18話『不死の少女は訴えた』

 吸血鬼ヴァンパイア獣人セリアンスロープ屍鬼グール幽魔ゴースト魔獣ビースト、等。


 総称「怪異エネミー」――細かい亜種を含めれば、種族数は百を超えるだろう。 

五百年前に突如として発生した怪物たち。人類は存亡を賭した戦いを余儀なくされ、その命運は一人のハンターに託された。


 そのはずが……


「エルザ、大事な話が三つある」


 拠点セーフハウスのソファーでくつろぐ白髪の少女へ、黒コートの代行者ハンターは淡々とそう告げた。

 ノア・イースヴェルト。史上最強の怪異エネミーハンターとして知られる男だ。


「一つ目だ。三日前、大量の屍鬼グールを倒した件で、その報酬を記した小切手が消えた」


「ふむ? 無くしたのか?」

「俺の机の中に入れていた。そして昨夜、何者かが机を漁った痕跡がある」

「なんと。泥棒とは物騒だな」


 エルザと呼ばれた白髪の少女が、ソファーに腰かけたまま首を傾げてみせた。

 可憐で可愛らしい少女だが、その正体はかつて史上最凶の大敵と恐れられた怪物だ。今はわけあってノアと同行しているのだが……


「そして話の二つ目」

「うむ。何だノア、言ってみろ」

「今朝から部屋に見慣れないものがあるな。お前の座ってるソファーだ」


 エルザの座っているのは新品の特注ソファー。今朝方に届いたものである。さらに彼女の着ている上着も新品で、胸元には大きな宝石のついたネックレスまで。

 いずれも、ノアが昨日まで見たことのない品ばかり。


「昨日の夜に小切手が消えた。そして今朝、この拠点セーフハウスでお前の見慣れない私物が増えている。俺はここに奇妙な一致を感じるが?」

「ただの気のせいだぞノア、むしろ今は、小切手を盗んだ泥棒を見つけるべきだ!」


 凜としたまなざしで白髪の少女が立ち上がる。

 いかにもな白々しい様子で腕組みして。


「ノアの小切手を奪うとは不届きな泥棒め。許せないなノア、この件は私に任せておけ。きっと犯人を見つけだしてみせる!」

「……そうか。そして最後の三つめの話だが」


 ノアが取りだしたのは、小型の映像機だった。

「監視カメラだ。昨夜のうちに仕掛けておいた。小切手を盗んだ犯人は、小切手を探すのに夢中でカメラに気づいていなかったらしい」


「…………カメラ……だと!?」

「犯人の姿をこの場で流してみせようか」


「――――――」


「何か言うことは?」

「……ず、ずるいぞノアっ! 私に無断でカメラを仕掛けるなんて犯則だっ!」

 完全敗北した少女は、顔を真っ赤にして叫んだのだった。




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