Drip

リンリン

プロローグ

プロローグ

「最近はとっても暑いですね」

 と、黒髪の女性がコーヒーを注ぎながら呟く。

「そうですね」

 こちらは黄色に近い茶髪をした長髪の男性。因みにさっきの女性はポニーテールだ。

 男性はカウンター席で肘をつき何かを待っている。

「おまたせしました」

 そう、静かな声で差し出したのはコーヒーだ。一見はキリマンジャロをベースとしたブレンド。傍から見れば何の変哲もないただのブレンド。

 男性は待ちわびていたかのようにコーヒーを飲む。と言っても、一気に飲むのはマナー違反なので、ゆっくりと口にする。すると目を輝かせ、笑顔で言った。

「やっぱりマスターのコーヒーはうめぇよ!!」

 満面の笑顔で女性__マスターに例を言う。

「ありがとうございます。今日は南のトローブルから仕入れた『ドール』と北のボルドから仕入れた『ラース』のブレンドです。」

 マスターも満面の笑みでコーヒーの説明をする。その説明は博物館の化石の説明のような坦々とした口調ではなく、心から楽しんでいるような、そんな口調だった。その笑顔のまま、菓子が盛り付けられた皿を出す。

「今日の菓子は、マフィンか。」

 そのマフィンは美しかった。生地はプレーン。四角いチョコレートがふんだんに使われ、中のチョコレートが割れ目からも見えた。質素な感じがするが、ケバケバしい最近のカップケーキより何倍も美しく見える。

 男性は一口、齧り付く。すると、足をバタバタさせ、

「ん〜、美味い!!」

 男性は美味しそうに、笑顔でマフィンを頬張る。


 ここは皆を笑顔にする喫茶店。

 人ももやってくる。

 ただ、お代が変わったものだった。


「喜んで頂き、光栄です。」

 マスターはカップを拭きながら笑顔で対応する。

「あ、マスター。お代の話だな。」

 男性は思い出したように話を切り出す。その顔はいたずら好きの顔だった。

「今日もとっておきのを用意したよ。」


 ここは皆を笑顔にする喫茶店。

 人ももやってくる。

 ただ、お代が変わったものだった。

 今日もこの喫茶店からは、挽きたてのコーヒーと焼きたての菓子と__


 __事件の匂いがする。

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Drip リンリン @rinberu

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