得られる可能性もあるでしょう」」
まぁ、取り敢えずやるだけやった方が良さそうだな。
オレは【はい】を選択する。
「ん~、よく分かんないから要らない」
琥珀の方は【いいえ】を選んだようだ。
その後はオレの頭の上でくつろぐ様に寝っ転がり、「後は任せた」とだけ言う。
一々考えるのが面倒なだけだな、琥珀のヤツ。
「「ではスノーさんに質問していきますね」」
モニターに双子からの質問がズラッタ並ぶ。
当たり障りのない質問から良く分からないモノまで。
本当に良く分からない、なんだ可愛いモノと旅をしたいとか、ちゃんと写真付きで、たとえばこんな感じのモンスターと、親切に書かれている。
モフモフに囲まれたいか? などなど。
それらは軒並み【はい】と答えた。
なんか双子の表情が一瞬、すごく悪い顔になった気がしたんだが、まぁ、多分気のせいだとは思うけど。
質問に答えおわると、双子はこそこそと何かを話し合う。
「これで良いかな」
「これが良いよ」
不気味に笑いながらこっちを見てくる。
「「では、貴方に与えられる【加護】はこちらでございます」」
双子が互いに向き合い、両手を中央に掲げると正方形の小さな箱が出現する。
「「こちらは【騎獣の心】です」」
オレのモニターにもそう表記されている。
この世界で乗れる動物的なモンスターということだろう。
そう、想像はできるのだけれど、こういうゲーム自体が初めてで良く分からない。
ふと画面を見ていて気付いた。彼女たちに話しかけたいのだが、どうすれば良いのか分からず右往左往していると。
「ね~、翡翠が何か喋りたいみたいなんだけど、何か書くモノとか無いの?」
頭の上に居た琥珀が助け船をだしてくれた。
「「あぁ、それなら両腕にある腕輪の宝石部分に触れるとメニューを開けるから、そこからチャットというのを選択してください。そうすればモニターに貴方の言葉が表示されます」」
いつの間にこんな腕輪が付けられたんだ。
「「先ほど名前を決め、容姿を決めた時です」」
――あれ? なんで?
「「別に心を読んだ訳ではありませんよ、分かりやすい顔をされていたので」」
――オレってそんなに分かりやすいのだろうか?
両頬を手でムニムニと弄り回す。
「「それで? なにか聞きたい事があるのでは?」」
はっと我に返ってチャット欄に文字を打っていく。
『あの、バッドステータス? っていうのは?』
モニターに映し出されている【騎獣の心】という場所に、効果の事は書いてある。騎獣としての能力があるモンスターを仲間にしやすくなる、と書かれている。
しかしそれだけで、肝心のマイナス効果が書かれてない。
「「ふふ、バットステータスは大地に立ってからしか分からないわ」」
楽しそうに笑っているだけで、それ以上は教えてくれない。
何を聞いても「秘密」「極秘です」と言われるだけだった。
「「では、改めてお聞きしましょう。あなたはこの加護を受け取りますか?」」
どうするか、マイナスステータスというのがどういうモノかも良く分からない。
良く分からないけど。
さっき見た写真の様なモンスターとかと仲良くできるなら良いかも。
ああいうのに囲まれるのも悪くない。ネコみたいなモンスターとか居るのかな。
――あぁ、ヤバい。楽しい想像が止まらない。
「「楽しい想像は終わった? その顔は受け取るという事で良いのね」」
オレはコクコクと頷く。
「ふふ、良い顔だね」
「あはは、そうだね」
なにやら双子を見据えていた琥珀がオレに耳打ちしてきた。
「ねぇ、本当に受け取るの? なんだかい――」
「「はいはいはいっ! その加護を受けとるなら、その蓋を開けて」」
慌てた様子で双子がオレに詰め寄って大声で言う。
『う、うん、わかった』
そんなに受け取ってほしかったのかな? なんく凄い圧で迫ってきたけど。
手早くプレゼントの紐を解いて蓋に手をかけると。
「あ、ちょっとだめ―― むぐぅっ!?」
琥珀が急に黙ってしまった。
どうしたのだろうと思い、手を止める。
「「あはは、気にしない気にしない。ささ、早く開けちゃって」」
なんか頭の上でシュネーがジタバタもがいている気がするのだけれど、双子は特に気にしない様子だった。
まぁ、何かジタバタしているだけだし、とくに問題なさそうだ。
蓋を開けると、光の玉が胸元まで浮かび胸に吸い込まれていく。
「「はい、これでその【加護】は貴方だけのモノです」」
双子は互いに両手をパンッと合わせて、なにやら喜んでいる。
琥珀の方はオレの髪を引っ張ったり、ポカポカと叩いたりしてくる。
「「さて、ではこの世界の事について、少し説明します。
この中心にあるのが【ピースガーデン】という始まりの塔がある場所。
貴方達の様なプレイヤーが最初に旅立つ場所になります」」
さっきみた世界地図と同じだ。中心から四つの大陸が扇状に伸びている。
ちょっと木瓜紋の形に似ているかもしれない。
「「四つの大陸には、それぞれ特徴があり火山や鉱山などが多い険しい土地。
海とジャングルという湿地帯が多い土地。
草原や山や川と豊かですが、モンスターが数多く住む土地。
光の届かない森と荒野、魔力が多く特殊なモンスターが多く住む土地」」
一つ一つの大陸を指しながら丁寧に説明してくれる。
「「続いて貴方達の特別な状態について説明ですが、この世界にいる時に精神が入れ替わった場合、スノーさんの容姿が妖精に、シュネーさんの容姿が今のスノーさんの状態になりますのでご注意ください、ちなみに妖精の間は魔法や技、能力は使えません」」
琥珀のヤツが何か言いたげに、双子まで飛んでいこうとするが、
「「あぁ、ちなみに貴方達は一定距離以上、離れる事ができません」」
見えないゴム糸に引っ張られる様に、オレの元に戻ってきた。
「「この様になるます。街中ではある程度の自由はありますが、ダンジョンやフリーフィールド内では、お互いが視認できる範囲までとなります」」
あ、目を回している。急な事でビックリしたのかな。
「「さて、最後に技や魔法、技能の事についてですが、スノーさんはロールプレイングゲームというモノを良くやりますか?」」
首を横に振って答える。
ゲームとかってあんまやらないんだよね。
オレの家にもゲーム機ってなかったからな。
樹一と仲良くなってから、稀にやるくらいだ。
ゲームセンターのクレーンゲームとか、将棋とか囲碁なら良くやるけど。
主に絵を描いたり、料理とかハープとかピアノを弾いている方が楽しいから。
後はやっぱ土いじりだよね、アレはあれで楽しいモノだ。
「「ふむ、ではどう説明しましょう……他のゲームとかにはプレイヤーには職というものがあるんですが、剣士とか魔法使いとかです。その辺は分かりますか」」
そういうのなら、何となく分かる。
コクッと頷く。
「この世界ではその職に就くと能力値もそれに伴い伸びやすいモノがあり、伸びないモノが出てきます、剣士なら力が伸びやすく、術師なら魔力といった感じです」
「そこで、最後に選んでいただく内容ですが、職業を取るかホームとなる家を取るか。選んでいただきます」
「職業を取った場合、最初からその職に類する武具をお渡しします」
「ホーム、この世界の拠点となる家を選んだ場合、貴方は一市民と同じで職業に就くまでには色々な事をしなければならないでしょう」
「しかし、拠点となる家の引換券をお渡しします、ホームがある場合、畑やモンスター、動物などを飼う事ができ、家を色々な改造で鍛冶屋や装具や錬金などのアイテム屋が開けます」
「そして、この世界では、点在する町や村の信頼を得られれば、その場所を拠点に成長させる事も可能です」
「貴方は、どちらを選びますか? ちなみに、これらはどちらか一つ、お二人で共存していただきますので、スノーさんとシュネーさん、別々の職業を取る事は出来ません。よく考えてお決めください」
――う~ん、どうしよう。
琥珀のヤツは目を回してるせいて相談できないぞ。
「「ごめんごめん。シュネーさんのその状態は状態異常ですのでお気を付けて」」
双子が同時に指を鳴らす。
すぐに琥珀の体の周りが光の粉に包まれると、
「ちょっとなにすんのさっ!」
起き上がるなり、双子に指さして文句を言いまくりる。
オレの掌の上で地団駄を踏む。
『まぁまぁ、落ち着いて。それより相談したいことが――』
ジト目で頬を膨らまし、オレを一瞥すると。
「翡翠の好きにして良いよ。ボクだって良く分かんないんだし」
拗ねた様子でオレとそれ以降、目を合わせてくれない。
落ち着くまでは、ずっとこのままかな。
――ん~、ならやっぱホームでいいかな。
職業と言われても全く分からないしね。
『じゃあ、ホーム引換券でお願いします』
オレがそう言うと、双子の動きが止まる。
「「え? 本当に?」」
驚いた顔でこっちを見てくる。
「本当に良いの?」
「職業にしないの?」
「後悔しない?」
「きっと大変だよ?」
吐息が掛かるほど顔を近付けてきた。
そんな詰め寄んなくても。
というか、ちょっと怖い。
『えっと、なにか問題が?』
「「ううん、なにもない。むしろ私達としては嬉しいんだけど」」
じゃあ、いったいこの反応はいったい。
両手をそれぞれの手に取られ、
「「頑張って、諦めないで、めげないでね」」
とだけ残して、手元にはホーム引換券を手渡された。
「「で、では、この世界を楽しんでくださいね」」
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