混ざりきらない黒と白の花

睦月冻暜

プロローグ〜不慣れ〜

 共学高、何一つ変わることの無い高校に入学してからまだ登校日数が三日四日も経っておらず、ぎこちないような、ちょっと賑やかのようなよく分からない狭間の空気が教室に流れていた。

 私は小学と中学ではまともに勉強を受けることがなく、ほとんどが睡眠授業の学校生活だった。が、何とか脳内に留めた授業内容を家に帰って復習したおかげで、このそこそこ良い高校に入れた。このままやっていけるかは分からないけど、なんとかなるだろうって、根拠にもないようなことを脳の片隅から脳の中心に向かって囁きかける。

 少しだけ男勝りな性格の女子と言えど、理想や恋愛に関しては乙女だ、誰がどう言おうとも。高校の通学路はほんとに色彩豊かで日当たりが良く、春には桜も咲き、夏には草木が茂り、秋には紅葉が見れる、と思う。因みに、冬は嫌いだ。

 

 校舎に着いても、彩りは変わることなく、正に理想そのままの通学路、高校だった。生徒達も荒れることの無い、平和な高校生活を送れそうだ。甘味料をそのまま具現化したような、高校……いや違う。そう、この学校は桜餅かクリームパンである、理由はとくにない。

 そこそこ偏差値のある高校にも関わらず、容姿には敏感で、スカート丈や頭髪には口煩い、スカートは膝辺り、髪は肩甲骨まで……染めるのも禁止、とか。そこで、私は早々に引っかかる。茶髪、茶髪は許容に値するのかどうか。日替わりで玄関前で点検する委員の人が視るので、実質毎日引っかかっていた。時には地毛と察して一瞥程度で済ます人も居るけれど、それは一回か二回限りのことであって、それ以外は毎日。


 問題はなかった。面倒くさいことにならず、ほっとした。



 高校に進学したと言えど、高校入学当初や数日は簡単な復習や基礎程度。そして今は数学、軽く聞いていれば数日は持つ。そうしてまた、私の中学の頃から始まった授業中の決まり事。窓の外、上空に広がる青い世界に目線を委ね、雲の流れに思考を委ね……つまり、ボーッとする。何気ないこういう時間が、私はないと生きていけない。

 家に帰ってから、弟の勉強を見たり、買い物に行ったり、洗濯したり色々と忙しいかららこういう時に休まないとやっていける気がしない。共働き家庭だと、こういうことも有り得るのだろうか。?

「痛っ」

 後ろの席の人、急に攻撃を仕掛けてきた。

「えっと、なんだか意識がどっかいってたから。なんというか」

「あ、優等生さん」

「そうやって呼ぶのやめてよ」

 優等生さん、奈原なはら凛霞りんか。高校に来て一番初めに話した相手である。他の人と話す時はクールなのに、私には寛容的。彼女曰く、不思議な人と仲良くなってみたかった、との事……別に不思議な人じゃないのに。

 彼女は中学でもテストの点数を全学年でトップを争うほどには頭がいいらしい。

 らしい、とは。誰でも察せる通り、高校で会ったばかりというので、中学校の頃の成績を少し前に聞いたくらいの情報しかないからだ。聞いた話では頭良さそう止まり、実際見てみるとあまり……そうは見えない。失礼なのは重々承知の上。

 会話の苦手な私が、会って数日でここまで理解出来ていることに自分でも驚いている。

 

「えっと、名前はなんだっけ」

「いいよですよ別に、名前なんて」

「そんな訳にも……」

 確かに、高校に来て初めて話した相手、少しでも仲良くなっておかないと心細いのは私も同じ。と言っても、友達は多分居たことがない、多分。

渚月なづきで良いです」

「下の名前は?」

「別に知らなくても……」

「思い出した」

「早いですね」

 これは、授業中の会話。

夏乃かのっ!」

 声音の調整が苦手なのだろうか。周りの視線が少し痛い。

「ごめんなさい」

「大丈夫ですよ」

 少し吃驚したけど。

「それじゃあ、また後で話そうね」

 笑顔でこちらに言った。こういう会話すら慣れていない私は、調子を狂わせながら頷いた。


 不思議な人も居るものだ、と。

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