真山恭一郎の結婚生活

月猫

第1話 結婚式

 最初はどうなるかと思っていた。二人の秘密がバレてしまって、学園を追い出されでもしたら私達は終わりだと思ってた。でも恭一郎さんがいつも守ってくれて、学園でも愛してくれた事もあり何事もなく卒業する事が出来た。

そして私佐々木結衣は元々恭一郎さんの自宅に住んでいた事もあり、何事も無かったかのように普通に生活していたが、頃合いを見てという事もあったのか恭一郎さん自ら結婚式のサイトや雑誌を見る様になり気が付けば今はもう結婚式の控室にいた。

「佐々木さん本当に綺麗ですね!こんな素敵な花嫁さんを貰えるなんて花婿さんも嬉しいでしょうね。」

「そうですか?でもこうして彼と結婚できるなんて思っていなかったので、正直今は驚きで一杯です。」

「それにしても佐々木さんの御両親は今日はいらっしゃらないとお聞きしましたが、何かご都合があるのですか?」

「まぁ、そうですね。いつ会えるか分からないプロジェクトの為に海外に行ってしまっているので、今日の結婚式には参加できないって感じなので少し寂しいですが帰ってきた時にでも写真で見せたいなって思っています。」

「そうなんですね!」

「なので私の父親代わりに一緒にバージンロードを歩いてくれる人は、私が学園に通っていた頃の担任の先生でもある一ノ瀬先生なんです。」

「あらまあ!それは素敵な事で!」

「その事に関しては恭一郎さんは最初反対していて、それなら俺が一緒に歩くって言ってたのですがそれだと式自体の順番がおかしくなるとの事で、恭一郎さんを宥めた後に仕方なくって感じなんですがね。」

そんな事をスタッフさんと話していると準備を終えた恭一郎さんがやって来て、私の花嫁姿を見ていた。

「恭一郎さん!?」

「そんなに驚く事は無いだろう?」

「ノックも無しに入って来るなんて、一体どういうつもりですか!」

「俺は一応ノックはしたが聞こえなかったのならば、お前が聞こえなかっただけだろう。」

「そうですね。それにしても恭一郎さんがタキシードなんて何か新鮮ですね?」

「そういうお前も綺麗ではないか。流石俺の花嫁だな?そういえばもうすぐ招待客がやってくる時間だから、俺達はお迎えに行かないといけないがお前の方はもう準備は出来ているのか?」

「はい!」


 結婚式の会場に向かうとそこには多くのスタッフさんが居て、私達を見ると一斉にお祝いしてくれた。お仕事とは言えどもやっぱりお祝いしてもらえると嬉しい物だなって思った。すると先にやって来たのは若桜先生と一ノ瀬先生だった。若桜先生には学園時代に何かと気を使ってもらっていた人でもあり、唯一私達の関係を知っていた人。一ノ瀬先生は私の担任でもあった人で性格は穏やかで女子からも人気な人だけど、流石に今回の件を知って驚いているのか今も私達の方を見て焦っているのが分かる。

「やぁ真山。まさか君達が結婚するなんて・・・思っていなかったよ。でも学園時代にあんな事やこんな事をしていたのに、結婚しないなんて事はしないって俺は信じていたけどそこはさすがだなって思うよ・・・?」

「若桜には言われたくないな。」

「真山先生、佐々木さんと結婚するんですか!?」

「一ノ瀬先生、そんなに驚かなくても良いでしょう。でも一ノ瀬先生はこの中では知らなかったのでしょうから、今回の結婚に関して驚いてもおかしくないですね。」

「僕の憧れの存在の真山先生が結婚だなんて思ってもいなかったし、それにその相手がまさか僕のクラスの佐々木さんだったなんて思ってもいなかったですし!」

「俺達が上手く交際を隠していたからな?」

「それにしても・・・真山、お嫁さんの事放っておいて良いの?あの子、同級生の子達に挨拶に行ってるし・・・男の子の方に行ってるけど?」

「花嫁姿のあいつを見て手を出す愚か者は居ないだろうからな。」

恭一郎さんが見たその視線の先には私が同級生たちに話しかけている所が移っていて、その光景がなんとも華やかだったみたいに見えたみたいです。

「よう!」

「如月君!?来てくれたんだね!」

「当り前だろ!俺達の仲間が結婚するってなれば行かないっていう理由は無いだろうし、ましてややっぱり相手は鬼畜数学教師の真山だったんだな。」

「そうだよ?隠すの大変だったんだからね!?」

「でも正直体育祭実行委員会の時、真山と何かの関係性がありそうな気がしてたからまさかなって思ってた。多分後から来る桜沢瑠風も勘付いていると思うから、後々言われると思うぜ?」

「せんぱ~い!」

「桜沢君!来てくれたんだね!」

「まさか先輩が結婚するなんて思いもしなかったけど、結婚しちゃうって事は人妻になるんだね?しかも相手が真山先生っていう衝撃だけど、もしも何かあの人にされたら僕が守りますから!」

「ありがとう!相変わらず桜沢君は優しいね。」

如月君と桜沢君は学園時代に恭一郎さんとの関係を怪しんでいた人物の一人で、危うく本当にばれてしまうんじゃないかなと思うくらいの洞察力があった。それに加えて招待してある筈の逢坂君も、何かと関係を怪しんでいたので本当に学園時代は怪しかった。

「やぁ。本当に君は結婚するんだね?」

「逢坂君!」

「僕は本当は君の事をもっと観察したかったけど、旦那さんっていう存在が居る限りそれは無理だね。それに真山先生が相手ならそれもそれで厳しいしね。」

「観察?」

「おい、逢坂。結婚式の日に怖い事言うなよ。ある意味不吉だから!」


 そして恭一郎さんに呼ばれた私はいよいよ結婚式の会場へと向かった。参列してくれたみんなは先に会場に居るので、後はもう私達の入場を待つだけ。そんな中で恭一郎さんは眉間に皺を寄せて、何かを考えていた。

「俺が先に入場するとは言ってもその後には、一ノ瀬先生と肩を組んで歩くお前の姿を見なければと思うと不思議と違和感が俺の中であるのだが。」

「一ノ瀬先生は私の父親の代わりですから、別に一ノ瀬先生が私の旦那さんになるなんて事は無いので安心してください!あっ、それに入場の時はくれぐれも怖い顔して入場しないでいつもの学園スタイルで行ってください?」

「分かってる。」

そしてドアが開き恭一郎さんは入場をした。すると案の定生徒や教師たちから祝福の声が上がり、歓声はどんどん大きくなる一方でそれに合わせて段々と彼の表情も最初は不機嫌だったものの、どんどん柔らかい顔になり取り敢えず一安心だった。するとそこにバージンロードを歩いてくれる一ノ瀬先生がやって来て話しかけてきたのだが、その顔は少し照れている様な感じだった。

「佐々木さんの隣を歩くのが僕で良かったのかい?何なら君達の交際を知っていた若桜先生の方が良かったんじゃない?」

「大丈夫ですよ!それに若桜先生はあまり恋愛に関しては興味無い感じじゃないですか。なのでそこを強制してしまっては悪いし一ノ瀬先生は私の担任の先生なので、今回は一ノ瀬先生に頼みました。」

「本当に佐々木さんは優しいよね!・・・僕も君みたいなお嫁さんが欲しいな?」

そして目の前のドアが開き、視線が一方に向けられ私と一ノ瀬先生の姿を見た瞬間にフラッシュが焚かれた。そしてクラスの同級生をはじめとして、かつての藤城四天王として有名だった西園寺先輩や九条先輩や鷹司先輩、そして壬生先輩がお祝いに駆け付けてくれた事に感動して思わず涙が出そうになったが、ここは我慢してバージンロードを歩いて恭一郎さんの所に向かった。恭一郎さんの元に着くと一ノ瀬先生は少し寂しそうな表情をしたがすぐに笑顔になり、小声でおめでとうと言って自席に戻っていった。そして式は盛り上がりを見せてとうとう誓いのキスの場面になった。

「結衣、あまり緊張するな。俺達の一生に一回の結婚式なんだ。それにキスなら何度もしただろう?」

「でも今回は皆さんの前でですから、余計に緊張しますし緊張しないっていう方が無理な話です!」

「良いから俺に身を任せろ。」

そういうと恭一郎さんは顔を近づけ、私に誓いのキスをしたのだがそれが思った以上に情熱的で深いキスをしてきた。あまりのキスの長さに周りも騒然とし始めたり歓声があったのだが、私は私で息が持たなくなり彼の胸を軽く叩いてギブアップの意思を伝えた。


 結婚式を終えて次は披露宴という事で一回控室に戻る事になり、皆に祝福されながら退場した。恭一郎さんは疲れている様な感じを出さない今まで通りの感じだけど私は私でお色直しが少し大変だから、少し疲れるし出来る事ならずっと休んでいたいなと思うくらいだった。お互いお色直しという事で一回お互い着替えるので別れた後、お色直しのスタッフさんに声を掛けられた。

「素敵な結婚式でしたね!お二人とも幸せそうで何よりです。」

「いやいやそんな事!それよりも私はこの後の披露宴が楽しみで、今から着替えるこのドレスを早く来たいなって!」

「このドレスは新作で流行しているドレスなので中々予約が取れないんですが、新郎さんがどうにか頑張って取ってくれた物なんです!」

「予約取れないって事は貴重なドレスなんですか!?そんなに大変な物を恭一郎さんは予約を・・・。」

「それだけ愛されている証拠ですよ!では早速お色直ししていきますね。」

そして私はスタッフさんによってお色直しに入り、華やかさ重視で今まで見た事の無い様な綺麗な姿に変わっていった。こんな姿になるのは少し恥ずかしいけど、一生に一回っていうならと考えたら少しうれしかった。

暫くしてドアのノックがしてお色直しが終わった恭一郎さんがやって来て、準備が出来たというのを伝えに来た。その姿は何とも言えないくらいに輝いていて、まるで王子様の様な姿で私は思わず見入ってしまった。

「何をじっと見ている。何かおかしい所でもあるのか?」

「いえ!・・・その、綺麗だなって///」

「俺はお前の旦那になる。そんな俺がかっこよくなかったら良くないだろ?それに他の男子共よりも輝いていないと、新郎としても男としても腑に落ちないからな。」

「私だって負けてませんよ?さっきスタッフさんから聞いたんですけど、このドレスって恭一郎さんが予約してくれたってほんとですか?確か中々予約が取れないっていう貴重なドレスだって。」

「俺は今までのお前の行動やしぐさに心を何度も惹かれた。学園時代も何度お前の事を考えた事か。・・・正直他の男子に取られるのではないかと考える事もあった。でもお前は俺に着いて来てくれて俺にしか見せない顔もしぐさもしてくれて可愛いとしか言いようがなかった。そんなお前にこれまでの感謝とこれからの意味を込めて、このドレスを予約して着せたいと思ったんだ。」

「恭一郎さん・・・!」

そんなこんなで準備を終えていざ披露宴へ!私たち二人は腕を組んで仲良く入場した所、何とも言えない拍手と歓声に包まれて黄色い歓声も上がった。こんなに多くの人に祝って貰えて、姿を見て貰えるなんて本当に嬉しかった。

披露宴ではケーキ入党の共同作業が待っていて、その瞬間多くの同級生をはじめとして先生方も寄ってきた。しかもそのケーキは私と恭一郎さんの写真が写されたチョコレート板に、イチゴのショートケーキが何段もある少し豪華なケーキだった。

「それではケーキ入刀お願いします!」

私達は息を合わせてケーキにナイフを降ろした。一斉にシャッターが押されて光の嵐に包まれて、私達の初めての共同作業は大成功に終わった。

そしてキャンドルサービスに向かう事になり、其々の席に二人で回っている時には相変わらず皆からお祝いされたり恭一郎さんに関してはお祝いの意味で冷やかされたりと忙しかったけど、私の場合はとても楽しくキャンドルサービスを行う事が出来た。もちろん参加者の中には感動して泣いてくれる子もいたし、本当は恭一郎さんの事が好きだったっていう子もいて凄かった。すると私達の視線の先に見た事のある姿があり、よく見ると学園時代の頃からの親友の茜の姿があった。

「茜!?」

「結衣!やっぱり相手は真山先生だったんだね。」

「やっぱりっていうか茜に関しては本当に恭一郎さんの事が大好きだったんでしょ!それにしても遅かったね?」

「まあね。」


 無事に結婚式と披露宴を終えて恭一郎さんと私は招待客のお見送りに向かった。私は何だか嬉しくて舞い上がりそうになったけど、さすがの恭一郎さんは疲れている感じだった。

「やぁ、真山。今日は本当に素晴らしい式を見させてもらったよ?また・・・皆で飲もうね?」

「ああ。」

「真山先生感激でした!改めてご結婚おめでとうございます!」

「一ノ瀬先生は泣きすぎです。結婚式だというのに本当にあなたって人は。それと・・・・バージンロードの際はありがとうございました。」

「いえいえ!僕もとても参考になりましたし、いつか近いうちに結婚出来た際の経験にもなりました。」

私は3人の会話を見ていて本当にあの3人は仲良しなんだなって思っていた。学園時代は何かとあまり話す事の無かったように見えてたけど、若桜先生は恭一郎さんと絡む事が多かったし恭一郎さんの秘密までも知っている。一ノ瀬先生は確か恭一郎さんの事を信頼している人で、偶に名前呼びが出ている時があったっけ。

「結衣!」

「茜、今日は本当にありがとう!来てくれて嬉しかったし久し振りに会えて本当に楽しかった。」

「私もだよ!それにね、結衣に言いたい事があって。実は私若桜先生とお付き合いする事になったの!」

「えっ!!!若桜先生ってあんまり恋愛に関しては興味無さそうな感じなのに、よくお付き合い出来たね?」

「しかも結婚前提で!だから私の時も絶対に来てよね!」

「任せて!」


 衝撃的な内容を聞いたり同級生たちと一緒に話したり写真撮ったりと楽しい時間を過ごし、お見送りを済ませ夫婦同士で写真を撮った後私達は控室に戻り着替えをしていた。そして今日一日の事を頭の中で振り返り、これから先の将来はきっと良い日になっていくだろうと思っていた。数時間後にはお互い着替えを済ませて会場を出ようとした時、恭一郎さんの両親が話し掛けて来た。

「佐々木さんっていったかしら?」

「はい!」

「あなた、今日ご両親が来ていなかったけど一体どういう事かしら?」

「私の両親は海外に行っており、目的としては生きていけるか分からない人の為のボランティアに行っているみたいなので、いつ帰ってこれるのか分からない状態なので今回の結婚式には来れなかったんです。娘としても恭一郎さんの妻としても責任を感じている次第なので、本当に申し訳ないと思っています。」

「だとしても式の前に私達に話しておくのが礼儀じゃないのかしら?それにあなたは学園時代にから生徒と教師の関係だったらしいじゃない?付き合いは長いのにこっちの礼儀はまだなのね?」

「おい、いくら何でも言いすぎだろ!・・・結衣さんすまんね。」

「いえ、別に・・・。」

まさかそこまで言われるとは思っていなかった。確かにその事は式の前に言っておくべきだったかもしれないけど、そんな事言ったら婚約破棄されるのではないのかと思っていたから。それにこれから恭一郎さんのお母様とお父様とも仲良くしていくのにこれじゃあやっていけるか不安だよ。

「結衣、もう俺達は先にホテルに帰ろう。おふくろの事は親父に任せるから、今日はもう休もう。」


 ホテルに帰ってきて私は雪崩れ込む様にベッドにダイブした。そしてさっきの事を思い出してしまったのか自然と涙が零れて、気が付けば息を殺して泣いていた事に気が付いた。

「大丈夫か?俺のおふくろが本当にすまなかった。俺の両親は礼儀に厳しい所があってちょっとの事でも厳しいんだ。特におふくろはおふくろの実家の方が由緒ある家だから、そういう意味でも結構厳しいんだ。俺は別にそこまで気にはしないが今回のおふくろの行動は流石に度を過ぎている。後で俺からも言っておくから、本当に申し訳なかった。」

「・・・恭一郎さん。」

「なんだ?」

「私が・・・私が妻で良かったんですか?他にも良い人居たんじゃ?」

「何を言うかと思えば。俺は結衣が妻でないと納得できないし、結婚なんてしなかった。礼儀に関してはこれからゆっくりと学んでいけばいいし、俺も支えていくつもりだ。だからもうこれ以上泣いた顔はしないでくれ。」

そういうと彼はギュッと私を抱きしめて優しくキスをしてくれた。その抱擁とキスは慰めの様に感じて、私は自然と泣き止む事が出来た。そして恭一郎さんは先にシャワーを浴びにお風呂場に向かっていった。

「私が・・・・ちゃんとしなきゃいけないのに!」

そう呟いた瞬間だった。お風呂に行った筈の恭一郎さんが戻ってきて私に跪き、そっと二人のイニシャル付きのネックレスをくれた。

「本当はもっとロマンチックな場所で渡そうと思っていたが、今日は俺達の結婚式だったからな。これは俺と結衣を繋ぐ秘密のネックレスだ。例え離れていても俺達はずっとこれからも未来永劫一緒だ。」

「恭一郎さん・・・大好き!」

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