第01話 来客

それは、いつもと変わらない日でした。


変わらない空、変わらない雪

変わらない大地、変わらない海

変わらない寒さ、変わらない私


300年間繰り返してきた

いつもと変わらない日でした。



「……あら」


永きにわたり眠っていたこの地に、珍しい来客のようです。


あれは、人間でしょうか?エルフでしょうか?

たくさんいらっしゃいますね。


では、おもてなしの準備をしましょうか。

失礼のないように。



―― 波が打ち寄せ心地よい音色をかなでていた入り江でしたが、今は汚らわしい喧騒けんそうに包まれています。


五つの船から桟橋さんばしが降ろされ、ぞろぞろと、人間がこの地へ上陸し始めました。

その小汚ない足で。


一番、大きな船の桟橋さんばし付近に人間が集まり出しました。


この船団のリーダーが下船なさるのでしょうか?

皆様、綺麗に整列なさって直立不動で下船口を眺めています。


人間のこういった様式は、とても退屈で仕方がありませんね。


私は広場の中央で、その様式が終わるのを待たされるようです。


「……」

リーダーだと一見して解りました。

彼女だけオーラが違いますね。


ゆるくふんわりとウェーブした桃色の髪は、三つ編みポニーで背中に流し、その頭には綺麗に輝く、小さなクラウンを乗せていました。


格式高い気品の中にも、可愛らしさを備えた髪型ですね。


まだ、お若く…20歳くらいでしょうか。


瞳は大きく、桃色…子供のようですが、不思議と、意思の強さを感じさせる瞳でもあります。


あまり陽に当たらないのでしょうか?肌は他の人間より白く、背丈も160cmほどと高くはありません。


彼女がまとう法衣も、他の人間とは異なり

彼女だけが黄色を基調としたころもになっています。

左胸で縦、横にクロスしている赤いラインは、皆様共通のようです。


「……あれは!?…そうですか…」

なつかしい……

彼女が右手に持つのは、《ノアの杖》

先の大戦では、私も良く助けられましたね。

しっかりと受け継いでいたようで安心しました。


彼女は整列した人間達に礼を行い、そしてこちらを見据えました。


やはり、意思が強い瞳です。

しっかりと私の紫紺の瞳とぶつかり、逸らすようなことはありません。


彼女は付き添おうとする大人達に、手を掲げ静止させたようです。


一人でこの広場に、いらっしゃいました。


彼女は美しく、頭を下げました。

「私は、カメリア教団の教皇…

宮崎日向みやざきひゅうが》と申します」


私も人間の様式に付き合いましょうか。

「これはこれは、ご丁寧に《光の巫女》様」


私は右手に持っていた《イブの杖》を横にして、頭を下げ、言いました。

「私は……

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